05,生きながらブルースに葬られ
「ザ・ゴスミックス・弁天・バンド」のデビューフルアルバム「サラニスバラシイ」はチャートの1位を独走し、ミリオンに迫る売り上げを叩き出していた。
絶好調のバンドは、
そしてアルバムに伴う東京ドーム5日間公演だが、そのリハーサルが始まってじきにバンド内に亀裂が生じた。
弁天のバックバンドを務める三女神はそれぞれ芸達者で以前より「ザ・宗像三女神」として活動していたが、単なるバックバンド扱いする弁天と反目が生じ、リハーサル中、音の調整に手こずるバンドに対し
「音なんてどうでもいいのよ。お客が聴きに来るのはわたしの歌でバックの演奏なんて誰も聴きやしないんだから!」
と言い放った弁天の言葉についに「ブッツン」と切れ、バンド脱退を決意。しかしレコード会社との契約でコンサートには参加せざるを得ず、バンド内は殺伐とした空気が漂った。
もう一つ悪いのが、演奏に力強いアクセントを付けるために招いた持国天であるが、これがバカテクのギター演奏はもちろん、色白のビジュアル系で、同じ四天王の毘沙門天にも負けないイケメンだった。ウケを狙ってどんどん衣装が派手に、薄着になっていく弁天が持国天にはべたべた甘えて、三姉妹のひんしゅくを買っていた。
チケットは5日間とも完売し、初日の公演がスタートした。
バンドはまだアルバム1枚しか持ち歌がないため、「ザ・宗像三女神」が前座として自分たちの曲を披露した。シンセ主体の幻想的な曲が多く、ポップなパフォーマンスを期待していた多くのお客には退屈に思われたが、音楽性は高く、ちゃんと聴き入るお客もいた。
そして弁天が登場してメインの「ザ・ゴスミックス・弁天・バンド」の演奏が始まるはずだったのだが……、
前座を終えた「ザ・宗像三女神」は演奏を放棄してさっさと楽屋に帰ってしまった。観客同様最初何が起こったのか分からず呆然としていた弁天だったが、メンバーの造反に思い至ると激怒し、だったらかまうものかと、元々琵琶の腕前は抜群だったので自らエレキギターを持ち、持国天とのツインエレキギターのみという変則的なデュオ形式で演奏を始めた。二人ともギターの演奏は素晴らしく上手いのだが、リズムのない演奏はやはりダレる感じがして、しかもこちらもけっこう目立ちたがり屋の持国天がちょくちょく前に出てアドリブのソロ演奏をかますので、イケメンにデレデレしていた弁天もイライラを募らせていき、とうとうギターを床に叩きつけ、アンプに叩きつけ、火花を散らしてショートさせ、「ガンッ」と会場の電気をすべて落としてしまい、ざわつく会場をそのままに、ぶった切りでコンサートを終了してしまった。
当然翌日のライブ評は最悪だった。
あれから怒鳴り合い、つかみ合いのケンカをした弁天と宗像三女神は完全に修復不可能に仲違いし、契約を履行するためにのみ、別々にステージに現れて演奏した。弁天と気まずくなった持国天は宗像三女神の方に客演し、幻想的な曲にギターの音色が気持ちよく伸びて、これは思いがけず良い化学反応を生んでお客さんの反応も上々だった。
一方弁天が登場すると、
彼女はギター1本で弾き語りのフォーク形式を取らざるを得ず、これはすっかり派手になってしまったポップな曲スタイルにはまるで合わず、途中から退場するお客さんが多く、広い会場は白けた雰囲気に支配されていった。
5日間の公演をなんとか終えると、宗像三女神と持国天は新ユニット「鷹となすび」結成を発表。「ザ・ゴスミックス・弁天・バンド」は正式に解散した。
孤軍奮闘ライブをやりきった弁天だがさすがに痛々しく、一人無言で会場を去った。……いや、一人彼女に付き従う者がいた。マネージャーに抜擢された秘書その5である。ここまで来たら名前を付けるのも面倒だからこのまま行こう。
「弁天さん。新しいバックバンドはどうしましょう?」
「うるさいわねえ。もう音楽なんてどうでもいいわよ」
「どうでもよくはないでしょう? 弁天さんは芸能の神様じゃないですか? 音楽捨ててどうするんです?」
「音楽やめる。ついでに神様もやめる。もうふつうの女の子になる」
「じゃあ僕の奥さんに永久就職しませんか?」
「フッ……。それもいいかしら……」
「ああこりゃ相当重症ですねえー? ま、あなたが歌うことをやめるなんてできっこないんですから、ま、バンドのことは僕に任せてください。レコード会社のスタッフと相談して弁天さんの歌いやすいプロのミュージシャンを揃えますよ。なあに、人気なんてすぐに盛り返しますよ。ね?」