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予想外

 ただいまと口にしながら自分の部屋の扉を開ける。

 そして、閉める。……え? まったく見覚えのない人が掃除してたんだけど、誰だ?

 おかしい、この部屋にはシンディしかいない筈。と言う事は部屋を間違えた?

 そう思って辺りを確認したのだけど、やはり間違えていない。


 ふむ、訳が分からん。


「お兄ちゃん、部屋に入らないの?」


 小首を傾げて聞いてくるエリーの頭を撫で、さてどうしたものかと思案する。

 ちらりとその後ろを見ればアリエッタも付いて来ている。まぁ、アリエッタはどうしてもと願い出て来たからだけど。

 執事服も私も最後まで見届けますとか言ったけど、それで? って聞いたら着替えてきますって別れたからな……まさか、後で俺の部屋に来る気か?

 いかん、考えがそれてる。今の問題は部屋の中の女の子だよ! ぱっと見俺やシンディと同じくらいの年齢に見えたから10代半ばから後半くらいだろう。

 そういや居るって事実ばかりに目が向いて今更気が付いたけど、赤髪ならばこの国の貴族じゃん。ますます謎が深まるばかりだ。


「いやー、入るつもりだったんだが。知らない子が元気に掃除してたから思わず部屋を間違えたのかと思ったんだ。

 間違えてはいないようだけど……訳が分からん」


 素直に気持ちを吐露すれば、エリーも不思議だねーっと言いながら小首をかしげる。

 そんなエリーの頭を撫でてやってると、アリエッタが口を開く。


「……可能性の話だけど、貴方の新しい付き人じゃないの?

 もしくは貴方を引き込みたいと思っている有力者の差金とか。

 何にしろ、ここじゃぁ部屋に突然新たな付き人がいるのって不思議な事じゃないわ。

 付き人なんか要らないって断言してる私の所ですら来るくらいですもの」


 なるほどと思うものの、多分違うだろうと首を振る。


「いや、ゼロじゃぁないだろうけど、物凄い可能性は低いと思う。

 何せ悪名高い俺が白髪のエルフを引き取ったってだけで、関わりたくないと思うか少なくともしばらくは様子見するのが妥当じゃないかな。

 まっ、エリーの今の状態が知れ渡ればどうなるか分からんがね」


 俺の言葉を受け、エリーに視線を向けて何やら考え込むアリエッタ。

 まっ、俺のセリフは改めて言わなくとも分かってはいたんだろうけどな。だって、じゃぁ他の可能性はと問われれば何も浮かんでこねーからな。



「ともかく、本人に聞けば分かるか」


 呟いて扉を開けて――。


「お帰りなさいませご主人様」


 綺麗にハモって俺を出迎えるシンディーと謎の女の子。


「お、おう。ただいま」


 思わず動揺が口に出てしまったのだけど、ふむ、結局新しい付き人って事か?

 そう思って口を開こうとしたのだが、その前にシンディーが伝え始める。


「こちらの方はご主人様の奴隷になります」


「ご紹介に預かりました、ご主人様の奴隷でございます。

 今後よろしくお願いいたします」


 ……、えーっと。いきなりすぎないかい?

 思わず後ろの2人を見れば、エリーは俺と同じくポカンとしてるし。

 アリエッタは別に普通か。って事は、こう言う事これからしょっちゅうあるとか? 俺は奴隷持ちたいとかないし、流石に困るのだがなぁ。


 シンディーは挨拶が終わると頭を上げていたのだが、思わず少しばかり沈黙してしまったと言うのに彼女は頭を下げっぱなしだ。

 うーん、まぁ、ともかく話すか。


「意味が全く分からないのだけど。先ずは名前を教えてくれないか?」


「はい。先日までの名前はアニラエルと申しておりました。

 しかし、まだご主人様に名前を頂いておりませんので、今は名前はございません」


 いやいや、強烈すぎるだろう。勘弁してくれ。


「……じゃぁ、今後も以前と同じ名前を名乗ってくれ」


 と、弾かれたように顔を上げ、目が合ったと思ったそばから慌てて頭を再び下げられる。


「それは、……申し訳ございません。不可能です」


 ブルブルと震える華奢な体……あー、どうするかねぇ。判断が全くつかないし。

 あ、貴族って事は、家名含め過去の名はもう名乗れないって事か?

 ちくしょう、もっと情報くれ。

 ええっと、アニラエルの愛称ってファニーだったっけ? まんまでダメならアニーとかラエルとかにするか。


「あー、じゃぁファニーもダメなのか?」


「いいえ、それは大丈夫です」


「それじゃぁ君の名はファニーっで決定。

 んじゃぁ、後はシンディーに何すれば良いか詳しく聞いてくれ。

 シンディー、よろしく頼む」


 俺の言葉に再び唖然とした表情で顔を上げるファニーと、頷くシンディー。

 今度は驚きが過ぎたのか、頭を下げずに俺を見つめ続けている。

 

 思わず苦笑いが浮かぶのを自覚しながら、アリエッタと話す為テーブルの方へ移動する。


「お、お待ち下さいませ!」


 呼び止められ足を止めれば、目に涙を浮かべたファニーの姿が視界に入る。

 って、何で涙浮かべてんの!?


「な、何故何も聞かないのですか!?」


「いや、だって本当は聞かれたくない事だろ?

 色々覚悟して来て来たかもしれないけどさ、正直俺は話したくない事を無理に話させたいとは思わない。

 だから、何もかも話す覚悟じゃなくて、自分から話せる範囲で話す準備をしててくれ。

 それに、お客さん来てるから、先にそっち済ませたいしさ」


 言い終えると泣き出し、その場に崩れ落ちるファニー。

 あー、なんとなく想像出来たけど、多分色んな感情押し殺してたのが、俺の言葉が予想外過ぎて溢れてしまったって感じかな。

 少しでも落ち着いてくれればと思い、近づいて頭を撫でる。

 ほっ、最初こそビクつかれたけど、避けられたりはしなかったな。


「まぁまぁ、そんな状態じゃぁ話せないだろうし、先ずは気持ちを落ち着かせような。

 シンディー。変更してお茶をファニーに飲ませてやってくれ。お前が淹れてくれたお茶、滅茶苦茶美味かったしいい気分転換になるだろう」


 そう指示を出せば、かしこまりましたと答えファニーに寄り添う。

 うむ、後は任せて良いかな。


 と、服を引っ張られ振り返れば不満そうなエリーの顔と向かい合う。


「お兄ちゃん、私も撫でて!」


 おう、いっちょ前に嫉妬とかか?

 いやはや、可愛いもんだよな。


「おう、任せろ」


 痛くならない程度に、多少乱暴に頭を撫でくり回す。

 きゃーと嬉しそうに声を上げるエリー。そのまま体を抱き上げる。


「さ、それじゃぁエリーは特等席で話聞こうな。

 そう言う事だろ?」


 頷くエリーを見届け、アリエッタに聞けば神妙に頷かれる。


 さてさて、こちらはおおよそ検討が付くけど。どう対応するかは決めかねてるんだよなぁ。出方次第で行くしかねーよな。


 それにしても、流石にファニーの事は予想外だった。

 まぁ、元々は4人引き取るつもりだったし、3人になってもまだ1人少ないくらいだ。

 これは頑張って稼がなきゃな。

 アリエッタとの会話に臨む準備をしつつ、こっそり胸の奥で決心したのだった。

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