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翔べ!ビッグカイト  作者:


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2/7

第2話 ゼネラルマネージャーという名の現場

SATOスタジアム浜松に、久しぶりの歓声が響いていた。


 もっとも、それは観客の声ではない。

 芝を踏みしめるスパイクの音と、ボールを蹴る乾いた衝撃音。

 平日の午前中、スタンドは静まり返っている。


「……ここが、俺の職場か」


 スタンド最上段からピッチを見下ろしながら、相馬恒一は小さく息を吐いた。

 かつて少年だった自分が、夢中で見上げていた場所。

 今はスーツ姿で立っていることに、まだ実感が追いつかない。


「相馬さん、時間です」


 声を掛けてきたのは、フロントの古参スタッフ、田島だった。

 表情は丁寧だが、どこか距離を測るような目をしている。


 クラブハウスの会議室には、監督、コーチ、フロントスタッフが揃っていた。

 静かな視線が、一斉に相馬へ向けられる。


「本日付でゼネラルマネージャーに就任しました、相馬です」


 頭を下げると、数拍遅れてまばらな拍手が起きた。

 ――歓迎、というより様子見。

 それが正直な空気だった。


「では、現状報告を」


 田島が淡々と資料を配る。


 予算は削減。

 観客動員は低迷。

 主力選手の契約は今季限りが多い。

 スポンサーも様子見状態。


「正直に言って、今季は残留が現実的な目標です」


 誰かがそう言った瞬間、相馬は口を開いた。


「それは、誰の目標ですか?」


 会議室が一瞬、静まり返る。


「チームとしての目標です」

「違います」


 相馬は資料を閉じた。


「残留は結果であって、目標じゃない。

 俺たちが掲げるべきなのは、優勝です」


 ざわめきが起きる。


「理想論ですよ」

「現実を見てください」


 相馬はゆっくりと立ち上がった。


「現実を見ているからこそ、言っています。

 中途半端な目標じゃ、人も金も動かない。

 ――このチームには、優勝した過去がある」


 その言葉に、監督・鷹宮が初めて相馬を見た。


「……あの年の話を、知っているんですね」


「俺は、あのゴールをスタンドで見ていました」


 鷹宮はわずかに笑った。


「面白いGMが来ましたね」


 練習後、相馬はピッチ脇で村瀬コーチと話していた。


「フロント、敵に回しましたね」


「最初から、味方だとは思ってません」


 村瀬は小さく息を吐く。


「でも、選手たちは変化を求めています。

 このままじゃ、何も起きない」


 夕方、スタンドに一人残った相馬は、空を見上げた。


 風は、まだ弱い。

 だが、確かに吹き始めている。


「……翔べるかどうかは、俺次第だな」


 ピッチの中央に、夕陽が落ちていく。


 浜松ビッグカイトFCの、新しい物語が、静かに動き出していた。

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