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13追放されし魔剣持ちは修業中

野生動物のダニや寄生虫を落とすやり方は実際にあることです。体温が下がると潜んでいたダニ類は次の宿主を捜します。マダニは怖いですよ……。私もなんと自宅の庭仕事をしていてやられました。結構血を吸っていてクモよりも膨らんでいました。

 不本意な野生動物を駆除する依頼を受けて以来、討伐よりも駆除の依頼が舞い込むようになった。やってみて分かったことだが、モンスター化しないまでも害獣は田畑を荒らしまくっていた。被害は農家に限らず民家の庭の果実の木に登って餌をあさるという話も耳に入っている。こうした害獣については人間があまり手を出さなかった分、人間を恐れなくなかったというのが本当のようだった。昨今は農作物だけでなく人への被害もあるとのこと。人的被害があるということでいくらか報酬がアップしたが、それでもモンスター討伐に比べれば少ない。しかし畑を荒らす野生動物を駆除しなければ作物の流通が滞ってしまうし人の生活を脅かすこととなる。誰かがやらないといけないハンター案件を私達は受けざるを得なかった。兼業としてやっている強みだ。だが、そんな私たちの苦労をわからないアホもいる。

 ああ、全くどこの世界も同じだね。


 今日もイノシシを一頭、駆除して屠殺場(とさつじょう)へもっていった。屠殺場(とさつじょう)というのは牛や豚などの毛皮をはぎ肉を切り分けて小売店へ卸す業者だよ。鶏でもそうだけど、肉の解体は見ていてグロい。それだけでなく解体など衛生的に行わなければならず、しかも野生動物にはダニがひそんでいる。元居た世界でもハンターのおじさんが駆除したイノシシを外で吊るしてその下に薬品を薄めた水を浴槽のような大きさのたらいにはっていた。こうすることで死んで体温が下がったイノシシの毛から落ちたダニを殺す事ができる。特にマダニはやっかいだからね。動物の解体見てしばらくは何も食べられなかったけど、もう慣れた。だからグロは嫌だといいつつ討伐に加わっている。ダニのことをこの世界の屠殺場(とさつじょう)の人も知っていたのは幸いだった。

 

 いつものようにギルドへ報告に行くとなんだか雰囲気が違う。その正体は……。

「やあ、君たちが噂の宿屋パーティーかい?なんでも弱小モンスターの異変に気付いてそのボスを倒したんだってね。で、今は害獣ハンターとしてやっているのかい?そうか、そうか。君たちは弱小専門だから案件がこないのか。アハハ……。僕に任せてくれたまえ。僕なら君たちを救ってやることができる」

 そう言ったのはケントという冒険者だった。彼は剣を抜くと高く掲げて見せた。なんか……いけ好かない奴だな。

「おお……これがクトニオスの魔剣か。なんてすばらしい輝きなんだ。この剣で魔物をバッタバッタとなぎ倒していくんだ」

 周りの人々の羨望と期待の眼差しが熱い。

 たいそう立派な剣を持ち、イケメンのケント。名前からわかる通り転生者だが、とにかくイケメン過ぎる。そのせいか取り巻きもみられた。そしてどうやらケントは強者パーティーのメンバーだということだ。

 

 おいっ!この世界のイケメンは花粉症神を含めてアホばかりか?

 

 このケントという男、しゃべらなかったら普通にイケメンで済むのにしゃべることでアホをさらけ出している。それを踏まえても強者冒険者という彼は羨望の的であるようだ。

 

 ふんっ!それがどうした。こっちにはかわいいパリンがいる。あんたの間抜けな発言に比べたらパリンの詠唱はかっこいいぞ!

 

「神からチート武器や能力を貰って無双してるからって威張るんじゃないよ。その取り巻きもあんた自身じゃなくて、チートで強く見せているあんたをみているだけ。チート武器や能力がなければ何もできないくせに!女をはべらせてへらへらしてばっかみたい」

 思わず言い返す私。だが2人の取り巻きはそれ以上だ。

「あーら、おばさんが何を言っても響かないわよ。お生憎様、私達は彼に尽くしたいし、彼の側にいたいの。これは若い私たちの特権よ。悔しかったらおばさん、若返ったら?」

 と言う。

 なんとまあ、小憎らしいガキたちだ。ああ、悔しい!若返りに失敗したことを今更に恨めしく思うわ。

 本当に悔しくて握りこぶしを固める。何も言い返せず、そのまま笑い声を後にして宿屋へ帰る。気にするな、とアルフォードが慰めてくれたが、やはり気にする。好きでこんなおばさんに転生したんじゃないもの。

 

 宿屋について客を迎える準備をするが、ときどき馬鹿にされたことの悔しさが私の手を止める。あの言葉を思い出して大人げなく涙がポロンとこぼれてしまう。そんな私をパリンが心配してくれるのが救いだった。

「大丈夫。サユリの人柄は僕たちが一番よく知っています。どんな年齢であれ、ぼくたちはサユリが好きですよ。特に魔法を使うことをためらわなくなったのはサユリのおかげです。サユリがおかあさんでなくても僕はサユリが大好きですよ」

 いつになく積極的な態度のパリン。私がこんな感じだからみていられないのだろうね。アハハ……私のこと好きだって。えっ……好き?

「大人をからかうもんじゃないわよ」

 唐突に好きと言われて胸がきゅんとする。あ、これって少女漫画にあるような胸キュン?ケントの取り巻きの女の言葉で傷ついた私にパリンの言葉が沁みてくる。いや、そうじゃない。こんな気持ち以前にも経験した。そう、元居た世界でまだ結婚前のダーリンが大衆車へ乗り換えたためアッシー君として役目を果たせないと言ってきたあの覚悟を見たときの胸キュンだ。まさかの胸どぎゅーんを頂いてしまったのだ。倦怠期真っただ中だった私はそう言った胸キュンなど過去の話となっていた。でもそれは転生でリセットされたということか。

「今まで僕を守ってくれてありがとう。僕も少しずつ自分の方向が見えてきた感じです。いつまでもサユリをお母さんとして見ているわけにいきません。だって、前へ進まなけれなならないってシルビアが言っていたでしょう?だから、僕はもっと勉強します。大好きなサユリのためにちゃんと魔法使いとして使い物になるように勉強します」

 そう言ってにこっと笑って見せたパリン。本当にいい笑顔だ。

 ああ、もうだめ。パリンの顔を見てられない。心臓バクバク、顔がほてってくる。

「サラマンドラもサユリのことが好きだって」

 そう言ってパリンは私の涙を指でぬぐっていった。もう、これはとどめだ……。


 ばか、ばか、ばか……。いやだもう、心臓バクバクが止まらない。顔が赤くなっているのがバレたらどうしよう。おばさんの胸キュンなんて恥ずかしいし、笑われるよ、きっと。

 本心はそのまま久方の乙女心の余韻に浸りたかったのだが、邪魔はお約束通り現れた。


 居酒屋としている食堂の最初の客、それはケントと取り巻きの女だった。それだけでなく、有名なケントを一目見ようと野次馬たちもやってきており、またもや宴会となりそうな感じだった。

 くそっ!乙女サユリを邪魔してからに、腹が立つわ。

 でも、私はパリンに言葉という魔法をかけてもらったからね。乙女サユリは商売に専念することができる。私の胸はパリンの言葉という魔法の灯がともっているから。


 

 この日宿泊客は数えるほどで、あとは居酒屋の客ばかりだった。まあ、こんな日だってある。私達が駆除したイノシシは屠殺場(とさつじょう)できれいに捌かれてイノシシ肉として料理されることになった。臭みと特有の噛み切りにくさはあるが、まあそれが野生動物の旨味というものだ。ジビエなんてオサレに料理できればいいのだが、私はそんなオサレ料理に縁がなかった。元居た世界の田舎あるあるでタヌキ、イノシシ、鹿といった野生動物の肉を頂く機会が多かったが調理法はシンプルだった。

 で、今日はイノシシ肉の焼肉と鍋だ。食中毒予防のため薄切りにして提供する。野生動物はマダニだけでなく寄生虫だっている。しっかり火をとおさねばならない。

 

 宴会の間も私の心はパリンの言葉で温かい。足取りも軽いし身も軽い。お酒だってどれだけのゴブレットを持って運んだことだろう。一気に注文が来ても間違えることなくさばいていく私。でもね、そんな私の変化を気づかないほど客は飲んで騒いでいる。むしろいいのよ、これが。

 いやあ、ケントのおかげで満席だし料理や酒も飛ぶように売れる。このまま例スクリュードライバーでも提供しようかと思ったが、あの騒動で近辺から柑橘が消えて今や高値の花なのだからそれはできない。


 それからなん時間たっただろうか。居酒屋利用の客はひとりふたりと帰ってい閑散としてきたが……。

「えーっ、何をやっているのよ。どうすんの!」

 ケントの取り巻きが何やらケントを責めている。はてさて、いったい何がどうしたというのだろう。

「何かお困りごとでも?」

 そう言ってきく私にばつの悪そうな顔をする取り巻きの女。いやあ、その顔、いいねえ……(おばさんの嫌味だよ)。

「実は……支払いしようと思ったのですがケントが財布をすられてしまったようで払えないんです……。私達も手持ちがあまりなくてはらうことができません。ご、ごめんなさい」

 申し訳なさそうに頭を下げる取り巻きの女2人を前に私は内心、ざまあと思った。

「財布をすられたことについて私どもは何ら関係ありません。お支払いできないようであればこのまま警察へ届けるか、身をもって返していただくかになります」

 財布をすられたのはそちらの事情。うちとしては払ってもらうだけなのだから関係ないのだ。さて結構な金額だけどどうしようかな。

「警察は勘弁してください。できるなら働いて返させてください。実は私たちはケントをパーティーのリーダーから託されているんです。確かにケントは有名な魔剣もちのメンバーです。でもおわかりのとおり、あの高飛車な物言いをし、とにかく周りを見ようとしない。結構不注意によるミスもあり討伐のときにもヤバいことが何回もありました。パーティーの和を乱すとしてリーダーから修行して来いと言われて追い出されました。そんなケントを私達は心配してそばにいるんです。私達も調子に乗ってあなたに無礼な物言いをしました。誠に申し訳ありませんでした。どうか、警察だけは勘弁してください。警察沙汰になったらきっとリーダーは完全追放します。それくらいケントはぬけたところがあるんです」

 ふたりの女が頭を下げる。彼女たちの話が本当かどうかは知らないが、これも一種の追放ってやつか。息子が読んでいたラノベ界隈じゃ結構理不尽な理由で追放されるものだが、パリンにしてもケントにしても一応理由として成り立っている。

「じゃ、働いてもらいましょうか。修行っていうなら違う職種で修業もありだよ。別に魔剣とやらを売って代金としてもいいんだけど、それじゃケントの為にならないと思うから」

 はっきり言ってクトニオスの魔剣とやらを売った方が大層なお金になるのがわかっていたが、身ぐるみはぐような悪党をやりたくない。労働という対価で払ってもらった方がすっきりするというものだ。それにしても財布をすられるとは隙だらけというか不用心というか……。抜けているとはこのことなんだな、きっと。取り巻きのふたりはケントのおもり役ということだろう。

 彼女たちの名前はリンリンとランラン。あれ、どこかで聞いたような……そうそう、昭和の双子歌手だ。パンダが初めて日本へやってきたのが1972年、彼女たちが「スター誕生」という番組でデビューしたのが1974年。まるでパンダを意識したような名前で歌うリンリン・ランランは香港出身でインディアンの様な髪型と服装をしていたっけ。そういやいつしかテレビから消えたな……。そのアイドル歌手と同じ名前だから転生者かと思ったがそうでもなかった。


 こうして飲食代を払うため、対人関係の修業のためにしばらくケントたちを預かることとなった。幸いなことに従業員用の部屋はまだ残っていた。しっかり働いてもらうわよ。

 転生者特典の魔剣を持つケント。下界へ度々降りて遊んでいる女神から賜ったものだ。この女神が遊び惚けて不在となるから花粉症神プリムスが私の対応をした。何だか無性に腹が立ってくる。やはりあのプリムスをなぐってやりたい。女神をしばき倒したい。


 

 ケントが働いているという噂がたちまち流れ、話をしたさに客が訪れるようになって忙しくなった。その合間を縫ってケントはアルフォードたちの野生動物ハンターとして同行する。私とリンリン、ランラン、パリンは宿の業務に徹した。

 日中の宿屋業務をする人員が増えたことで、洗濯や掃除などずいぶんと助かっている。今まで私とパリンだけでやっていたのでヘロヘロになりながら洗濯をしたものだ。


 未納となっていたケントたちの飲食代は2日働けば何とかなるのだが、それ以上にケントの修業という目的があった。でも私の経験上、性格ってそんなにかわるものじゃないからね。だからケントはいわばお笑いキャラとしてやっていけばいいと思うのだけど、冒険者としてその選択肢はないのだろうね。そう、強者パーティーというプライドだ。リーダーさん、さぞかし苦労してきたんだろうな。……知らんけど。


 アルフォードたちは何と昼前には駆除をして帰ってきた。魔剣持ちのケントは害獣たちの群れに臆することなく、むしろ何も考えないまま突進していき害獣を次々に駆除していったとのことだ。

 何も考えないまま突進?ケントはそんなやり方で今までやってきたのか?命がいくつあっても足りないぞ。いくら転生者でも全能じゃないんだから。

「僕にかかれば君たちに一切の苦労をさせないよ。遠足気分でみてくれたまえ。あはは……」

 ケントはいとも簡単に駆除したことで鼻高々である。虫に刺されたのか肌をぼりぼりかきむしっているが、ほんまにいけ好かん奴だこと。いくらイケメンでもこれはあかん。


 だけどちょっと待って……。

 私はケントがかきむしっている腕や首周りに赤いぽつぽつを発見する。

「屋内へ入っちゃだめえ!しっしっ」

 慌ててケントを追い出す私に何が起きたのかと不思議そうにアルフォードやリンリンとランランは見ている。

「パリン!ケントをなんでもいいから水洗いして!ダニがケントの体のあちこちにいるわよ」

 ただならぬ私の様子を見たパリンは、水を呼び集めるとケントの周りで渦を巻くように水流を起こしていった。


 どうやらケントは害獣の群れへ突っ込んだ際、害獣にまとわりついていたダニが一斉にケントの温かな身体に移住したらしいのだ。って、やだもう!

 

 しばらくして水浸しになったケントがあらわれた。何が起きたのかよくわかっていない様子。

「突進するのはイノシシだけにして!ひとりパフォーマンスじゃないんだからね。うちのリーダーはアルフォードということを忘れないで」

 私の怒りにケントは言葉を失っている。褒められると思っていたんだろうが、そうは問屋が卸さないぞ。

「も、申し訳ございません」

 リンリン、ランランが代わりに謝っている。


 ああ、全く世話のやける魔剣持ちだこと。


 追放されし魔剣持ちは修業中だ。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。

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