表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/14

12デカいネズミを駆逐せよ

今回、少し多めの文字数となってしまいました。とあるサイトでネット小説は通勤通学のときに読むので、1話あたり1000文字程度を毎日投稿するのがのぞましいとありました。

今さらその文字数にするわけにいかず、このままいくしかないかなあ。 


 シーマたちは、あれからすぐに森の弱小モンスターに起きている異変を検証した結果、事実であるとギルドへ報告をした。するとどうなったか。ギルドは森の弱小モンスターの規格を変更し、討伐賞金もあがったのである。まあ、それは当然な流れだと思う。弱小モンスターの中に変異種がおり、しかもスライムについては私が弱点をあからさまにしてしまったので、シルビアのような魔法使いがいれば問題ないと思われてしまった。森のモンスター全てが凶暴化しているわけではないが、おかげさまでこの狩場は注目されることとなり、案件を探しているパーティーがやってくるようになった。魔王軍や高難度ダンジョン制覇に挑めないレベルの冒険者たちは、ここならいいだろうと、ちょっと小ばかにした思い付きでやってくる。そうして弱小モンスターを狩るわけだが、その影響をもろに受けてしまった者もいた。宿屋パーティー、そう私たち。

 

 弱小モンスター専門で討伐してきたアルフォードたちは自分たちの狩場が減り、思うように討伐報酬を得られなくなった。そりゃ当初から生活をするために住み込みで食事付きの宿屋業務と掛け持ちしており、こちらにとっても有難かったが、唯一の狩場をとられた感じで行き場を失ってしまったということだ。

「弱小モンスター討伐業はもうやっていけなくなったようね。このまま宿屋業務に専念する?パリンと物つくりをやってみる?それともどこかの中堅パーティーを探す?」

 落ち込んでいるアルフォードとマリスに声をかける。

「最後の案はもうやってみたよ……。いくら経験年数があるからといっても俺たちはそれぞれソロで弱小モンスターばかり相手にしてきたんだ。他のパーティーが欲しがっているのは上級冒険者だよ。俺たちの持っている武器は普通の剣だし、俺たちの能力だってごく普通だ。だから弱小モンスターしか相手にできなかった。そんな俺たちを迎える物好きなパーティーがいると思うか」

 そう言ってため息をつくアルフォード。ああ、いつの時代も弱者は強者の下で隠れていくものだ。そして彼らは彼らなりにプライドを持っている。ほんとにどうしたものかと思いながら客を送りだす。いつもならこの後にアルフォードたちは討伐へ行っていた。それがもうないのである。

 客を送りだした後は洗濯と掃除が待っている。彼らは自然とそれを手伝ってくれているが、やはりどこか納得できないものがあるだろう。

 私はギルドへ行き、アルフォードとマリスの現状をこっそり話して何か案件があれば優先的に回してもらうことにした。

 シーマのようなパーティーならいくらでも案件をこなすだろう。その彼らは新しく見つかったダンジョンへ向かっている。いつにでも挑戦し続けるって大事だね。それがなくなったら老化ということだ。それにしてもダンジョンってあちこちにあるものなんだね。知らんけど。

 

 ある日、ギルドからわざわざ手紙が届いた。町中にあるギルドだから手紙をよこさなくても……と思ったが、こうして直に来る手紙は意味があったのだ。ギルドからの手紙は私達宿屋パーティーを指名しての案件だった。

「弱小モンスター専門の俺たちに何を指名してくるんだ?何かあるんじゃないか」

 アルフォードとマリスは勘ぐっている。そりゃそうよ、今の私たちは素直に喜べないほど物事に懐疑的になっている。つまり、よくない状況だ。

「ともあれ、何の案件か行ってみましょう。ここに内容が書かれていないってことは直接話したいってことだと思うわよ」

 そうなのだ。手紙には案件の内容が書かれていない。何か相当難しい案件なのかもしれない。


 ギルドからの案件の詳細を確かめるために私達はギルドへ向かった。不安と期待が入り混じっているってこんな気持ちだろう。


 しかしその内容は早速アルフォードたちのやる気をなくしてしまう。

「これって……冒険者のする仕事ですか?俺たちは冒険者であってハンターではないぞ」

 アルフォードがギルドのお姉さまに問いかける。そう、私たちを指名してきた案件、それは……畑に来る野生動物を排除することだった。


 ああ、確かに畑を荒らす野生動物は元居た世界、異世界問わずいるのだろう。イノシシ、鹿、タヌキ、カラスに猿。熊なんて出たらほんとにどうしよう。これに加えてモンスターだから、狩るという意味では活躍の場が多くあるということだ。ただ、モンスター相手と野生動物相手じゃモチベーションも変わってくるだろう。アルフォードたちのプライドがそれを拒んでいるのが見てとれた。

「やりましょう、アルフォード。どんな依頼であれ、私たちにということであればこれも自分の鍛錬だと思ってやるのがいいの思うの。信頼というものは積み上げていかないといけないものでしょう?これも勉強だと思ってやりましょう」

 これはどんな世界でも同じことだろう。商売には信頼が必要であるし、それは小さなことから積み上げていくものだ。小さな会社が信頼を積み上げて業績をあげ、大きな会社へと成長することと同じなのだ。

「まあ……サユリがそういうなら断る理由はないな」

 アルフォードとマリスは互いに顔を見合わせて頷く。

「引き受けてくださるんですね。ありがとうございます!ではここにサインを」

 ギルドのお姉さんはアルフォードに書面を渡す。契約書だ。労働には契約が伴う。その書面の文言にアルフォードは二度見して、マリスや私、パリンにも見せた。

 なんとまあ、報酬3倍ということだ。この条件を見て私たちは思わず表情が緩む。


「実はですねえ、依頼主はこれまでにも被害を受けておりまして、しかも野生動物であるはずが凶暴化したものもいるらしいんです。森の弱小モンスターの異変に気付いて討伐されたあなたたちにどうしてもということで依頼がはいったのです」

 ギルドのお姉さんは非常に良い笑顔でこのように言った。

 

 それ、先に言えよ!

 

「この報酬額だと普通にモンスターを討伐するのと変わらないわね。なら、尚更やるべきよね。もしかしたら凶暴化した動物にあえるかもしれないし……」

 そう言うとパリンがけげんそうな顔をした。弱気?

 報酬を聞いてアルフォードとマリスも納得をしてやる気を見せた。全く、現金な人たちだ。そりゃあ生活がかかっているのだから仕方がない。


 

 その日は現場の下見と準備だけ行い、そのまま宿屋業務となった。森が新たな狩場となってから客が増えており、忙しいのは有難いけど私たちは狩場を失って複雑な気分。弱小モンスター専門なんてそういないからね。誰だって強いモンスターを討伐したりダンジョンを制覇して富と名声を得たいもの。その隙間をアルフォードとマリスが埋めていたのにできなくなってしまった。ほんっとに複雑な気分。いっそのこと森へ行くパーティーの宿泊代を値上げしてやろうかしらとも思ったけど、私は小心者のおばさんだからそんなこと、できなーい。


 

 当日さっさと客を送りだした私たちは依頼主の広大な畑へ向かった。畑のすぐ近くには里山があり、そのまま深山へ続いていた。それは元居た世界でも見られた光景だ。依頼主はここで果樹や麦、野菜など栽培して出荷している。それを野生動物にやられたら育てた苦労も報われないというものだ。


 それにしても広すぎる。1(ちょう)、(1町は1haのことで10000㎡)2町の話ではないのだ。町の郊外にあるこの畑、山の反対側は広大な土地であり、先が見えないアメリカの耕作地を彷彿させるほどの広さである。

 広すぎて動物がでてもわからない。ドローンなんてこの世界にはないし、パリンにそれを作ってもらおうとしても私がまず説明できないので無理だ。

 私たちがそれぞれ分かれて捜索するとしても今度は互いの連絡ができないという事実に直面する。


 さてどうしよう。


「サラマンドラを飛ばしてみます。サラマンドラが飛びたいって言ってますから」

 私たちの困り感を察したパリンがこのように提案してきた。


 ちょっとまって。サラマンドラが言った?


「サラマンドラがそう言っているの?サラマンドラの言葉がわかるの?」

 私の問いにパリンは頷く。

 へえ……テイマーって意思疎通もできるようになるんだ。私も元居た世界では動物を飼っていたけど意思疎通は難しかったな……。

「じゃあ、サラマンドラに飛んでもらって上空から野生動物の流れを見つけてもらおう」

 アルフォードの言葉で一斉に物事が進んでいく。

 空を飛べない人間はどうしても見方が平面的になってしまう。人力による測量で日本地図を作り上げた伊能忠敬はそういう意味で偉人だと思う。


 サラマンドラはくまなく畑を周回し、ある所で一声鳴いた。


 ケーン!


「あそこに野生動物のボスがいるようです。そしてその周りに群れがあります。サラマンドラはその群れをこちらへ追い込んできます」

 なるほど、テイマーって結構便利な職業だ。私は動物を飼い鳴らすだけのイメージしかなかったけどね。

「来るぞ!構えろ」

 姿のわからない敵に向かっていくアルフォードの言葉に恐怖を感じる私。野生動物って何なのよ。クマ?イノシシ?今更に依頼を受けたことを今になって後悔する。

「くわばらくわばら……」

 おまじないを唱えながら剣帯から肉切り包丁を取り出す。あ、討伐に持っていく包丁は調理用でないからね。さすがに共用できないから。


 ドドドドドド……。

 

 遠くから地響きが聞こえる。この音からしても相当なものだろう。私は益々不安になった。その音は群れが近づくにつれて大きくなる。サラマンドラは確実に私たちのもとへ群れを誘導しているのだ。

 そして土煙とともに私たちはそれらと顔を合わせることとなる。


 えーっ!なにこれ……。


 足が震える私。いや、私だけでなくアルフォードとマリスも恐れおののいている。パリンは怖さで固まってしまっているようだ。


 そこにいたのは巨大なヌートリア。ええ、田舎暮らしをしていた私が間違えるはずないもの。畑を荒らす害獣、ヌートリアだよ。毛皮用だか何だかで輸入したものが急激に繁殖したネズミの仲間だ。ネズミといっても普通に子犬かデブ猫ぐらいの大きさだからイタチよりやっかいなのよ。そのヌートリアの群れの先頭に巨大ヌートリアがいる。この巨大なヌートリア、これがボスだ。高さは10メートルくらいあり、私たちを余裕で見下ろしている。

「うわあ……。どうすんのよ、これ」

 いやさ、剣や包丁なんて振りかざしてもどうにもできない大きさなのだ。足が震えて逃げようにも体が動かない。そしてパリンはと言えば固まったままだ。ああ、なんとかしなきゃ。保護者サユリは無い知恵を絞って考えに考え抜く。


 ぐわあっ!


 ヌートリアのボスが大きく口を開けて牙を見せる。うへえっ!私たちを食ってしまうってこと?自然と足が後ろへいってしまう。

 食われたくない、食われたくない、食われたくない。餌になるのは嫌だ!


 ボスの下ではヌートリアの群れが収穫を待つ作物の畝へ群がった。そいつらは作物を狙っている。


 こらっ!どれだけ時間と手間かけて作物を作っていると思うんだ。農家さんの苦労を無駄にしたくない。

 そんな私の思いを知ってか知らでかヌートリアの群れは収穫前の熟した実を食べだした。


 うぎゃううぎゃ……。


 あれ、なんだか様子がおかしいぞ。その実を食べたヌートリア達は食べた後、しきりによだれを垂らしてまずいと言わんばかりに吐こうとしている。これは毒草?そう思ってアルフォードに聞いてみた。

「これって野菜だよね。なんであんなにまずそうにしているの」

 そういや、私はこの世界の野菜全て知っていいるわけでない。

「サユリ知らないのか?あれは激辛なんだ。名前なんだったけな……赤いし匂いも甘いから騙されるけど食べたら天に昇ってしまうかもしれないほど激辛だぜ。若者の間に激辛が好まれるようになって人気が出たんだ」

 そうか、異世界でも激辛ブームがあったんだ。元居た世界でいえばハバネロやハラペーニョといったところか。匂いが甘いのに味は不味いものを私は経験したことがある。のど飴に使うカリンの実は甘い匂いをだしながら、食べるとえぐみがかなりある。ジャムを作ろうとしたが、いくら砂糖を入れてもえぐみが取れず、まずいままとなった。見た目と匂いと味の伴わないものがあるのはどこの世界も同じなのか。

「パリン、あの激辛野菜の汁をヌートリアに浴びせて!」

 この際何でもいい。固まっていたパリンは我に返ると詠唱を始めた。


「深淵より滴る禁忌の果汁よ、ヌートリアの群れにその雨を降らせよ!」


 たちまち甘い匂いが立ち込めたかと思うとヌートリアの群れにどさどさっと何かが落ちてきた。激辛野菜の汁である。この汁の匂いは強烈で、私たちまで巻き添えを食ってしまった。

 コンコンコンコン……。咳と涙の鼻水が止まらない。もちろんヌートリア達も同じこと。それを我慢して苦しみながらも逃げようとするヌートリア達を排除していく。そんな修羅場の中でもボスはボスだ。若干弱った気配があるがそれでもまだ健在である。


 剣を抜いて対峙するアルフォードとマリス。私も両手に包丁を持ってどこでもぶすぶすやってやる気でいた。


 ぐうわああーっ!


 咆哮を揚げるヌートリアのボス。ひえええっ!もう恐怖でしかない。

 ああ……ヌートリアって弱みなかったっけ?私は必死で考える。

 

「そうだ!パリン、ここに氷結魔法できる?」

 氷結魔法ってあるのか知らないが、とにかく『冬』だ。冬が今すぐほしい。ヌートリアは寒さに弱いはず。それなら……。

「きいたことはあるけど、見たこともやったこともありません。事象はどうしたらいいんですか」

 パリンの言葉にああっと納得する私。冬や雪の気象条件など細かく説明している暇はないし、私も専門家じゃない。あーん、どうしよう……。

「パリン、氷を使え!今なら氷式冷蔵庫の氷やかき氷用の氷があるだろう。局地的な冬ならそれいけるんじゃないか」

 マリスが提案する。


 そうか、冷蔵庫の氷、かき氷の氷……。召喚魔法か何かは知らんけど各家庭から氷が消えるということか。


「氷気よ我が元へ集え。フローズンミスト!」


 ヒントがあれば問題を解くのが簡単になるということだね。パリンの魔法で一気に周辺の気温が下がった。うへっ……寒い。使い捨てカイロほしい。

 この凍てつくような寒さでたちまち地面が凍り、ヌートリア達の毛に氷がはりついていく。私達は震える身体を何とか動かしながら寒さで弱ったヌートリアを駆逐していく。さすがのボスも動きを止めている。デカさゆえに氷気の風を全身に受けているのだから仕方がない。

「いっけえー!」

 アルフォードとマリスがボスヌートリアへ向かって切りつける。


 寒いからもう早く決着つけたい。帰ってお風呂入りたい。

 

 この氷気の魔法だけで流れが変わり、 ボスは私達の前に倒れた。害獣め!農家さんの苦労を知らんのか。


 ヌートリアの群れを駆逐し、ボスも倒すことができた私たち。だけどこれで終わりではなかった。

 報酬が3倍から2倍に減額されたのである。寒い思いをして何なのよ、全く!

「討伐自体は成功なのですが、一部の畑の作物がなぜか枯れておりまして……。害獣討伐の余波だと思うのですが、市場価格が高騰している品種だったので減額となりました。ご了承ください……」

 申し訳なさそうにギルドのお姉さまは言う。


 え?市場価格が高騰している品種ってもしかしてあの激辛野菜?

 し、知らんがな。そんなこと討伐している私らに関係あるの?


 ぶつぶつ文句を言いながら宿屋へ帰る私たちの耳には、また別の事件の噂が入ってくる。


「町中からいきなり氷が消えたってよ……。氷屋の陰謀じゃないかって思ったけどそうでもないらしい。何が町に起きたのだろう」


 不安そうな町の人々の声から逃げるように私たちは宿屋へ帰り、業務の準備を始める。


 パリンが集めた氷は町からだった。そんなこと気にしなーい。へへっ!

 

最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ