19アマビエ、出番よ②
前半のB29に向けて竹やりを投げる訓練は、私が中学生の時、社会科の教師が語ったご自身の体験談です。それ以外にも防空壕掘りもありました。他にも飛行機の滑走路を造るために強制的に家屋を壊されたという話もあります。硫黄島限らず、戦争が激化した沖縄やペリリュー島、フィリピン、など多くの遺骨が眠る戦地があります。祖父も終戦間近の沖縄で戦死して骨も帰っていません。異世界小説には似つかわしくなかったかな。
私たちは医療従事者じゃないからとにかくできることをしなくてはならない。冒険者のレベル関係なく病気を広めているものを探し出して駆除もしくは討伐をやらねばならない。相当無茶苦茶な案件だ。あんな目に見えないようなウイルスをどうやって見つけ、広げているものを討伐するの?太平洋戦争のとき、母方の祖母は竹槍訓練に参加したり婦人会で慰問袋を作ったりしていた。竹槍訓練は参加が必須であり、目的は空を飛ぶアメリカのB29に向けて投げる為だったそう。人間が竹槍を投げて空飛ぶ飛行機に届くと思う?誰しも心の中で思っていたけど、そんなことを言えば非国民だと言われるから黙って訓練に参加したそうな。そしてその戦争では母方の祖父が亡くなった。戦争末期に沖縄へ出兵して玉砕したと厚生労働省の記録にあった。骨も帰らない。父方の祖父は海軍へ志願し、最期は硫黄島で亡くなったと聞いている。もちろん骨も帰らない。遺骨収集が年に数回行われているが、まだまだ多くの遺骨が眠っている。沖縄はともかく、硫黄島は一般人が立ち入れることのできない無人島扱いの島だ。いつでも参拝できるものでなく、舅と姑が遺族として参拝できたのは1度きりだった。そんなことを思い出すくらいこの案件は無茶苦茶なのだ。
顕微鏡代わりにレンズをもっているのはほんの気休め。竹槍じゃないけど後世の人に笑われるだろう。
マスクも当然ない。そんな概念もない。……正直私は逃げたい。でもこの世界の人々は無茶苦茶だということもわからず、何かのモンスター討伐だと思って参加をしている。彼らを見ていたら逃げるなんて考えたら罰が当たりそう。
「パリン、病の元凶……私のいた世界ではウイルスっていうんだけどね……は、目に見えないくらい小さいものなの。それらから身を守らないとやられてしまう。何かいい魔法はないの?例えばバリヤーとか」
バリヤーなんてどこのアニメよ……って自分でも思うけど、魔法の壁を作って攻撃から守ったこともあるからもしかしてと思ってパリンに聞いてみた。
「サユリの言っている魔法の意味はわかりますが、まだ僕の魔法は現実的でありません。魔力も増えているけど、まだ……」
と自信のない顔つきになった。あ、これだめだわ。パリンが意気消沈してしまったら余計に魔法が使えないものになってしまう。
「大丈夫よ。目に見えないもの相手とあって躊躇していただけだから」
閉店したままの居酒屋で準備をする私たち。もちろん、あのアマビエの絵も各自持った。まあどれだけ効果があるのかわからないけど気休めにはなるかな。守るって言っていたけど何をどう守るのか知らないし。
さて、アマビエはどうでてくるんだかね。これで現れなかったら正体をばらして討伐してやる。
「マリス、お酒を多めに用意したわよ。消毒でこんなにいるの?」
リンリンとランランが酒瓶をテーブルの上に置いた。いつもなら小さな瓶だからさすがに驚いたのだろう。
「おう、準備ありがとうよ。お前たちが用意してくれたからきっとうまいぜ」
マリスがお礼を言うのだが、これってセクハラと違う?
そこへ扉がバタンと開けられ、顔なじみの冒険者の男が駆け込んできた。
「お前たち、急げ。ついに死人が出てしまった!」
この声に宿屋パーティーの面々は大慌てで出発し、森へ急いだ。
なぜ森へでたかって?以前から森を狩場としていたアルフォードとマリスは森の地理的環境やモンスターの情報を熟知している。異変があったら気づきやすいのだ。というより、ウイルスを広めているものがまずわからないし、ウイルスの変容もわからない状態ではどこを探しても同じ。ならば知っている狩場へ行った方が良いと考えたから。
サラマンドラは何か感づいたようで先ほどからふたつの長い首を何度もうねらせて四方八方に目を向けている。でも目に見えないウイルスをみつけられるだろうか。死人が出てしまったことで私たちもやられるリスクが高まっていると思われる。感染予防の知識などないこの世界で、行き当たりばったりの状態なのだ。
「やっちまった……」
マリスが自分の荷物を確認して呟く。
「なんだ?パンツでも忘れたのか」
アルフォードがさほど気にするでもなく冗談を言う。
「酒だよ、酒。いつもの酒だ。リンリンが準備してくれたのに慌てて森へ来たものだから忘れてしまったんだ」
マリスがそう言ってため息をつく。でも仕方がない。慌てることって誰でもあるのだ。
気を取り直してあたりを見回す私たち。今更酒を取りに帰っている時間はない。
静寂の森。不思議と弱小モンスターもでてこない。風で揺れている草むらと木々を飛び交う小鳥たち。足元では餌を巣穴へ運ぶアリたちの行列がある。いや、これは平和と違う気がする。こんななにもない静寂は何かを隠してさいる。
キャー!
森中に悲鳴が響きわたった。女性の声だ。私たちは顏を見合わせて声がした方向へ急いだ。
森の道路わきに若い女性が倒れている。リンリンだ。大事そうに酒瓶を抱えたまま倒れていたのだ。
「リンリン、大丈夫か!俺が忘れた酒を……」
マリスは動揺して体をゆすったり起こしたりしているがリンリンは目覚めない。
「体が熱い……発熱しているようだ。もしかしてこれは」
アルフォードがあたりを見渡す。
えっ?まさか病?
サラマンドラは相変わらず首をくねらせている。
私はリンリンの口に水を含ませようと体を起こした。確かに熱があるようだ。急な発熱?ギルドの職員も急な発熱で倒れたらしいけど……。
水を含ませたリンリンは気が付いたようでうっすら目を開けたが体を動かすのは困難なようだ。
「俺が酒を忘れたためにすまない」
マリスが項垂れるとリンリンは少しほほ笑んだ。精々の意思表示だ。気休めと言いながらも私たちは森へ行くにあたってアマビエの絵を懐に入れている。それがお守りというならお守りだ。先ずは信じないと効果がないということだ。ただ、リンリンはその絵を所持していなかった。きっと彼女も慌てて酒をもってきたので所持し忘れたのだろう。だから森へきて感染してしまったということだろうか。
風が舞う。木々の葉のざわざわした音が妙に耳につく。そしてなんとなーくピンクの色が見える。
ピンクの色……なんだか知らないがピンクの粒々が飛散しているのだ。
不思議に思った私はレンズをポケットから出して粒々のひとつを掌に載せて観察した。
ウヒヒ……。
私が笑ったんじゃないのよ。
「なにこれ、このピンクの粒、顔があって笑ってる。えっ?この形、まさか」
私が大声をあげるものだから皆が寄ってきてレンズを覗き込む。
「この形、僕にも見覚えがあるぞ。確かこれは元居た世界じゃ例のウイルス!でも顔なんてなかったし色もついていなかった。目に見える大きさでもなかったぞ。これが変容か?」
ケントも驚いている。確かにそうだ。どこをどう間違って大きくなり顔までつけたのだろうか。ウイルスの変容恐るべし。しかも病の元凶ということは変わらないのだから正直怯える。
身に周りで飛び交うピンクの粒。風に乗って飛散しているのがわかる。これって見た目花粉だ。春先に飛散する花粉と似ている。耳元をそれらが飛び交うときに聞こえる声は誠に不気味極まるものだ。
ウヒヒ……ケケケ……。
何て気味悪いんだろう。って気づくと私たちの服や髪の毛にも付着しているではないか。
「やだ!気味悪いったらありゃしない。ケント、なんとかしなさいよ!」
感染する恐怖より気味悪く笑いながら飛び交うこれらが身体にまとわりつくのが恐怖だ。服や髪の毛を払うがピンクの粒々の数はおびただしく、払っても、払ってもまとわりついてくる。そしてこの粒々は今や町中に飛散しているのだ。
「なんとかするって……」
さしものケントもなにをどうすべきか考えがうかばないようだ。そりゃそうよ。私も頭パニックなんだもの。わからんちーんなんて悠長なこと言ってられやしない。
で、私はふとアマビエが言っていたあの言葉を思い出す。
『隣町で流行っている病気は確かに転生者とともに入ってきましたが、感染の媒体がないので長らく地中に眠っていました。これを何かの媒体がまき散らしているのです。この何かを討伐し、焼き尽くせばウイルスは消滅するはずです』
そうなのだ。私たちはウイルスをまき散らしている奴を見つけて討伐しなければならない。ピンクの粒よりも上位の脅威があることを忘れてはいけないのだ。
「風上にこのピンクの粒を巻きらしているものがあるはずよ。それを探しましょう」
私の言葉にサラマンドラが飛び立ち、あたりを周回しだした。このピンクの粒々の風上にそいつはきっといる。みんなが期待しているとおりモンスターなのか?アマビエは正体についてはっきり言わなかった。花粉症神プリムスめ……アマビエに余計な知恵つけてくれてさぞかしくしゃみが止まらないだろうね。
今度会ったら絶対締め上げてぶっ叩いてやるわ。
プリムスへの苛立ちは正体のわからないそいつに向けられる。こんな状態を心理学ではなんて言ってたっけ。
今更に忘れたことがまだイラつく。
頼みの綱はサラマンドラ。そいつを見つけてよ!
最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。
いいね、ブックマークいただくと嬉しいです。
よろしくお願いします。




