01,ロックンロール
時に西暦201X年、日本は未曾有の不況に喘ぎ国家存亡の危機に陥っていた。
この絶体絶命の危機を救うべく政府は極秘裏に超法規的経済振興策を実行に移そうとしていた。
急げ!政府! 日本が債務超過で国家破綻するまであとわずか!
201X年師走。
東京都台東区は浅草寺において七福神を召喚する密教の秘密儀式が執り行われていた。
ありとあらゆる経済政策に失敗に失敗を重ねてきた日本政府の他力本願の極み、伝説の七福神を現世に呼び寄せて福を招いてもらおうという作戦である。ちなみになんでこれが超法規的施策かというと、日本は政教分離で政府は宗教行事にお金を出してはならないからである。よってかかる諸経費は内閣官房費より充当されていた。
護摩壇が焚かれ、祝詞が読まれ、政府関係者が固唾をのんで見守る中ついに日本国起死回生の秘密作戦が敢行された。
朗々と上がる祝詞の声、弾けるオレンジの炎。空海以来1200年日本密教最高の秘技によりついに堂に黄金の光が満ち、思わず目をかばうまばゆさの中から宝船に乗った七人の神が影を現した。
ドコドコドコドコドコドコ……と太鼓のような雷鳴がとどろき、
ギュワアアーーーーーン……と空を軋ませる暴風が吹き荒れ、
ついに、
天上の女神の声が降ってきた。
「
時空を超えてやってきたあああああ〜〜〜〜〜〜
七福神がやってきたああああああ〜〜〜〜〜
おおういえええ〜〜〜!
」
二人の美人、いや美神が黄金のマイクを握りしめてシャウトしている。ううなんと眩しい御姿。かぶりつきで見上げたいけれど眩しすぎてまともに見れないぞ。眩しく輝く七人の神たちは、金銀の折り紙で折ったようなコスチュームを身につけ、宝船に装着された回転ビームライトをディスコのミラーボールのように反射している。
すさまじき音響にいつしか祝詞の声は消え、日本全国より集められた高僧たちも政府関係者たちも口をあんぐり開けてヘヴィーメタリックな七福神の圧倒的パフォーマンスを見守った。
炸裂するパワー、
痺れるドライブ感、
ヴォーカルは炎より熱く、
ギターはナイフより鋭く、
ベースはまるで地震のごとく、
ドラムは稲妻よりも激しく!
(©WPCR1033 ヴァン・ヘイレン「炎の導火線」)
二人の女性ボーカルは金切り声がすさまじく、世俗に疎い高僧たちとこの手の音楽にとんと免疫のない政府高官たちはなんとわめいているのかさっぱり聞き取れず、そうこうしている内に
ジャンジャンジャア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン、
「イエイッ!」
ジャ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜アンッ。
と一曲終わった。
神たちの見下ろす観客席で拍手したのは若い下っ端職員一人だけだった。