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17ジャッカロープの恩返し

今回の文字数は3500文字ちょい。うーん、私の1エピソードでは短い方です。

ジャッカロープは北アメリカの伝説上の生き物で、ある人の悪ふざけが発端でひろがったそうで、その町はジャッカロープの町として知られているそう。

 新築した居酒屋は無事に開業することができ、専門の調理人など新たにスタッフを迎えての滑り出しとなった。いやあ、専門の調理人がいるのは本当に助かるわ。結婚して家族のために料理を作るのは余程の料理好きでないと苦痛なのよ。特にフルタイムで働きながらだと帰宅早々調理に取り掛からなくてはだめだった。買い物もできるだけまとめ買いをして時間を作ったものよ。それをしなくていいのが嬉しいわ。ということで私は宿屋業務を本業とすることになった。ひとりで宿を切り盛りしていたタロウはほんと、よくやっていたと思う。タロウという名前からして戦時中か戦後まもなくの生まれだと思うけど、仕事熱心でまじめ。タロウが長生きしていればモーレツ社員(昭和40年代)として昭和の日本の経済成長を支えていたと思う。あの頃は企業の為に身を粉にして働くことが美徳だったからね。家庭を顧みないって今じゃ考えられないでしょ。そういえば私の父親もそうだった。男尊女卑がこびりついて余計に母を家に縛り付けていた。生まれた時代がそうさせたのかもしれないけど、母を泣かせたときの父は嫌いだった。だから私はこの世界でもちゃんと言うべきことは言いたい。


 居酒屋業務から離れて再び森の弱小モンスター狩りをすることができるようになった私たち。森のモンスター狩りのブームが去り、それまで押しかけていた冒険者はもっと稼ぐために他へ移動していった。ダンジョンがまた見つかったらしいからしばらくはここへ来ないわね。(それにしてもダンジョンってそんなに多くあるものなのかな、知らんけど)

「あれだけ冒険者たちが討伐したにもかかわらず、いるところにはいるもんだな」

 森の往路から外れてモンスター狩りをする私たち。宿屋と居酒屋業務の準備の為今まで奥深い森へ行くことをしなかったが、居酒屋の準備をしなくてもよくなり、少しモンスター狩りに時間を費やすことが増えた。だから今回は往路から外れて探索をしてみた。だってモンスターって街道に現れると限らないからね。

 途中でどこかのパーティーの声がしたけど、それはかまわない。だってここは私たち専用の狩場でもないから。どこかのパーティーが他へ行かずに残っていても問題ないのだ。


 ふと見るとパリンの肩に乗っていたサラマンドラが一点を凝視している。えっ……何かいる?

「うーむ……。何か気配を感じるぞ……」

 マリスは気配の感じるあたりを指差した。アルフォードも同じ考えなのか無言でうなずいており、しかもそこはサラマンドラの凝視した方向と一致していた。


 ケーン。


 サラマンドラが一声鳴いて舞い上がる。くるくると上空を旋回したかと思うと凝視した一点の樹木をバサバサとなぎ倒す。そこに現れたもの。何と伝説上の生き物だとされるジャッカロープではないか。ジャッカロープは鹿の様な角があるウサギだ。あれ?ジャッカロープって北アメリカの伝説上の生き物じゃなかったっけ。先日のアマビエは日本の妖怪だったし、いったいこの世界の生物的な境はどうなっているのよ、と思いつつ、そもそもここは日本じゃない……異世界だ。私が感じている概念は通用しない。わかっちゃいるんだけどね。

「俺も一度お目にかかってみたいと思ったが、まさかこのタイミングで会うとはな」

 アルフォードとマリスはそれぞれ武器を降ろした。ジャッカロープは元々おとなしい性格のウサギらしい。怯えた様子のジャッカロープにマリスは持っていた酒を飲ませる。ああ、言っとくけどマリスは別に酒を飲むために持っていたわけでないのよ。彼曰く、消毒用で少量もっているのだそう。

 最初は警戒していたジャッカロープも武器を降ろしたことで安心したのか酒を飲みほした。

 もと居た世界でもジャッカロープは酒好きと言われていた。マリスから酒を貰ったことでジャッカロープは元気を取り戻したようだ。

「このジャッカロープは角が低木の茂みに引っかかって逃げられなかったようです。どうやらハンターがこのジャッカロープを追っているようです」

 パリンがサラマンドラの言葉を伝える。ハンターってもしかして森で聞いたどこかのパーティーの声?そうか、彼らの目的はこのジャッカロープだったのか。

 

 

 サラマンドラはまた何かを感じたのか、再び低木の茂みをバサバサとして動かしてジャッカロープを隠した。


 人の声がする。そして彼らは姿をあらわした。


「ほう……こんなところでパーティーに会うとはな。お前たちもジャッカロープ狙いか」

 彼らのリーダーは少し小ばかにした言い方で私たちに尋ねた。弱そうなパーティーだと思われたのかもしれない……まあ、事実だけど。

「いや、俺たちは宿屋のパーティだよ。ゴブリンを追ってここまで来た。宿屋業務があるからもう少ししたら帰るよ」

 アルフォードはそう言ってここには何もいなかったというように首を振った。

「ゴブリンを追ってきただと?あんな弱小モンスターなんか追わなくてもその場で討伐できねえのかよ。ワハハ……。そんなことより本業に精出したほうがいいんじゃないのか。じゃあ、俺たちは稼がせてもらうよ」

 そう笑いながら彼らは去っていった。


 ほんとーっに嫌な奴ら。卵をぶつけてやりたい。

「散々な言われようね。腹が立つわあ……」

 私の腹立ちはアルフォードたちにとっても同じだ。だからといって彼らに反論するでなく、じっと耐えていた。やたらに相手を攻撃するのは大人の反応ではない。耐えるべき時は耐えるのだ。

「ここで暴れても意味ないからな。さて、帰ろうぜ」

 そう言ってあるフォードが帰る支度をしようとしたとき、追手が去ったことで安心したジャッカロープが再び姿をあらわした。そしてなんと言葉を発したのである。

「助けてくださってありがとうございました。私たちは人に危害を加えるものではないため、狙われる存在です。私たちの乳が薬になると言われており、特にメスのジャッカロープは彼らのようなハンターにとって格好の獲物なのです。しかし、覚えておいてください。ジャッカロープの乳にそのような効果はありません」

 そう言ってジャッカロープは頭をふるんと振った。するとどうだろう……私たちの目の前で鹿のような角が根元からポロリと落ちたではないか。

「私たちは角の生え代わり時期を迎えています。この角を受取ってください。乳は薬となりませんが、角は薬となるはずです。いままでにない病気が広がりつつあると聞いています。役に立つはずですよ」

 ジャッカロープが人の言葉を話すことにも驚いたが、角が薬となると言われたことにも驚いた。驚きで言葉を返せない私たちの横からパリンが何やら見た目ただのウサギと化したジャッカロープに魔法をかけたようだ。

「ウサギ相手に何の魔法をかけたの?」

 つい気になって聞くとパリンはこのように答えた。

「角のないジャッカロープは天敵から狙われやすいんです。ハンター以外にも天敵はいますから。だから角が生えてきても普通のウサギに見えるように魔法をかけたんです」

 なるほど……パリン、あんたっていい子ね。

 このことはジャッカロープも理解したようで、その場をぴょんぴょん跳ねて嬉しそうにしていた。そして私たちを少し見つめたかと思うと、そのまま茂みへ入っていった。角がなくなったことで見た目ウサギだ。安心して帰ることができただろう。


「鶴の恩返しじゃなくジャッカロープの恩返しね……」

 私のつぶやきに意味が分からないアルフォードたち。そりゃそうね。鶴の恩返しは元居た世界の昔話だもの。

「お、おう……。なんだか知らねえが、俺たちにお礼をしたということだ。有難くこの角はもらっておこう」

 アルフォードは食べ物を入れていたカバンに角をしまい込む。

「これじゃ僕の出番がないじゃないですか。もっと森の奥へ行くべきだ。僕は恥をかきたくない!」

 わあわあとうるさい男がごねている。子どもじゃあるまいし、いつまで言ってんのよ。

「ケント、確認するけどここのリーダーは誰?」

 私はケントに詰め寄り抗議した。この男のわがままにがまんならないのよ。

「……うううっ……。も、申し訳ありません……リーダーはアルフォードです!」

 直立不動で嫌々(だと思う)リーダーの名を言うケント。よし、それでいいのよ。なんか問題起こしたらあんたをもとのパーティーへ返すことが遅くなってしまうもの。預かった以上、責任取らねばならないからね。

 

 帰路、相変らず先ほどのジャッカロープを探している例の男たちに会ったが、もちろん私たちが経験したことは内緒だ。彼らを馬鹿にするかのようにごく普通のウサギたちが草むらから飛び出ては逃げていく。

 もしかしたらウサギ同士、ジャッカロープと通じていたのかもしれない。……しらんけど。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。

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