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第三章 『カマキリVS謎の美少女』 4

 ――その後。

「それは間違いなくいさおに惚れてるわね」

「やっぱりそうなのかっ! ゴリラ的……女子的に見てもそう思うか?」

「今、不自然な間違い方をしなかったか?」

「別にゴリラなんて言って、」

 ボコッ。

「……で、それは本当なのでございましょうか、姉上様」

「ああ、間違いないな。この世で最も女らしいあたしが言うんだから間違い――」

 ボコッ。

「――ないわ」

「なんで今、俺は殴られたんだよ!」

「自分で言ってて恥ずかしくなったからに決まってるじゃない」

「……決まってるのか?」

「決まってるのよ」

 余裕の笑みを浮かべたまま大きく成長した胸を張る姉。

 ――どこの世界に照れ隠しで弟を殴るという常識があるのだろうか?

 実に理不尽だ。

「だけど、かわいそうにね。好きな人なんて、恋の魔法が解けたら化け物に見えるのに……」

 姉の寂しげな呟き。あまりいい恋愛をしていないらしい。

 それにしても、ひどい言い草だな。――じゃあ、常に化け物の姉をどう説明するというんだ? これこそ、悪い魔法にかけられてしまったんじゃないのか?

 ……まあ、確かに恋の魔法は恐ろしいこともある。この前の俺のように冷静な判断ができなくなったり、姉の言うとおり、時に化け物を生むこともある。愛しているがゆえに、化け物になってしまうことがあるのだ。それは、なんとも悲しいことだな。

 ――だが、それでも俺は恋をしたい!

 誰かに本気で愛されて、誰かを本気で愛したい!

「よしっ、じゃあすぐに告白しなさい!」

「えっ? 話が急すぎてよくわからないんだが、どうして俺が告白しないといけないんだ?」

 今の話の流れからいくと、告白する方ではなく、告白される方なんじゃないのか?

「だって、その子、あたしに少し似てるんでしょ?」

 現在、そういう理由で恐ろしい姉の意見を聞かせてもらっているわけなのだが、

 ――ゴリラとサル……確かに似ているな。

「おう、そっくりだぜ!」

 特に暴力的な目とか、乱暴なとことかがな。

「じゃあ決まりね! 即決定だわ! 結婚までしてもいいくらいよ」

「ちょっと待て……どういう基準だとそうなるんだ? 姉貴に似た奴と結婚するなんて考えるだけでもゾッと――」

 グビュビゴボッ。


 ――中略。(ご想像にお任せします)


「……わかりました。……精一杯、告白させていただきます」

「よろしい」

 みなさんは調教というのを知っているだろうか。また、ゴリラに調教される哀れな人間の気持ちを知っているだろうか。

「じゃあ、いさお~。アイス買ってきて」

「承知!」

 ――あぁ、姉って素晴らしい生き物だなぁ。

 夜道を裸足で駆ける俺の目からなにかが零れ落ちていた。

 この後のことはもう忘れたい。泣きっ面に蜂……いや、泣きっ面に不良だった。



 翌日、朝のホームルームが始まる前に、屋上で。

「こんなとこにあたしを連れて来て、いったいなんの用よ」

 昨夜と違って春乃は相変わらずツンツンしている。改めてすごい変化だ。

 春の心地よい風が春乃の美しい髪をさらさらと撫でていく。

 ――やべ、昨日の感触がよみがえってきた。なんか妙に意識しちまうぜ。

 ドキドキと胸が高鳴る。

「おまえを呼び出したのには理由がある。……実は、おまえに言いたいことがあるんだ」

「な、なによ、急に改まって……」

 春乃は恥ずかしそうに視線をチラチラと俺に向けたりそらしたりを繰り返していた。

『コクハクスルノダ』

 あぁっ、頭が洗脳されているっ!

 俺はまっすぐに春乃の目を見つめ、真剣な表情で言った。

「……お、俺は、」


 ――姉貴が大好きだ!


 一瞬の静寂。

 涼しい風が吹き、

「……はぁっ?」

 彼女が大きく歪んだ顔を見せた。明らかに怒りの表情である。

 そこで俺は気がついた。

 ――――せ、セリフを間違えたぁぁぁぁ――――っ!

 しまった。俺はなんでわざわざ女の子を屋上まで呼び出していきなりのシスコン宣言をしてんだよ! これじゃあ、ただの変態じゃねえかっ! オカマの上にシスコンって、キャラが濃すぎてもうわけわかんねえよ!

 姉の洗脳が効きすぎたようだ。

「……それをあたしに言ってどうしたいの?」

 おうっ! まっとうな意見だぜ。

 どうしよう。ここから春乃を関係させていくわけだが、そして、春乃に告白するというミッションも残されているのだが、俺はいったいどうすればいいのだろうか。

 考えることコンマ一秒。

 ――完璧だ。やはり俺って天才じゃね?

 俺はニヤリと笑みを浮かべてからビシッと指を春乃に向けて、

「お、おまえが俺のことが好きって言うんなら、姉貴のことは諦めてやってもいいんだぜ!」

 ズバッ!

 っと言ってやった。ふっふっふ、春乃の奴、感動のあまり言葉を失ってやがるぜ。まったく、俺の優秀さには困ったもんだな。一瞬にしてこんな妙案を思いつくんだからな。

 感服しきっているのか春乃は小さく息を漏らして、

「あんたのバカさ加減には驚かされるばかりだわ」

 思いっきり呆れていた。

「もう一度言っておくけど、あたしはあんたのことなんか、これっぽっちも好きじゃないんだからね! もう、わけわかんないことしないでよ! ……ったく」

 スタスタと歩いて扉から校舎の中へと帰っていく彼女の背を見て、こう思った。

 ――春乃は本当に俺のことを好きじゃないんだな~。

 と。

 彼女のあれは恥ずかしさとか、そんなんじゃない気がする。……今すげえ、恥ずかしいんだけど。なぜ好きでもない相手に二度も告白してんだろ、俺。

 一人ぼっちの屋上に、朝のホームルーム開始を告げるチャイムがむなしく鳴り響いていた。

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