第4話 選ばれる覚悟
クラブハウスの会議室には、いつもより重たい空気が漂っていた。
壁際に並べられた椅子。
そこに、浜松ビッグカイトFCの全選手が座っている。
「一人ずつ、呼ばれたら入ってきてください」
相馬恒一は、そうだけ告げた。
――全選手面談。
形式的なものではない。
このチームで“戦う覚悟”があるかを、真正面から問う場だった。
最初に入ってきたのは、ベテランのディフェンダーだった。
「正直に言ってくれ」
相馬は書類を閉じ、相手の目を見る。
「このチームで、何を成し遂げたい?」
男は少し黙り込み、やがて言った。
「……正直、現役を長く続けたいだけかもしれません」
相馬は、否定しなかった。
「それも立派な理由だ。
でも、優勝を目指す集団の中心に立つ理由にはならない」
男は、悔しそうに唇を噛んだ。
次に入ってきたのは、前節で決定機を外した若いフォワードだった。
「怖いです」
彼は、開口一番そう言った。
「外したらどうしよう、また下げられるんじゃないかって」
「それでも、ゴール前に行けるか?」
相馬は静かに問う。
少年は、顔を上げた。
「……行きたいです。
逃げたくない」
相馬は、その言葉をノートに書き留めた。
「なら、次もスタメンだ」
面談が進むにつれ、選手たちの表情が変わっていく。
評価される恐怖。
切られる不安。
それでも――向き合わずにはいられない現実。
廊下の向こうで、田島が腕を組んで立っていた。
「やり過ぎじゃないですか」
「今までが、やらなさ過ぎだっただけです」
相馬は、はっきり言った。
「情に流されて、勝てるほど甘くない」
夕方。
最後の面談が終わった。
相馬、鷹宮、村瀬の三人は、無言で並んで座っていた。
「何人か、外しますか」
村瀬が言う。
「ええ。
実力じゃない。覚悟の問題です」
鷹宮は、しばらく考え込み、ゆっくり頷いた。
「……このチームは、変わりますね」
その夜、クラブの公式サイトに短いニュースが掲載された。
――浜松ビッグカイトFC、次節より若手主体の新体制で臨む
SNSは、すぐにざわついた。
賛否両論。
批判も多い。
だが翌日、練習場には、これまでより多くの選手が早く集まっていた。
声が出る。
走るスピードが上がる。
相馬は、ピッチ脇で静かに頷いた。
「……いい顔になってきた」
風が、強くなっている。
もう、凧を揚げる準備は整いつつあった。
次の試合。
この選択が、正しかったかどうか――
それは、ピッチが答えを出す。




