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15神は病とともに現れる①

そういえば、昭和の双子歌手のリンリン・ランラン、あれからどうしているのだろう。彼女たちも今でいう一発屋だったのかもしれない。

 製材所が買い上げた例の食害木材は嬉しいことにまだ使うことができる状態だった。内部まで腐ってなかったのが救いだ。あの林業を営む男はきっと時間をかけ丁寧に育てたのだろう。それがよくわかる。ただ、食害された木材ということで市場価格は安くなっていた。誰だって建物を建てるのに食害といういわくつきの木材を使うのをためらう。でも使用に差し支えないのであれば林業農家も救われるというものだ。だから私はそれを率先した。だって元居た世界でもアウトレット商品とか規格外野菜・果実なんていうのもあったからね。曲がったキュウリだって十分食べられるもの。見た目で判断しちゃいけないよ。ってそれは私のことだよ。へへっ。

 そのいわくつきの材木を使って、宿に隣接させた居酒屋を作ることとなった。これまでの食堂は宿泊者の為の朝食会場として利用する。もともと食堂は宿泊者用であり、居酒屋を兼ねると狭いうえに夜遅くまで騒々しいので宿泊者が寝付かれないというクレームを頂くことがままあった。そのため朝食会場と居酒屋を別の建物にするのは急務だった。

 タロウが切り盛りしていた頃はここまで客が多くなかったのだが、宿の拡張に合わせてアルフォード、マリスが働き手として加わり、その後ケントとリンリン、ランランも加わったことで客も増えていた。イケメンであり、しゃべらなければかっこいいケントの集客力はすさまじく、毎日若い女の子たちがやってくるようになった。当然取り巻き兼お目付け役のリンリンとランランは面白くない。目じりをあげてケントに悪い虫がつかないようにオーラを出している。

 やっぱ、同性の嫉妬は怖いわ……。でも私には何の嫉妬オーラを出さないのね。


 わかってる……。おばさんには用がないって言いたいんでしょ!ふんっ!


 そんなケントも働くことで体を鍛えているとあって、肉体労働を頼んでも嫌な顔をしない。洗濯物を絞ることだって私よりよくしぼってくれる。ありがたい、ありがたい。

「いやあ、これでも僕は元居た世界で食にうるさい方だったんですよ。あちこち食べ歩きましてね……」

 ああ、またケントの自慢話が始まった。

「じゃ、任せるから何か一品作ってみて頂戴。良ければメニューとして採用するわよ」

 私がそう言うと、ケントは歯をきらりんとさせて早速厨房を陣取った。夜まで時間あるから大丈夫かな。リンリンとランランは不安そうな顔をして手伝いかけたが、ケントはあっさり断った。

 おう、見せてもらおうじゃないの。食にうるさいケント君。


 アルフォードとマリスは大工たちと一緒になって建築をやっている。もちろんパリンも創作できるところを手伝っている。まあね、パリンはイメージができれば創作しやすいようだからそのあたりはアルフォードに任せている。それもパリンにとって勉強になると思う。

 

 魔法の詠唱を覚えても言葉通りにならない。アルコール度数の高いスクリュードライバーを何杯もお代わりした上級魔法使いのシルビアは、詠唱を言わずとも魔力を発動させることができていた。詠唱を唱えることがあっても都度言葉が違っていた。パリンはまだ詠唱を覚えつつあるところだ。小さな子どもが言葉だけで掛け算九九を覚えているのと似ている。パリンは未知の事象についてイメージを抱くことが難しい少年だ。だから物事の道理や事象についてある程度説明をする必要がある。それに気づいた上級魔法使いシルビアはパリンに教育の必要性を説いていた。きっと見どころのある子だと思ったに違いない。

 私が手元においてかわいがってもそれはパリンの為にならない。そんな思いが日に何度もあらわれ、気持ちの落ち込むことがあった。

「最近おとなしいようだが、何かあったのか」

 アルフォードが仕事の手を止めて私に声をかけてきた。……気づかれたかな。

「何でもないわよ。大丈夫」

 そういったもののパリンを見ていると様々な思いが交錯してくる。アルフォードの言葉が私の心の鍵を壊したようで、あれよあれよという間に私の目から涙がこぼれていく。……アルフォードの馬鹿!

「俺が気付かないと思ってんのか。俺はこれでも妻子持ちだったんだぜ。俺が報奨金稼ぎのために長く家を空けている間に女房と子供は流行り病で死んでしまった。この世界じゃ初めて聞く病気だったけどな……。俺は家族のことを考えもしないで報奨金稼ぎをしていた。俺は罪な男だよ。だから俺もパリンを何とかしたいと思っている。たぶんサユリと同じ気持ちだ」

 そう言ってアルフォードは私の肩を叩いた。

「……飲もうぜ。居酒屋業務はケントたちに任せて今日ぐらいは飲もう。そんな日があってもいいと俺は思うぜ」

 なぜだろう。妙にアルフォードの言葉が身に染みる。アルフォードやマリスは自身の過去を話すことがなかったし私も聞くことはなかった。ずっとソロで弱小モンスターを狩っていたのは何かしら事情があるとは思っていたが、そんな過去があったとはね。そして流行り病というは転生者と一緒にウイルスが入ってしまったといういことかもしれない。この世界に無かった脅威が次々に転生者に紛れて入るとしたら魔王以上に厄介な恐怖だ。

「いいわよ。こんなおばさんだけど相手をしてあげるわ」

 そう言ったとき、宿の厨房の方から煙が上がっているのが見えた。

「ええっ!火事?」

 慌ててアルフォードとともに駆け込む。


 そこで見えたものは……。

「ごめんなさい……。ケントが調理に失敗をしてしまい……」

 リンリンとランランが頭を何度も下げている。その奥では焦げ付いた鍋や水をかけまくったことによってびしょぬれとなった厨房があった。ケントはと言えば、まるで他人事であるかのように笑っている。

「なーにやってんのよ!この宿を燃やす気?火加減ができないようなら料理を任せられないわ。厨房はいいからあんたはホールで若い娘の相手でもしなさい。もうっ全くどうすんのよ。これじゃ食事を提供できないじゃないの!」

 いや、ほんとにどうしよう。居酒屋はともかく宿泊客の夕食や朝食の提供ができない。

 途方に暮れていたが、騒ぎを聞きつけてパリンが駆けつけてくれ創作と修復の魔法をかけてくれた。焦げた鍋だけでなく厨房内の設備いっさいがっさい、元の通りにしただけでなく、水浸しだった厨房の水けも乾燥させてくれた。早く言えば元通りにしてくれたのだ。どんな厨房か知っているからやりやすかったようだ。これだけみてもなんとなーくパリンの魔法レベルだかスキルだかがあがっている気がする。いつまでも自信のないパリンじゃない。成長している。

 

 ……だから寂しい……。

 

 そんな私の気持ちはさておき、あわや火事になるところだった宿屋の周りには野次馬ご近所さんが集まって不安そうにしていたので、アルフォードがちゃんと説明してくれた。私の様子がおかしいと気づいてくれたからだろう。


「ごめんね、本当なら私が騒動の謝罪をすべきだったのに……ありがとう」

 私がアルフォードに礼を言うと彼は無言で笑って大工仕事に戻っていった。イケメンのケントはやたらとしゃべりたがってすぐ調子に乗る。だがアルフォードは余計なことを言わず、仕事に専念する男だ。宿屋パーティーのリーダーとあって責任を背負っているという自覚があるのだろう。ケントにアルフォードの爪の垢でものませたい気分だ。ましてケントはよそのパーティーから預かった男である。自信過剰と不注意を何とか改善しなければ元のパーティーへ戻れないのだ。

 リンリンとランランの話では、ケントと恋仲であるというパーティーのリーダーはさんざん尻ぬぐいをして手を焼いてきたらしい。ケントの自信過剰は何処からくるのだろう。この疑問はケントのつぶやきで答が出た。

「あのクトニオスの魔剣をもつと不思議と体が軽くなり、戦うことの恐れもなくなるんです。体中からパワーがみなぎったかと思うと体が魔剣の思うように動くんです。だから魔剣なんですよ」

 そう言ってその後に自慢が続く。

 だめだ……。この男、魔剣に振り回されているじゃないの。道具に操られてどうするの。そりゃね、村正とかあざ丸という妖刀が実際にあっていろいろ伝説もあるぐらいだから魔剣の定義はわかる気がする。でも、ケントの魔剣は神が与えた魔剣だ。って剣が人間を操ってどうすんのよ。

 全く、チート武器を持たせるなら人を選んでほしいわね。こんな魔剣を与えるからケントが自信過剰となってしまったのよ。


 

 そんなこんなで火事騒ぎは収まり、無事に宿屋業務を続けることができた。敷地内では居酒屋建築が進んでいる。うん、なんかウキウキするよなあ……。

 マイホームを建てるとき、工事中何度も脚を運んだ。夢が叶うのをリアルでみてとてもワクワクしたものよ。完成したらこんどは住宅ローンという現実にかえるんだけどね。居酒屋建築には住宅ローンなんてない。そもそもこの世界にはローンという定義がない。これも転生者がやがて金融機関の仕組みをつくっていくんだろうけどね。医療もまだまだだ。宇宙人たる転生者はいろいろこの世界に知恵をつけていくのだろう。だがそれだけではない。病という悪いものも入っていくだろう。いや、それよりも回復魔法とか治癒魔法とかあるから必要とされてないのかもしれない。ただ、魔法使いは医者ではない。もしかしたら冒険者たちと討伐やダンジョン制覇へ挑むときに限ったものだろうか。

 

 そう私が物思いにふけっていると珍しい来客があった。というよりさっきの火事騒ぎを聞きつけてやってきたようだ。客は市内にある教会の司祭スタリオンだ。長い白髭をたくわえ結構な年齢であるが、温厚な人柄で人気のある司祭だ。彼はアルフォードを見つけると歩み寄ってきた。ということはパーティーとしての私たちに用があるのか。

「あなた方が討伐だけでなく駆除もされているときき、御願いがあって参りました。実は……」

 私もアルフォードの隣で話を聞く。え?何々……。


 スタリオン司祭の話によると、教会の敷地内の池に何か潜んでいるようだとのこと。気配が感じられるが一人では怖くて正体を突き止められないらしい。だからモンスターだけでなく野生動物の駆除も行う私たちに依頼してきたということだ。じゃあ、まずは相手が何か知らないといけない。

 ということで話がすすみ、翌日客を送りだした後に教会へ向かうこととなった。

 

 夜、居酒屋業務をリンリンとランラン、マリス、ケントに任せて私はアルフォードと飲んでいる。パリンはなるべく夜の仕事に就かせないようにした。だって元居た世界じゃ当り前のことだからね。

 時折客の相手をしながら、なおかつケントの動きを監視しながらだったけど久しぶりに大人のお付き合いをしたって感じがする。年齢を聞かないままだったけど私がおばさんなら彼はおじさんだ。マリスはもうすこし若い。30代か?……やっぱり年齢の話をするのはやめよう。人は年齢ではないということにしておこう。なんてことのない飲み会だったが、それでも私は気持ちが軽くなった。アルフォードの誘いが有難かった。


 翌朝、客を送りだすと私たちは教会へ向かった。宿屋の掃除や洗濯はリンリンとランランに任せている。この二人がいることも非常に大助かりだ。ただ、ケントは調子乗りすぎて薄着で客対応をしていたので鼻声とくしゃみである。

 あー、なんか嫌な奴を思い出したわ……。

 スタリオン司祭は笑顔で私たちを迎え入れると、広い敷地内の庭を案内してくれた。教会には司祭のもとで何人かの弟子たちが学んでいるが、彼らがこの何かの気配を恐れてしまい庭へ出るのをためらうようになってしまったらしい。まあっ、若いのに何恐れているのよ!

「このあたりです。夜になると気配がもっと大きくなり、余計に弟子たちを怖がらせます」

 スタリオン司祭が指さした池は、見た目どうってことない池である。人工池でなく、背後の山から下りてきた沢の水が川となってここへ流れ込んでいるという、ごく普通の自然池だ。魚もぴちゃーんとはねるし、カエルやアメンボだっている。つまり人の手がながらく入っていない池だ。


 ふぁ、ふぁ、ハックショーン!ぐじゅぐじゅ……。


 ケントが大きなくしゃみをする。全く神域を何だと思っているのよ!ばっちいじゃないの。

 例の花粉症神を思い出して目が吊り上がる私。

 だが……ケントのくしゃみはきっかけを作ったようだ。


「お、おい……」

 アルフォードが私の肩を叩き、池のある方向を指差した。そこには何かの気配どころかこれから出没するであろう水の輪や泡が池の底から広がっているのだ。

「でるわよ、くるわよ。ケントはそこから動かないで。頼むから突っ込まないでよ」

 ケントの動きを制止し、スタリオン司祭とともに固唾をのんで見守る。弟子たちはこんな状況に遭遇すると逃げていたらしい。司祭は立場上向き合わねばならないと思っていたものの、モンスターであった場合のことを考えて私たちに依頼したのだ。

 一点を凝視している私たち。池の水の輪だけでなく池の底から光が現れ、私たちの恐怖はさらに増す。


 ほら、出た……。



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