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9作為的なメタモルフォーゼ

本物のプラナリアは小さくてかわいいです。わざわざ傷つけて再生を確かめるなんて残酷な実験です。でもそんな再生能力があれば人間怖いものなしかな。

 メタモルフォーゼ、今はあまり使わない言葉ですかね……。

 その日、朝から雲の流れが早かった。こんな日は天候が悪くなるだろう。やれやれ、洗濯物の量をセーブするかなあ。衣類乾燥機の仕組みがわからないのでこればかりはパリンに作ってと言えない。でもよいのだ。何でもかんでも魔法と電化製品に頼っては人間怠け癖がつく……って母方の祖母がよく言っていた。女学校出身の祖母は結構社会を見ていた。祖母は大正から昭和にかけて女性進出を見てきた人だ。私にとって大学進学のゴーサインを出してくれた恩人でもある。


 そこへパリンが珍しく大きな声で駆け寄ってきた。手にはあのイモリが入った水槽をもっている。

「見てください!毎日観察していてほら、今はこんな姿なんです。サラマンドラはやはりサラマンドラでした!」

 などとわけのわからないことを言っている。私も観察と飼育をパリンに任せきりだったから経過を見てないのだけど、だいたいの想像はつく。


 パリン、イモリの再生能力に気が付いたか?どれどれ……。


 結果をわかっていて子どもをほめるような気分で私は水槽を覗き込む。


 え?ええええええええええー?

 

 信じられない光景が水槽の中にあった。何が起きたの?わけわからんちーん。

 

 

 確かに私はイモリに再生能力があるのを知っていた。手足としっぽをもがれていたイモリの再生するところは手足としっぽだ。もちろん心臓や腎臓、脳は再生しないがこれらは再生をする。少なくとも元居た世界のイモリはそうだった。が、水槽の中にいるイモリはその結果予想を裏切っていた。


 手足やしっぽは確かに再生している。だけどなんだよ、恐竜の羽みたいなものがあるぞ。とういうことは飛ぶのか?おまけにしっぽが余分にある。なんで8本も?あれれ……。

 ちょまっ……て……なんじゃこれえ!


 なんと頭も再生して2つあるではないか。脳は再生しないはずだぞ……てか、これでは再生じゃなくて複製じゃないか。


「サラマンドラに手足が再生するのを見て、ひょっとしたらと思ってしっぽや頭を傷つけたりしたら予想通り増えたんです。あと、立派に羽も生えてきました。トカゲにはかなり低い確率ですが羽が生えるものいます。僕はそれをイメージして毎日呪文のようにサラマンドラの名を呟いたんです」

 ちょっと自慢気にしてはにかんでいるパリン。

 そうか……彼なりに勉強をして実験をしたということだ。しかもこれは生体実験だ。子どもはときに残酷なことを平気でやるが、パリン、あんたもなかなかのものだぞ。混乱しつつもこんなときは褒めるべきだ。必死に笑顔を作ってパリンをほめる。

「立派ねー!このサラマンドラをアルフォードたちにも見せましょう。ここまで育てたのだからあんたが飼い主ね」

「え?ぼくはこのサラマンドラのテイマーってことですか」

 少し驚いた表情を見せるパリン。そうか、異世界小説にあるテイマーってこのことか。

 

 しかしわざと体を傷つけて再生を促すなんて、よくそんな残酷な生体実験ができたもんだ。でもそうでもしなければサラマンドラの変身はなかった。元居た世界のプラナリアの再生も再生実験として傷つけられるが、それもパリンの実験と変わらないってことか。


 サラマンドラの姿を見たアルフォードたちもそりゃもうびっくり仰天よ。あのイモリが怪物になっているんだもの。今はまだ猫ぐらいの大きさでちょこんとパリンの肩に乗っているけど、成長したらどんな大きさになるのか見当がつかない。呪文のようにサラマンドラの名を呟いたとパリンが言っていたが、それは言霊という一種の魔法をかけているようなものだから、サラマンドラのこの先なんて考えもつかない。

 そうだよ、思いが叶うよう唱える言霊って大事。だってそうなることを信じて思いを言葉に込めているのだからね。だから人を傷つける言葉を間違ってもいってはだめ。あんな言葉のいじめは言葉の矢となって相手の心を傷つけ、心や肉体も病気にする。言った側は全く傷つかないと思っているからとても卑怯なやり方なんだよ。だけどそういった行為はやがて自分に返ってくる。人を呪わば穴二つだからね。


「パリン、サラマンドラを連れて森へいってみようぜ。お前だって魔法の練習をしているのだろう?森は広いからサラマンドラの能力を十分に発揮できると思うぜ。大丈夫、森には弱小モンスターが湧いてくるぐらいだ。お前も練習した魔法の成果を試したいだろう?」

 唐突にそのようなことを言うアルフォード。

「だめよ、討伐の為にパリンを連れて行かないで!」

 私は彼らへ厳しめに言って断った。上級魔法学校へ行くことが叶わず、生活の為に上級魔法学校卒業だと偽ってパーティーへ入ったパリンは、ある討伐案件のさい、仲間を回復させたり蘇生させたりできなかった。そのためパーティーから追放されていたのだ。そんなパリンの過去を知った私はこれ以上討伐へ参加してパリンのトラウマを増やしたくなかった。だが、予想を反した答えが返ってきたのだ。

「アルフォード、ぜひ僕を森へ連れて行ってください。……サラマンドラはまだ子どもですが、きっと何かの能力があると思っています。サラマンドラにどんな能力があるか確かめたいんです」

 パリンはアルフォードとマリスの前へ進み出てそう言った。その言葉には力があり自信もある。今までこんなにやる気満々のパリンを見たことがない。

「おう、そうかそうか。なら、さっそく行こうぜ」

 だめだこりゃ……。双方が乗り気なのだ。止めても聞かないパターンだ。しゃあない、私も腹をくくった。

「私も行くわよ。だってパリンの保護者だもの」

 と同行宣言をした。


 そんなわけで森へ行くことが決まった。アルフォードたちにとってはいつもの日帰り討伐だ。といっても私も手ぶらというわけにいかないので、主婦のお伴を備えとして持っていくことにした。お伴って?誰もが知っているアレだよ。そしてあの時作った勝負服を早速着ることにした。元々勝負服って彼氏とのデートで彼ともっと親密になりたいっていう服だけど、この世界の私の勝負服は変身願望の表れなのだ。私をその気にさせたんだから有難く思えよ、君たち。


 いや、怖くないわけじゃない。興味津々ってのが先にあるのかな。

 


 即席パーティーの私たちはそれぞれ身支度をすると森へ入った。ここには町へ入るための道路がいくつか通っている。旅行者や商人など往来があり、なくてはならない生活道路でもある。そこを狙うのが弱小モンスターというわけだ。一口で弱小といっても私はわからない。弱小ってなにかの目安でそういうのだから、本当に弱小かどうかは相手によって違うと思う。

 

 植物が入り組んだジャングルの様な森。人間の手が入っていないから伸び放題だ。それでなくても曇天で暗いのに余計に森の中が暗いのはそのせいだ。


 キーッ!キーッ!


 何か鳥が鳴きながらバタバタを音を立てて飛んでいく。

「おいでなすったぞ」

 アルフォードとマリスがそれぞれ剣を出して構える。私には分からない気配を感じたのだろう。私も持ってきた自分の武器を手にする。武器といってもアレだからね。

「……それ、武器だったんですか」

 私があるものを手にしているのを見てパリンが聞いてくる。

「気にしない、気にしなーい」

 と笑ってごまかす私の手には包丁が握られている。他にも腰の剣帯には剣ならぬ何種類かの包丁がその時を待っていいるのだ。だって私が使いこなしている刃物ってこれしかないのだから仕方がない。ああ、せめて○○えもんの未来グッズのように物のサイズを変えるものがあればなあ……。


 うがあっ!


 ほら、やっぱりでた。何だよこれ。いかにもモンスターじゃん。背丈は人間より小さいが今回のモンスターはゴブリン。何だか知らんけど数で勝負ということのなのか10人(人型なのであえてこの単位を使う)ほどのゴブリンたちがあちこちから現れて私たちを取り囲み、攻撃してきた。手にはこん棒らしきものや剣を持っている。

 アルフォードやマリスは慣れたもので3人を瞬時に倒してしまう。ふたりを強いと思ったのか残りのゴブリンが私を取り囲んた。


(うそーっ!まじヤバいんですけど!)


 まさに初めての恐怖だ。足が震えるがこんなときはおばさんパワーだ。そう、ゴキブリに立ち向かうあのパワーだ。私は肉切り包丁を持つとゴブリンに向かっていく。そもそも包丁なんて柄と刃が短いのでより相手に近づかねばならない。まして相手が人型ということもあり、人間という良識がこんなときに壁となって思い切りつっこめない。

「奴らは人じゃない、ゴブリンだ。臆するな!」

 アルフォードが助けに入ってひとりを倒す。


 このっ!このっ!


 私も肉切り包丁を手にぶすぶすやっていく。こうなると人間の良識という壁が壊れていくものだ。いくら人の形をしていても人間に害をなすゴブリンだということを再認識する。攻撃していく中でゴブリンの緑色の体液が頭から降りかかる。

 いや、これはゴキブリを退治するのとは違うぞ。

 体液が降りかかったことでまだ躊躇した私は思わず手を引っ込めてしまい、後へ下がる。だって気持ち悪いんだもの。

 だが、これを好機とばかりに手負いのゴブリンは雄たけびを上げると仲間を呼んだ。


「おい、仲間を呼ぶなんて今までなかったぞ……とどめをさせなかったのが原因だろう。そうなると短時間で全部を倒さないといけないようだな」

 マリスがこの展開に驚いている。

 ごめん、迷惑をかけた。


 ゴブリンたちは再び私たちを取り囲むとキーキー言いながら攻撃をしてきた。こうなれば躊躇なんかしてられない。だが、いくら弱小ゴブリンでもこんな数で来られたら太刀打ちできない。どこから湧いて出たの?と言いたくなるくらいだ。これではジメジメした梅雨の時期に広がるカビと同じだ。

 ひとり倒したら次のゴブリンが出て、また倒したら次のゴブリン。おいおいラーメン屋の前に並ぶ行列と違うのよ!

 アルフォードやマリスが疲弊するが、パリンは回復魔法を使えないからどうにもならない。しかしパリンは私の包丁を見てこう叫んだ。

 

「エンゴージオ!拡大せよ」

 するとまあ不思議。包丁が巨大化したではないか。ズシリと重さはあるが、これはどうみても武器だ。

「よっしゃー!」

 まるでバットを振り回すかのように私は巨大化した包丁を振り回した。多くのゴブリンの首が瞬時にとんでいく。


 (ううううっ!やめてよ、グロはいやだわ)


 こうして見事に倒したかのように思われた。だが首を失ったゴブリンたちは何かに操られているかのようにフラフラと取り囲む。


 ガチで怖い。


 思わぬ展開に驚く私たちをみて何か感じたのか、あのサラマンドラもとい変身イモリが飛び立ってゴブリンたちにむけて火を放ったのである。ちょっとした火炎放射器だ。


 ボボボ……。


 サラマンドラの火炎はまるで妖怪ようなゴブリンたちを容赦なく包んでいく。


 ギャー!

 ゴブリンの悲鳴がこだまする。


 小さいサラマンドラなれど火炎の威力は一級ものらしく、ゴブリンたちは炭も残らず消えてしまった。私はことを理解することに時間がかかっている。何もかも初めてのことであり、しかもゴブリンという生き物が殲滅してく様子を目の当たりにして体の震えが止まらなかった。

「イモリをうまく育てたな、パリン。テイマーとして十分だぞ。どうだ、これからもパーティーとして討伐に加わらないか」

 そう言ってパリンの肩を叩くアルフォード。

「パリンはまだ子どもよ。パリンを討伐へ向かわせるなら私もついていく。だって弱小ゴブリンのはずなのに今日はこれだけ苦戦したでしょう?何かゴブリンたちに異変が起きているってことじゃないの?」

 ようやく我に返った私は息を切らせながらもアルフォードの手を止める。かわいいパリンを傷つけたくないもん。

「わかったよ、サユリはパリンの保護者だからな。それにサユリの遠慮ない戦いはとても初めてとは思えなかったぜ。こうしてあのイモリもパリンの作為によって姿を変え、イモリ以上の能力を身につけている。サユリのいう通り、確かにこの森で何か起きているかもしれない。それらを調べてギルドに報告をするのも必要なことだからな。じゃあ、話は決まりだ」

 アルフォードが手を出すとマリスも加わった。

「宿屋パーティーここに結成。我らはメタモルフォーゼをする」

 パリンによって作為的に変身を遂げたサラマンドラ、そして新たな働き方を見つけた私たちのメタモルフォーゼ。


 うーん……私が物足りないって言っていたのはこういう冒険だったのかな。宿屋業務に飽きたわけではないが、人間どこかで生き方を変える機会があり、それが今だとしたらこの話に乗るのも悪くないと思った。

 働き方改革?いやそんなんじゃないのよ。宿屋業務に加えて討伐をするとなると当然多忙となるが、強者パーティーがやらない案件を誰かは受けないといけないのだから、兼業でやるなら私たちということだ。


 こうして宿屋パーティーの結成をギルドへ報告した。その場にいた冒険者たちは私たちを見てにやにやしている。追放されていたパリン、おばさんの私がいるので頼りないと思われているのだ。

 しかし、私が彼らをにらみつけるより先に行動をしたのはサラマンドラだ。パリンの肩から飛び立ち、一声鳴いた。


 ケーン!


 まるで雉のような鳴き声を上げると彼らの上を一周し、煙草をもっている男の煙草に火をつけた。数センチ間違えば顔が火だるまになるところであり、男は恐怖で尻もちをつく。

「パリンはサラマンドラのテイマーだからね。パリンをいじめたら火だるまになるわよ」

 私がそう脅すと男たちは怖くて後ずさりをしていく。

「それでは皆様、ごきげんよう。夜は宿屋の酒場でお待ちしておりますわ。おほほほ」

 これで今晩の客が減るかもしれないが、噂なんてすぐ他の噂に置き換わる。気にしなーい、気にしない。


 さっそく勝負服が役立ってよかった。


 ああ、甲子園球場で「六甲おろし」を歌いたい気分よ。


最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。

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