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プロローグ

 街は燃えていた。


 ビルは崩れ、道路はひび割れ、夜空を焦がす炎が地平線の果てまで続いている。かつて人々の営みがあった場所は、今や見る影もなく瓦礫の山へと変じ、赤黒い煙を吐き出していた。


 人の声は、もう聞こえない。

 聞こえるのは、遠くで何かが崩落する鈍い音と、風に混じる不気味な爆発音だけ。世界が終わりを迎えるかのような、絶望的な静寂。


 ——その中で、それは立っていた。


 街を見下ろす、天を衝く山のような巨躯。

 漆黒の闇に紛れるその超質量が、ただそこにあるだけで、周囲の空間を圧倒していた。さらに、その巨体は蠢きながら、体躯の節々から無数の小規模な怪物を次々と生み出し、地上へと解き放っている。その軍勢が、燃える街をさらに蹂躙していく。


 ——その時だった。


 夜空に、一筋の鋭い閃光が走る。

 直後、鼓膜を震わせる轟音と、大気を揺らす衝撃波がこだました。閃光が直撃した地上では、生み出されたばかりの怪物の群れが一瞬にして木端微塵に吹き飛ぶ。その暴風に耐えかねて、近くの半壊していたビルが完全に崩壊し、激しい土煙が舞い上がった。


 爆煙の向こうで、巨大な影が僅かに揺らぐ。


 晴れゆく煙の中から、一つの人影が静かに形をなしていく。

 二本の足で立つ、人型。だが、それは決して人間ではなかった。


 血のように赤い装甲に包まれた、頑強な肉体。

 頭部には、すべてを焼き尽くすかのように燃える紅蓮の双眸。

 その異形は、ゆっくりと、しかし確かな敵意を込めて巨大な怪物を見据える。


 そして、それは咆哮した。


 地を這うような、しかし天まで届くような、人のものではない叫びが夜空を激しく震わせる。

 同時に、その背中から爆発的な炎が噴き出した。凄まじい推進力を得て、一瞬にして加速する。夜空を裂く『赤い流星』となり、一直線に空を駆け上がった。


 その進路を塞ごうと、怪物の群れが羽虫のように群がる。

 だが、止まらない。

 赤い閃光が縦横無尽に走るたび、群がった怪物が肉片すら残さず消し飛んでいく。夜空に幾つもの激しい火花が咲き誇り、その軌跡を彩った。


 なおも加速する。

 目指すはただ一つ。あの巨大な怪物の喉元。


 その時、怪物の巨躯の至る所が不気味に発光し、全方位に向けて極太の熱線が放射された。大気を焼き焦がす熱線の雨。


 しかし、そのすべての隙間を神速の身のこなしで紙一重に回避する。熱線の網を縫うようにして一気に距離を詰め、怪物の足元へと滑り込んだ。


 山ほどもある怪物の巨体をその両腕で掴み上げ——大地をきしませ、力任せに空高くへと投げ飛ばした。


 何万トンという超質量が、重力を無視して夜空へと舞い上がる。


 追撃に移る胸元、そこに埋め込まれたクリスタルが、まばゆい光を放ち始めた。

 胸の奥からせり上がる濁流のような力が、空中に激しいスパークを走らせる。強大すぎる力の余波で、周りの空間そのものが目に見えて歪んでいく。


 次の瞬間。


 夜空を真っ直ぐに貫く、圧倒的なエネルギーの奔流。


 光の柱が天に届いた瞬間、空が消えた。雲が消えた。

 夜の闇を完全に塗り潰し、燃えていた街のすべてが、純白の光の中に染まって消えていく——。

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