♯1
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いやいやいや!! 僕は絶対に人間を差別したりしないって!!!何てったって神なんだから・・・なんてね
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目が覚めると、知らない天井が見えた。・・・あれ?天井って・・・天丼?てんじょう?・・・あれ・・・?
よく考えたらこのときからおかしかったんだ。俺の・・・あれとかこれとかそれとかがね。
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そこには町があった、川があった、公園があった、人がいた。そう、あくまで普通の町。そう、普通すぎて、普通じゃなさ過ぎる町。
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あたしはここから帰るつもりはない。べつにここが好きって訳でもないけど。
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あれ。ここは…どこだろう…。
霞がかってる視界のその先にはまだまだずーっと霞んでるみたいな白い天井。
びっくりするほどに回りは静か。
触れてるのは毛布の感触。
少し鼻をすすると消毒液の臭いがした。
うん、きっと保健室だ。ここは。
きっと僕は授業中…あれ?
ここは、どこだ?僕は、だれだ?
★
「ねぇねぇ烈、あの男の子どうしたー?」
明るい少女の声。そして、
「あー、起きねぇから保健室に寝かしといたぞ。」
それに答える烈と呼ばれた青年の声。
「れっくんねー襲っちゃったんだってー!!!」
少女に向かって大声で叫ぶのは烈の横に座った青年。
落ち着いた雰囲気の烈とは打って変わってやんちゃ坊主のような雰囲気を放っている。
「は…シゲ、オマエは黙っとけ。」
突っ込む気すらないとでもいうような烈の反応を見て膨れる彼に少女が追い討ち。
「そうだよ 蒼、れっくんは臨ちゃんおんりーなんだからあ!!」
「ちょ…、あぁもう和も黙れ」
呆れたような烈の横でニヤニヤとろくでもない笑みを浮かべる蒼と和の2人。
その2人を横目でちらっとみた烈はため息をひとつ。
そして、
「そろそろあの少年も起きただろ…お前ら邪魔だから少年見て来い。」
蒼と和の2人は顔を見合わせるとまるで聞き分けのいい子供のように楽しそうに笑って
「「はーい」」
と言って駆けていった。
★
僕は…?
ここは…?
★
「おっはよーーう少年!!!」
そう言ったのは蒼だ。
「もーう蒼声でっかーい…」
そして和が後ろに続く。
「あは。何言ってんの。ベッドの上じゃ和の声のほうが…」
「黙れ。童貞の癖して。」
「和だって処女じゃーん。」
「14で処女って普通だよう…」
そんな何の脈絡もない会話を続ける2人を、2人の目的?であった少年はぼーっと眺めている。
明るめのオレンジに近い茶髪を短めに切りそろえた彼は、2人の会話内容以前にもはや何もかもを理解していないような表情である。
「あ、おはよう!」
不思議そうな表情の少年に蒼より先に気がついた和はいつものようにニコニコ笑って少年に言った。
「・・・」
無言で和を見詰める少年に和はもう一度。
「お・は・よ・うッ!!!!」
そんな2人を楽しそうに見つめる蒼。
そして、
「…おは、よ、う。」
2人にあいさつ、と言うよりも自分の声が出ることを確かめるような具合で少年は和に返した。
それに満足したのか和はうれしそうに笑って、
「よしっOK!!!おっはよーう!!!」
とまた返した。
その一部始終を見届けて、少しつまらなそうになった蒼が後ろから和の髪の毛を弄くりながら、
彼に声をかけた。
「こんにちは、俺は蒼。よろしく。じゃあ、一応、烈に言われた事聞いといてね、和。」
そう言って、和の髪の毛を引っ張って蒼は出て行こうとする。
それを和はチラッと見て、一瞬不服そうな顔をしたが、まぁいいか、という風に少年に向き直った。
★
「よしー。じゃあ、まず、はじめまして。私は、茶本 和。14かな。君の名前は?年齢は分かるかな。」
そう聞かれて俺は少し考える、いや、本当は起きたときからずっと考えてるんだ、俺の名前…は…?
「分かるっ?分かんないっ?どーっち?」
目の前の女の子は大きな声で俺に聞く。
聞き覚えの無い声だ。・・・多分。
「ねーえ!!!君、起きてるっ?」
「え、あ、の、分かりません。名前。」
俺はそう答えた。だってどんなに考えても分かりそうに無かった。
すると目の前の女の子はその答えが当然だとでも言うように、ふーん、と笑いながら手元の用紙に何か記入していた。
そして俺たちはその後何分かそんなやり取りを続けた。
和と名乗った少女が俺に質問して俺は分からない、と返す。
本当に質問したいのは俺のはずだが、そのときの俺はそこまで頭が回らなかったのだ。
「よしっOK。ご協力ありがとーございましたっ」
質問はすべて終わったようだった。
和はぶんっというような勢いで頭を下げた。そして、
「ちょっと報告してくるね。そしたら一緒に外にでてみよう!!」
「え、あ、はい。」
本当は外に出ることなんかより自分の名前のほうが気になったが俺はまだ初対面の和と落ち着いて話せる余裕は無かった。
★
「烈~ただいま!!!」
「おう、お疲れさん。どうだった?」
少年の記録用紙を持って和は烈の部屋に来ていた。
「はい。これ。少年の記録用紙。」
和は烈の質問には答えずに用紙を手渡す。
烈はその用紙に目を通すと言った。
「名前も年齢も分かんなかったんだ。」
「うん。みたい。」
烈は少し意外そうに、でも楽しそうにその用紙を眺めた。
そして
「お。」
うれしそうに目を細めた。
「すごいでしょう?その質問だけしっかり答えてくれましたー!!!」
烈の反応を見て、和もうれしそうに言う。
2人の視線の先にはこう書いてあった。
【Q 部活はやっていましたか? A 剣道部】と。
★
しばらくして、和は先ほどとは違う紙を持って戻ってきた。
「ただいまっ!!巴田 柚くんっ♪」
「え。」
和はあきらかに俺のことを見ながら良く分からない名前を呼んだ。
「君の名前は、ともえだ、ゆず。15歳、だってさ。」
俺はすぐに把握できなかったが、自分でも名前が分からない今はこの名前が自分の名前だと把握しなければならないのだった。
「・・・・・・」
俺が黙っていると和はうれしそうな声はそのままに、泣きそうな笑顔をうかべて俺に言った。
「君はね、死に損ねた…っていうか世界から『いらない』って捨てられた人間なんだよ。」
と。
つづきます。