山仲スズ
十二月二十二日。昼過ぎ。
もうすぐ、一年が終わる。
冬至を迎え、冷たい風が肌をさす。
寒さで頬が赤くなる。
今日も誰かが、手袋とマフラーに厚いコートを着て
白い息を吐きながら、いつもと変わらない1日を過ごしている。
日本中の誰もが今、肌に同じ空気を感じている。
同じ空気の中で
この大きな場所で、
共に暮らしている。
季節が、空気の温度を変えても
人は皆同じように、寒がったり、暑がったり
温かく感じるんだろう。
それは
私達生きてる人間の、普通なこと。
「普通じゃない」と呼ばれる私も、
あの事件が起きるまでは、
その中の一人だった。
冷え切った街中の、とある救急病院。
色んな音が忙しなく飛び交う都会の街から1k程外れたところに、その病院は建っている。
後方には大きな湖が広がっていて、入院患者達が安心して過ごせる静かな場所だ。
最近塗り替えられたばかりのまっさらな白が、来院してくる人々の目に止まる。
今日も、受付のフロアには
診察を待つ人で溢れていた。
そんな、いつもと変わらない昼過ぎ。
空は灰色の雲で広がっていて、どんよりとしている。
通院者の車両で埋め尽くされた駐車場に
見慣れない一台の車が入ってくる。
荒々しくハンドルをきり、ジャリジャリと大きな音を鳴らすと、病院の入り口の前で停車した。
助手席に座っていた一人の人間が車から降りてくる。
短髪でスラッとした背丈に、スーツの上から黒のコートをはおっている。
見るからに、40代後半くらいの男性だ。
男は早々と病院内に入ると
真っ先に受付のナースの元へ駆け寄っていった。
そして、スーツ内側から何かを取り出し
目の前のナースにそれを広げてこう言った。
「警察です。」
静かな病棟の廊下に、先ほどのナースと
警察と名乗る男の足音が響き渡る。
二人が歩く左右には、201…202…203と、病室がずっと続いている。
長い廊下の中間あたりで、ずっと先頭を歩いていたナースが足を止め、男に振り返る。
「こちらの病室になります」
警察はナースに軽く一礼すると
その病室に足を踏み入れた。
「……」
男の目に入ってきたのは
頭に包帯を巻いて、静かに眠っている
「山仲スズ」、ーーという名前の女の子。
すると、男の背後から
もう一人の刑事が
静かに病室に入ってきた。
男は女の子のほうを見たまま
「この子で間違いないな」
「はい。
事件の被害者である、
山仲スズさんで間違いありません」
そう話していると、
さっきまで清らかな姿で
眠っていた女の子の瞼が
ゆっくりと開いた。