スズは巫女だった。
土臭い道のりを歩けば歩くほど、昔の巫女のあの衣装を思い出した。
「ふふふ・・・。」
「あのー。スズさん、不気味です。」
ラゴットは低く笑うスズを見てひいている。
「・・・ふぅ。そうね。昔、私、巫女だったのよ。」
「へ?」
「なんか、とんでもない衣装を着て、長い布を巻き付けて・・・。この泥道を歩けるかしらって思ったのよ。そうしたら、笑いがこみ上げたの。」
スズは、ラゴットに過去の服の話をする。
「いや、服装を想像して頷きますけど。そうでなくて。その不気味な笑いはどうしたのかなー、と。」
「・・・?変だったの?」
スズはラゴットに不思議そうに小首をかしげた。
「い、いやー・・・。うん。」
ラゴットはどもってそのまま適当に頷いた。
スズはラゴットと共に魔物退治を完遂するために山奥まで足を伸ばしていた。ラゴットがついてくる理由を道中で聞きながら森の奥まで着ていた。
ラゴットはやはりドワーフだった。そして、彼はドワーフであると同時に人間でもあるとのこと。なにかしら事情があるらしく、それ以上は聞き出せなかった。スズだって隠し事は色々あるので、深くは聞かなかった。
「ちなみに、魔物を気にしていたけど、倒したい理由でもあったの?」
「はい。俺はその魔物の一部を欲しくて。」
「・・・。うん。材料として使うの?」
「そうっす!」
ラゴットは大きく頷く。
森の奥で夕闇に紛れて、スズは魔導を唱えながら木を切り開き、薪を集めて簡易的に野営地にした。簡易的には見えないのだが、今までのスズだったら、これぐらい出来て当然なのだ。規模を含めても、この世界では明らかに簡易とは言えない。ラゴットももっとお粗末なものを想像していたが、スズの規格外の魔導に呆然とした。
スズが第一世界でやっていたことは、他の世界では当てはまらないのだ。第一世界に集まった人間がどれも規格外なせいで、スズが比較する者がいないこの世界ではどうあがいても過去と同等の事をしてしまうのだった。
夜明け前。ラゴットが寝ているのをみてから、スズはそっと起きだし、周囲の結界をもう一度強固にした。ラゴットは単なる作り手なので、攻撃はできないし、防御も自分を守るぐらいだろう。もともと、魔物討伐はスズが請け負っている。ラゴットが仲間になりたいと言ってついてきているが、戦力外なのは、はじめから理解していた。そして、守りを固めることも考えていた。
スズが規格外なので、一人で戦いつつ彼を守ることは容易だが、唯一彼が、勝手に動き回ることが迷惑だった。何なら、じっとしておいて、と言っても一人で暴走してしまうレベル。
昨夜、彼を眠らせるために用意周到に動いた。軽い魔法も使って、なんとか眠らせることに成功したのだ。とはいえ、彼の望む者は与えたい。彼が何を望んでいるのかは、まだ分からないものの、魔物討伐が終われば起こせばいい。
スズはラゴットの眠っていることを確認し、軽い身のこなしで、魔物の居る場所へと向かった。
大きな体躯と強大な一本の角。イノシシが10倍以上大きくなったような存在。特に角には常に炎が宿っていた。
「魔法の炎が宿る角って高いのかしら?」
スズは小さな灯りをイノシシの周りに繊細に動かした。魔法の光は簡単にイノシシを惑わせた。
『フゥゥゥウゥゥゥゥ
イノシシが、スズを見た。そして、まっすぐに突進する。スズは魔法と同時に魔導を唱えていた。
「ウィッチスレイス。」
魔法は単なる小道具だ。呪文も声に出さなくても唱えられる。一方の魔導はより高等になる。特に、魔法と同時に組み上げる者はそう多く居ない。また、魔道士もそこまで多くないからこそ、その存在を知らない世界もあるのだ。
イノシシが突進するまえから、勝敗は決まっていた。魔法で惑い、スズをみて突進。スズの前にある罠に気づかない。ウィッチスレイスは罠の発動の合図。イノシシは罠である茨の茂みを発動させ、徐々にダメージを食らいながら、死へと誘われる。
「うわー。えげつない。前職、巫女なんっすよね?」
そこへ、ラゴットがやってきた。スズは予期していたことだったが、それでも多少は驚いた。
「スズさんの思った通りっす。俺、ドワーフと人間のハーフなんっす。」
ドワーフはスズがちょっと驚いてのを見て、照れたように頷いた。
「だから、ちょっとだけ、魔法がかかりにくいっす。」
ドワーフは、魔法がかかりにくいという特徴がある。それは、ドワーフがそもそも魔法を保有する量が多いためだ。
「・・・前職、巫女ね。確かに。でも、これぐらいが丁度いいと思って。貴方は何が欲しいの?」
スズはちょっと考え込んで、頷く。読みも当たっていたし、討伐した。最後は彼が望むものは何か。それだけだ。
「実は、その角が欲しいんだ。一番価値があるから・・・。スズさんが」
「いいわ。持って行きなさい。私は討伐できたからいいの。」
ドワーフの彼が何か言う前に、スズはにこっと笑って言った。
ラゴットは考えながら、スズを見た。
「だけど、これは私が討伐した。貴方じゃない。貴方が何故、この角を欲しがるが理解しているわ。」
「それは、俺が倒したことにはしないってことっすね。」
「つまはじきにあったと思っていたわ。だから?それは貴方の理由だもの。」
ラゴットは、実際に何も言わなかったが、スズの言うとおり、里では彼が半分人間だと言うことを嗤っていた。ラゴットは嘘でもいいから大きな事をしたように見せかけようとした。
「ね、ラゴット。これからも、私と旅しない?貴方が専属の作り手の業者として随行してくれるの。貴方がどれだけ素晴らしいものを造り出すか、貴方を馬鹿にした者に見せましょう?」
スズは手を差し出した。ラゴットは驚いていた。それと同時に、彼女は悪意なく、ただ、真摯にラゴットの仕事を見たいと言っているのだ。ラゴットは心の食指が彼女の差し出す手を写し、そのまま、ラゴットは自らの魔法の手で握り返した。
「これからも、よろしくっす!俺、働きますよ!」
「ふふ!じゃあ、早速魔物を渡しに行きましょうか。角は貴方が精錬してね!」
スズは楽しそうにラゴットを見た。ラゴットは初めて、スズの満足そうな笑みを見て、心のどこかで偽りだったのは自分だと思い直した。
彼女は、本当に巫女だったと理解した。
つづく




