03,タトゥー・ユー
弁天はギター(?)四天王の一人持国天をスカウトし、以前から親交のあった「ザ・宗像三女神(むなかたさんじょじん)」を玄界灘から呼び寄せて新バンドを結成。大手レコードと契約して鳴り物入りでCDデビューした。(ザ・ゴスミックス・弁天・バンド「ゴスロリ、ビジュアル系を歌う」)
このデビューシングルは
「『ゴスロリだけど本格派よ?』とキュートなボーカルで歌われるポップチューン。ポップなメロディーにミスマッチにゴシックなオルガンやベースがおどろおどろしく響き渡り、ハードなギターソロが炸裂する、頭メロメロの摩訶不思議なカラフルポップンロック。今聴かなきゃ駄目なのはこれ!」
とFM局でヘヴィーローテーションのヒットとなる。大型CD販売店でのミニイベントも盛況で、フルアルバムの制作も進み、大手プロダクションのバックのない無名の新人としては異例の東京ドーム5日間連続公演も決定した。
さて。
七福神を呼び出してはみたものの、訳の分からないヘヴィメタバンドなんかに成り果てていた神様たちを持て余し、とりあえず若くて順応性のありそうな眼鏡の見習い坊主に世話を一任して、全国各地から集合した高僧チームは解散、それぞれの寺に帰り、内閣官房秘書官たちも公邸に帰り善後策を講じることになった。
宝船は大黒天の打ち出の小槌で小さくしておしゃれな街の十番稲荷神社に係留させてもらって、ふつうの(それでもかなり派手だが)衣装になってもらった神様たちとのんびり浅草寺境内のベンチに座って鳩を眺めながら眼鏡坊主の百遍(ひゃっぺん)はおそれ多くも神様たちに「トップランナー」のようにバンド結成の秘話を聞いたのだった。
バンドのリーダーの恵比寿(ベース)が主に語った。
恵比寿「たしかにね、元々弁天ちゃんのために始めた音楽活動だったんだよね。ほら、弁天ちゃん、元々琵琶弾いてて、歌も踊りも上手いから。なにしろ芸能の神様だからねえー。僕ら七福神って言っても、宝船に乗って釣り竿だの小槌だの団扇だの振ってニコニコしてるだけでしょ? つまんないじゃないの、ねえ?」
ーーなるほど。ところが当の弁財天さんがバンドに不満を持ってるわけですね? 何が気に入らないんでしょう?
恵比寿 (「どうせわたしが嫌いなんでしょう?」とすねる吉祥天を「そんなことないよお〜」となだめながら)「そうなんだねえ。僕たち元々弁天ちゃんを盛り立てるために楽器を始めたんだけど、なんというかその、音楽やるのが面白くなっちゃったんだよね?」
布袋(キーボード)「そうだなあ。最初はもっとクラシカルなものをやってたんだよな? 楽器も生楽器でさ、わしなんかプア〜プア〜って昔の小学校にあったオルガン弾いてたもんな。女子十二楽坊?あんな感じだったかなあ?」
福禄寿(ギター)「ハードになってったんは毘沙門と大黒のせいじゃろうが? わしゃジジイじゃからな、けっこうしんどいんじゃぞ?」
毘沙門天(ギター)「じいさんだって毎度酔っぱらってノリノリで弾きまくってるだろう? ……まあ、俺たちがハードにしていったのは否定できんがな」
大黒天(ドラムス)「つい、熱くなってしまってな」
福禄寿「昔のやんちゃな血が騒ぐんじゃろうて。なにしろこいつら若い頃は相当の武闘派じゃったからのう」
ーーはあ…。それで……、吉祥天さんは? 最初からメンバーだったんですか?
吉祥天(ボーカル)「…別に」
ーー…………………。
(気まずく重苦しい空気が流れ、クールな毘沙門天が説明的に説明した)
毘沙門「元々は吉祥天がオリジナルメンバーで、その頃は別にバンド活動をしていたわけじゃないんだ。途中から弁財天が入り浸るようになって、キャラのかぶる吉祥天が抜けたんだ」
ーーああ、そういう過去の確執もあったわけですねえ。あわわ…(メンバーの冷たい視線に慌てて口をつぐむ)
恵比寿「そうだね。弁天ちゃんが入ってバンド活動を始めたんだけど、吉祥姉さんにも僕らが頼んでメンバーになってもらって戻ってもらったんだよ。ほら、寿老人の分、穴が空いちゃうから」
ーーああ、そうなんですね。寿老人さんと福禄寿さんは元々同じ神様ですものね? 朝鮮から日本に渡るときの入国審査で別人と勘違いされてダブっちゃったんですよね?
福禄寿「そういうことじゃ。稲荷とか猩々とか入れてクレージーキャッツにしようか?ってな話もあったんじゃがな、やっぱり華やかな方がええじゃろう?」
ーーそうですよねえー! 吉祥天さん、お美しいですものねえええ〜!?
吉祥天「………………」(まんざらでもない様子)
恵比寿「だよねえ? イケメンの毘沙門さんと美形兄妹だよねえ〜? うちの三枚看板の二枚だものねえ〜」
毘沙門「弁天はそれがまた気に入らねえんだよな。あいつ、目立ちたがり屋だから」
布袋「大衆的な知名度は圧倒的に弁天の方が上なんだからいいのになあ? あっ、吉祥天ちゃんはセレブなスーパーモデルだから、元々ファン層が違うんだよ」
吉祥天「…どうせ、わたしなんか、弁天と間違われて、『え?違うんですか? じゃあ、鬼子母神さん?』なんて言われるのよ? まったく、失礼しちゃうわ」
布袋「まあまあ。そんなのはワイドショーの芸能ネタしか知らないおばさん連中だから」
吉祥天「わたし、別に、音楽とか得意じゃないし。どうせ、数合わせの補欠だし」
一同「…………………」
ーーあのーー…、それで皆さん、これからの活動予定は? 呼び出しておいて申し訳ないんですが、天界に帰られますか?
恵比寿「それは駄目だよお、僕たち曲がりなりにも神様だものね。出てきたからには福を撒いてあげなくちゃ、メンツに関わるよ」
ーーじゃあ福を撒いてくださるんですか!?
恵比寿「そうだよ。ちゃんとライブやらなくちゃ」
ーー……ライブ…ですか?
恵比寿「うん。武道館!…とは言わないけどさ、君、ライブ会場押さえてよ? 僕ら宝船でどこでも行けるから、人が集まれる場所ならどこでも出張してあげるよ?」
ーー……それは、ありがとうございます……。政府の人に言ったら喜びます。……多分…………。
恵比寿「うん。よろしく頼むよお。盛り上げるからねえ!」