11渾身のスクリュードライバー
とあるかたのX(Twitter)の投稿にもあったけど戦闘シーンを書くのは難しい……。
あれこれ考えて何とか仕上げています。
スクリュードライバー、要注意ですよ。
スライムの精製と分解の化学式のサイトです。私も知らなかった。
https://note.com/geltech/n/nefec5755832e?sub_rt=share_sb
翌朝、不機嫌な顔をしてシルビアが起きてきた。他の仲間たちは宴会が終わると自分たちの家へ帰っていったが、さすがに泥酔したシルビアは泊めるしかなかった。飲みすぎはトラブルの元、酒は飲むもの飲まれないもの。私も若いころは泥酔して迷惑をかけたこともあるからその失敗をふまえてあえて言っておく。
シルビアは二日酔いで相当しんどいらしく、水分を要求してきた。こんなときはすっきりするものがいいだろうと、さっぱりしたレモン水を提供する。もうあんな馬鹿な飲み方をしちゃだめよ、と言うがそんな言葉も頭にささるらしい。それほどの頭痛なのだ。
「あんな酒は初めてだ……。なんて酒を飲ますんだい、全く……」
食堂の椅子の背もたれに深く背中を乗せてレモン水を一気飲みするとお代わりを注文する。
「魔法使いなら酔わない魔法なんてできないの?一般人の私からすれば、魔法使いはなんでもできるという認識しかないんだがね」
そう言って私はもう一杯のレモン水を提供した。
「魔法使いだといっても神じゃないんだよ。できないこともあるし、そもそも自身の魔力を詠唱という言葉によって具現化するものだから神の力をつかうものではない。何でもできるってのは神だけ。魔王だって神には勝てない」
シルビアはレモン水を何度かに分けて飲む。
「神は何でもできる……か……」
そう言って私は黙り込んだ。あの花粉症神への怒りがぶり返してきた。何でもできる神なら花粉症ぐらい自分で治せよ。ほんまに今度会ったら絶対ぶん殴ってやるからな。
「で、今日は森へ弱小モンスターの異変が真実かどうかを検証しに行くんだっけ……まあ、あんたの逆立ち姿を楽しみにしておく」
そうシルビアが言っているうちにパリンが朝食をもってきた。全粒粉のパンとジャム、サラダにスープである。シルビアの前に来ると、サラマンドラがすかさずパンを火焔であぶった。火力調整しないと真っ黒こげだからね。
「あんたも魔法使いの端くれなら、臆せず魔法を自分のものとしなさい。学べるときは今しかないの。歳をとったら頭が固くなって何も入らないから」
シルビアの言葉に頷くパリン。ってその言葉、私への当てつけ?ほんっとに嫌な女だね。
「僕もお酒を飲むことができるようになったら、シルビアさんのような魔法使いになることができますか」
パリンはじっとシルビアの顔を見つめている。おいっ!学びが違うぞ。
「パリンっていうんだっけ……。かわいい顔をしているね。私のパーティーに入ってくれたら可愛がってあげるよ。サユリよりも私の方が若いし綺麗でしょ。ふふふ」
シルビアのこの言葉は誘惑だ。保護者として悪の誘惑からパリンを守らねばならない。
「パリン、そろそろ森へ行く準備をしましょ」
そう言ってパリンの手を引くとさっさとその場を離れた。後ろでシルビアがなんだか罵声を浴びせてきたが、気にしなーい。
本日の森の異変検証の討伐は現地集合ということで、宿屋パーティーとシーマのパーティーは森の入り口で合流した。シーマのパーティーは剣使いシーマとビーワン、魔法使いシルビア、槍使いシャレッドと鞭使いのセドリで編成されている。転生者はいないが、熟練のパーティーということで魔王軍の幹部を倒したこともあるらしい。これは人間の努力の賜物と言っていいだろう。
「さあて、本当に弱小モンスターに異変が起きているか確かめようぜ。お前たち宿屋パーティーは後ろでみておけ。もっともあれは嘘でしたっていいうなら今でもいいぞ」
シーマがあおってくる。やれやれ……そうまでして信用できないのかい。
私たちはシーマのパーティーを前にして離れて後ろへ続いた。弱小モンスターは森を往来する人間を襲ってくるので、小物はたいてい森を進んでいけば現れる。だから探しやすいと言えば探しやすい。アルフォードたちが日帰り討伐できているのも探す時間が短いからだ。
ガサガサ……。ほら来た!身構えるシーマたち。しかしその構えはすぐに解かれた。現れたのはいつものスライムだったからだ。
「何だよ、スライムかよ……」
シーマは吐き捨てるようにつぶやくと仲間たちとともにスライムを倒していく。そりゃあね、あんたたちのような賞金稼ぎには相手にもならないかもしれないけど、スライムだって往来の人々に危害を与えるモンスター。誰かがやらなければ往来の安全が守られないのよ。だが、そう思っているうちにシーマ達はスライムの群れを一掃してしまった。ものの10分も経たない間だ。
その後もスライムやらゴブリンやら現れたが、彼らは余裕のよっちゃん(昭和の言葉:簡単、余裕ということ)であっさり討伐をしていく。
うん、なんか気まずい。視線が私たち宿屋パーティーへ注がれる。
「終わろうぜ……。スライム相手に戦ったと言われたら俺たち情けねえからな」
シーマの言葉は明らかにアルフォードのギルドへの報告が嘘だったと言わんばかりだった。彼の視線は私にも注がれる。
わかっているわよ……あんたたちは私の逆立ちをみたいんでしょ?
「シーマさん、もう少し待ってくださいませんか。サラマンドラが何かの気配を察しているようです。この気配は弱小モンスターではありません。僕たちがてこずったゴブリンと同じような強さの気配です」
パリンのいう通り、サラマンドラはかなりピリピリして、彼の肩から飛び立つと森の上空を旋回し始めた。
ケーン!
雉のような鳴き声がこだまする。何かを発見したようだ。
「ほほう、少しは俺たちの相手になるようなモンスターがいるのか」
シーマたちは笑顔で態勢を組む。だが、サラマンドラは上空から一直線にある男へ向かっていったのだ。それはシーマのパーティーの鞭使い、セドリ。
「え?セドリ……」
私たちの目の前でセドリの形がみるみる崩れていく。何ごとかと凝視する私たち。サラマンドラは崩れたセドリの上をバサバサとは音を立てて旋回したかと思うと、ようやくパリンの元へ戻った。
「なるほど、スライムなら形を変えることができるからな……って、それじゃあセドリはどこだ?」
とシーマが言うまでもなく彼の行方を知ることとなる。なんとスライムの中にセドリが食われているではないか。自分自身も何が起きたか把握しきれていないらしく不安そうな顔で私たちを見つめている。
どうやらこのスライム、体の大きさを小さな粒にかえて密かにセドリにまとわりついていたようだ。だからセドリ自身も気づくのが遅れた。
「……だめだ……いまこいつを倒したらセドリも巻き添えを食ってしまう。くそっ!スライムのくせに変な知恵をつけやがって」
シーマは剣を構えたままスライムを凝視する。
そんな私たちの焦りを知っているのかスライムが徐々に増えていく。いやー、増殖パターンは私の最も嫌いなパターンだわ。増えていいのはお金だけだもん。
「でもこのままではセドリは助からないぞ。シーマ、攻撃しよう。相手はスライムだ。餌をのみ込んでもおかしくないだろう?」
もうひとりの剣使いビーワンが構えるとシーマも剣をスライムへ向ける。槍使いシャレッドもその横で構えている。魔法使いのシルビアは相手の出方を見てどの魔法を使うか判断をするようだ。
「でやあああああああ!」
シーマとビーワンがスライムを切りつける。ただ、のみ込まれている仲間をはずしているので躊躇している感はある。
「うわーっ!」
スライムの手が(スライムのどこが手でどこが足か全くわからないが、ぐにょーっと伸びて何かを握っているならそれが手だと判断する)まるで納豆のねばねばの如く伸びてシャレッドに巻き付いた。そして数回大きく振り回したかと思うとそのまま手を離す。地面にたたきつけられたシャレッドは身動きしない。
あ、これまさかヤバい?
しかしさすが経験豊富なパーティーだ。二日酔いを醒ますかのように即座にシルビアが回復魔法をかけるとシャレッドは大きく息をして立ちあがった。この様子に目を見張るパリン。それは自分もそうなりたいと思っているのだろうか。私はパリンがパニックを起こさないかと不安になり、手を握り締める。
「坊や、自分で作った壁は自分で壊さないといつまでも前へ進めないよ。私の側にいなさい」
命令口調でパリンに言うシルビア。この言葉に操られるかのようにパリンは静かにシルビアのもとへ歩み寄った。
「パリン!」
心配で後を追う私にシルビアは冷たい言葉を放つ。
「あんたもパリンのことを心配するなら、このまま使い物にならなくなる心配をしないとだめよ」
はい……まことにおっしゃる通りです。何も言い返せず頷くだけの私。ああ、これで保護者サユリは要らなくなるのか……寂しい……。
反撃をしていくシーマたち。そして回復魔法や支援魔法を駆使しながら彼らを守っていくシルビア。パリンはそのそばでシルビアのやっていることを見て覚えようとしている。それは詠唱という言葉だけではない。
そうだね……近くで見て覚えるのが一番だ。
そうは言ってもこのスライムは切ったり刺したりしてもすぐに体のダメージが消える。というより納豆のねばねばをきれいにとることを考えるくらいしつこい。
私はしつこい男が嫌い。バブルがはじけたらハイソカー(ハイソサエティカー)に執着せず、あっさりと大衆車に乗り換えた夫はその意味でも尊敬する。
弱小モンスター扱いのスライムの変貌にてこずっているシーマのパーティー。アルフォードとマリスもみていられず参戦していく。
私も武器専用で作ってもらった刺身包丁を手に向かおうとするが、ふとあることに気が付いた。
昔々、まだ子どもが保育園児だったころの思い出にそのヒントがあった。
「シルビア、スライムは昔から動物みたいに意思をもって動いていたの?」
そう、スライムってスライムなのだ。なんとまあわかりにくい表現でごめんね。
「はあ?何もしらないのかい。以前のスライムはこんなんじゃなかった。コケのように静かに鎮座しているもので少なくとも意思があるようなものじゃなかったよ。いつの時代からか、意志をもってモンスター化したんだよ」
戦いに集中している中で私の発言が邪魔したようだ。
以前のスライムは意志をもっていなかった?ということは何かの入れ知恵現象があったということか。うん、これは宇宙人案件だ。
ああ、雑誌「ムー」を愛読した影響がでてしまった。
「パリン、柑橘の果汁を集められる?それで攻撃してみて」
私が叫ぶと素直なパリンは一瞬考え(おそらくイメージをしていたと思う)詠唱を始めた。何とこれに疑いもなくシルビアまで協力をしてくれたのである。
そうこうしていく間にもスライムからの攻撃にあうシーマたち。早くしないと彼らが傷ついていく。
「太陽と大地の恵みを受け、たわわに実った柑橘よ。我が求めに応じ、秘めたる蜜の流れを余すことなく抽出せよ、フルーヴィス」
パリンが精一杯の詠唱で近隣の柑橘の果汁を集めると、それらは私たちの上空で渦を巻きだした。だがまだ小さな渦だ。このことにシルビアが力を貸す。さすがに経験豊富な魔法使いとあって魔力が全然違う。パリンの作った柑橘果汁の渦はシルビアの力で増大し大渦となった。
「果汁をスライムに思い切り浴びせて!果汁でスライムを包んで!」
私が指示をだすとシルビアとパリンは理由を考えることなく実行する。
「いけ、スクリュードライバー!」
何処から集めたのかと思うほどの柑橘果汁の渦は大波となってスライムを包み込む。これ、ジュースにしたら何人分だろう。というよりなんであの酒の名前なのよ。全く魔法ってわけわからない。多分イメージと思いが混ざっているのだと思うわ。二日酔いの元凶スクリュードライバーだからね。
シーマやアルフォードたちは何ごとかと思っているだろう。彼らは様子を伺うかのようにスライムから距離をとっている。
果汁で包まれたスライムはやはり私の知っているスライムだった。この変容は間違いなく元居た世界のスライムの特性と似ている。
何が起きたか?
鞭使いセドリが姿を現したのである。そう、スライムは形を形成できず液状化している。
セドリが走ってシーマたちのもとへ行くともうやることはひとつだ。
ケーン!
パリンの肩からサラマンドラが飛び立ち、火焔で液状化したスライムを焼き尽くす。高温の激しい火焔で液状化していたスライムはたちまちの内に蒸発した。
こうして凶暴化したスライムを無事に討伐した。やった!これで逆立ちしなくて済む。
ハアハア息を切らせながら私たちは事の成り行きを整理し、帰路につくこととした。もちろんシーマたちはギルドへ森で起きている異変の検証報告をするとのことだ。
私もパリンが達成感をもったようで嬉しい。
そんな私の体を誰かが激しく揺さぶる。
「ちょっと!教えなさいよ、なぜあの凶暴スライムの討伐方法を知っていたの?あんたはただの宿屋の女将じゃないの?なんで?ねえ!」
シルビアが私の腕をつかんで離さない。
アハハ……。言えない、言えないわ。
子育て真っ最中のころ、子どもとよくスライムを作って遊んだものよ。PVA洗濯糊とホウ砂水を混ぜてスライムを作った。色を付けてもきれいでスライムの感触に子どもはやみつきになったのよ。ただ、これが髪の毛や絨毯、セーターなどについたらもう最悪。なかなか取れない。で、助け舟が柑橘果汁というわけね。柑橘の中にがクエン酸が含まれていて、スライム成分のホウ砂と化学反応を起こす。するとスライムの形状が崩れるということ。化学式を言えって?おばさんにそんな専門的なことはわからんちーん。
シルビアのしつこい問いに笑うしかない私。だってこの世界の人々に何をどう説明したらいいのかわからないから。
気にしなーい!
最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。




