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ランクⅢ初戦

 アリエッタが俺の付き人になったと言う事実はあっと言う間に広まったらしい。

 次の日試合だからと誰も連れずに会場へと向かったのだけど、妙に視線を感じてセルリックに聞いたところ、そう教えてもらった。

 で、噂が噂を呼んでいる状態らしいとも教えてもらい、また悪名が増えたらしい事に気付いてしまう。


 まっ、エリーの事が知れ渡らずにすんでいるのもそのお陰との話だったので、結果オーライって事で良いのだろう。

 元々俺の噂なんて酷い物ばかりだからな。

 後は、エルフ族で数世代に1人と長い年月が過ぎているのも良かったっぽいのかな。うん、下手に注目浴びて危険が迫るとかは気にしなくて良いな。

 アリエッタがいる以上そもそもが無用な心配かもしれないけど。


「貴様、俺らのアイドルにとんでもない事をしてくれたなぁ。

 前言撤回で必ずぶち殺してやるから、今のうちに天に懺悔でもしておくんだな」


 考え事をしていた俺を、昨日のハゲ頭がすれ違いざま罵っていく。

 なるほど、アリエッタってアイドルとか言われてたんだな。まぁあの容姿ならば納得出来る。別に目立って悪い事なんかしなけりゃぁ人気が出て当たり前だろうからな。


 ハゲ頭の対応に同じ男として思わず納得しつつも、あんな小物じゃない奴が釣れたらと思うとほんの少し憂鬱になる。

 あー、魔力封じの腕輪さえなけりゃぁなぁ。最悪の場合も想定しとかないといけないな。

 今のところ何も反応がないのが逆に不気味でもあり、ついポリポリと頭を掻いてしまった。





「本日の第16回戦ー!」


 どうやら対魔物戦と違い、対人戦だと審判が付くらしい。

 まぁ、確かにこうやって盛り上げてくれたりしてくれた方が良いのだろうし、魔物戦じゃぁ審判と闘士との区別がつかない奴らも多いので納得だ。

 自分の名前と相手の名前が高らかに響き渡るのを確認しつつ、観客の反応を見てみる。

 さて、あのハゲの時の声援は凄くて俺の時は完全にブーイングだったのだが、どう判断したものか。アリエッタの件が絡んでないなら素直に推測しやすいのだが、考えても分からない物は考えても仕方ないか。

 ともかく、さっさと終わらせてアリエッタに質問するのも良いだろう。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ふむ、雄叫びを上げて突っ込んでくるハゲ頭。

 こちらの獲物は短い剣のみで、あちらは巨大な戦斧。

 何やら今日教えて貰えたのだが、自前の武器防具は自分のファイトマネーから捻出せねばならないらしく、そうでなければ俺が2戦目から扱っていた剣のみになってしまうとの事だったが。今までのファイトマネーで貯まった金額を聞いて、新たに武器を新調するのは諦めざるを得なかったのだ。

 いや、あそこまで少ないとは思わなかったなぁ。予想の半分以下なんだからな。まぁ、普通にランクなしの報酬を聞いたら、その丁度10回分だったし、納得してるけどさ。まさか今日得られる金額の方が遥かに多いとかね、せめてそのくらいあればただただ頑丈な大剣くらいなら買えたのになぁ。


 つらつらと考え事をしつつ、ようやっと射程範囲に入ったのか戦斧が振り下ろされる……あー、これって逆に頭に血が登りすぎて単調になっているパターンだな。

 脱力が上手くいってないせいで、スピードも遅いし。そんなものをちょっと横から力を加えてやって逸らすのは非常に簡単だった。

 で、轟音を立てながら戦斧は地に叩きつけられ、予想外だったのだろう唖然とするハゲ頭にすっと1歩踏み込みそのまま鎧ごしに鳩尾を蹴り抜く。


 鋼の鎧が砕ける音と右踵に確かに感じる感触。

 後ろに飛んでダメージを逃がす事も出来なかったようで、ハゲ頭は少しずつ後ろによろけた後吐瀉物を撒き散らし地に沈む。

 勿論汚れたくなかった俺は、さっさと後ろに引いてボロ服を直す。

 うん、このランクなら今の武器で十分だし、先ずは防具からだな。無しだと強制的にまたボロを着なきゃいけないとか、ただの罰ゲームだよ。


「俺の、勝ちだぁあああああ!」


 何やら静まり返ってしまった為、さっさと自分で宣言する。

 と、初戦の時と同様の反応が返って来る。

 うむ、なんだかんだこうやって結果が付いてくれば良いのだろう。エンターテイメントって奴だな。


 ともかく、俺のランクⅢでの初戦はこうして終わったのだった。




「お兄ちゃん! お帰りなさい!」


 他の面々がお帰りなさいませご主人様と頭を下げる中、1人そう大きな声で言いながら抱きついてくるエリー。

 そのまま抱き上げつつ皆に改めてただいまと口にする。

 まぁ、このままエリーは自由気ままに成長してくれれば良いと思う。

 多分シンディーやファニーはエリーにも習わせたかったのだろうけど、うん、アリエッタに意見を押し通すなんて無茶だろうからな。


 とは言え、礼儀とかマナー等の大事さも知っているつもりだし、時と場合で使い分けれる程度には教えていこうと思う。

 何よりエリーの為になるしな。


「お兄ちゃん今日勝ったんだってね。おめでとう!」


「ああ、ありがとう。まっ、俺にかかりゃぁ楽勝だったよ」


 シンディーはお茶の準備を。ファニーはその手伝いに向かう中アリエッタのみその場にとどまり口を開く。


「まぁ、当たり前だな。あれを見た後だとこのランクどころか私のランクででも問題ないだろうし」


 その言葉が予想外過ぎて、思わず聞き返してしまう。


「はぁ? 流石にそこまではいかねーだろ?

 これあるし」


 魔力封じの腕輪を見せれば、何故か不思議そうな顔をされてしまう。

 いやいや、これ以上説得力あるのってないと思うのだけど?

 そう思って更に言葉を重ねる。


「いや、だってこれ高価な奴じゃん」


「……う、うん。なるほどな。

 となれば、……いや、それでもランクⅢ程度じゃ話になるまい。

 どうだ、ファイトマネー跳ね上がっただろう?」


 何やら物凄い複雑そうな顔をしてたなぁ。まだ何か言いたそうだったのだけど、首を振って話題変えて来たし。

 しっかし、ファイトマネーねぇ。あんまり面白くない出来事があったので、思わずエリーの頭を撫でて癒しを求めてしまう。


「増えたのは増えたが、殆どこの部屋の借金で消えたぞ」


「は?」


 ポカンと口を開けるアリエッタ。あぁ、やっぱり普通は違うのか。


「いやいや、ランクⅢになれば個室をタダで得れる権利があるのだが。

 一体どういう事だ?」


「いやー、なんかさ、俺奴隷闘士じゃん?

 で、しかもランクすっ飛ばしてⅢになったからこの部屋は借金でって事になったんだよ。

 地味に痛い真似をしてきやがってとは思ったけど、まぁ返済方法を聞いたら我慢出来る範囲だったし、無駄な争いをする必要もないだろうって我慢したからな。

 それでも、ランクなしの時よか手元に残る金額は増えてるし。後30回も勝てば完済さ」


「いやいや、それは文句を言うべきだろう。

 いくら奴隷闘士とは言えランクⅢ相手に非常識過ぎる。

 何故我慢なんてしたんだ?」


 呆れたように言うアリエッタ。

 あー、事情知らないっぽいな。割と自分がなんて言われているか無頓着なタイプか?

 そう言えば、エルフって見た目ってあんまり重視しないんだっけ。じゃぁ無理に教える必要が無い事は黙っておくか。


「そりゃぁ俺は誰も手放す気はないからな。

 あそこで文句を言えば必ずその事にも突っ込まれただろうし、だからさっさと要求飲んだんだよ。

 肩透かしされたような顔してたけどな」


 実は、戦闘が終わるとすぐにオーナー達が集まっていると言う場所に連れて行かれたのだが。いや、胸糞悪くなるし思い出さないでおこう。

 いやー、エリー撫でてるとほんと癒されるわ……あれ? なんかアリエッタが何か言いたそうにこちらを見続けてるな。

 俺が視線を合わせると、待ってましたとばかり頭を下げる。


「私達の為にありがとう」


「あ、いや、正直殆ど俺の為だからな。

 可愛い女の子や綺麗な女の子に囲まれるとか、男冥利に尽きるし。

 シンディーもファニーもだけど、気にするなよ」


 あら、なんか少し照れるなぁ。

 うーむ、中々スマートには出来ないものだ。

 照れを隠す為に、俺はさっさとエリーを抱いたままテーブルへと向かうのだった。

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