第十九話 作戦開始
フロントの騒ぎをバルカンが鎮め、事情を説明したら部屋に戻してくれた。
ちなみに翔太は追い出されそうになった支配人にめっちゃ謝ってもらったらしい。どうやら翔太が来るのを知っていたのはオーナーであるゲイルのみで他のスタッフメンバーはその事を一切説明されていなかったみたいだ。
事が収まり部屋に戻った3人は一旦現状を整理するため話し合っていた。
「で、流星の瞳ってなんです?」
「流星の瞳ってのはな」
「ガイア様それ以降は私が説明します。」
「そうか」
「バカにでも分かるよう説明してやるからありがたく思えよ」
「いちいち癇に障るやつだな」
「世界には1万人に1人の割合で瞳に何らかの権能を秘めてる者が存在する。」
「それを特殊眼と呼ぶ」
「流星の瞳というのは特殊眼の一種だ」
「俺の真偽の瞳も似たようなもんか」
「貴様も特殊眼を所持しているのか、つくづくふざけた野郎だ」
「本当にお前可愛くねぇな!」
「そもそも特殊眼を持ってる者自体珍しい上、中でも流星の瞳は数億人に1人の割合でしか誕生しない」
「その為、どういう特徴なのかも明確には明かされていない」
「俺も存在自体は認知していたが、どういう権能なのかまでは把握していない」
「師匠ですら分からないのかよ」
「特殊眼は神話の時代から存在しており、神が見込みのある者だけに授ける代物だ」
「だから俺も全ては把握しきれてねぇよ」
「ある意味、技能や仙技より希少かもな」
「マジっすか、、、」
「それより、黒の十字架団情報は手に入れたのか?」
「えぇ、この宿のスタッフ何人かにそれらしい情報を集めてまいりました」
「話せ」
2週間ほど前この国から南東に進んだとこに位置する小国、スクベラ王国の王女が攫われる事件があった。
犯人は2人で、身にまとっていた黒いローブに十字架のエンブレムがあったとのこと、現在でもスクベラ王国の騎士団が総出で捜索してると聞く。
「なるほど。で、お前のことだどうせその先の情報も掴んでんだろ」
「えぇ、それにスクベラ王家は代々特殊眼の家系です」
「さっき1万人に1人とか言ってなかったか?」
「本来はその認識で正しい」
「だが、あそこの一族だけは昔から産まれてくる子供の殆どが特殊眼持って産まれてくる」
「師匠も知ってるんですか」
「あぁ、もう200年ほど前のことだがな」
「当時の国王もその子供も全員特殊眼を持っていた」
「恐らく奴らはそこに目をつけたのでしょう」
「まず、間違いないな」
「これは我々、空の精鋭が入手した情報なのですが、組織の人間らしき者がこの国の廃教会に出入りする所を発見したと知らせがありまして」
「しかもその知らせを受けたのがちょうどスクベラ王国の王女が攫われた翌日に受けたのです。」
「じゃあつまり奴らのアジトはその廃教会の中ってことか」
「まだそうとは言いきれません、この国から西に数km離れた洞窟からも組織の者と思われる人物数名の出入りを確認してます。」
「なんでもいい、つまりそのどれかを叩けば奴らに繋がる情報が出てくるってことだな」
「ざっくり言うとそうなりますね」
「で、どうするんです?2手に分かれる感じっすか?」
「そうだな、俺はその洞窟ってのを調べる。お前ら2人は廃教会に行け」
「はっ!」
「えぇ〜、こいつと2人きりとか勘弁なんすけど!」
「貴様、ガイア様の命令に歯向かうというのか!」
「違ぇわ!お前と2人になるのが死んでも嫌だってことだよ!!」
「ほう、なら実際に死んでみるか?」
「やれるもんならやってみろや!」
シャキン!
シャキン!
「おい、その洞窟ってのはどこにあんだよ」
サッ
「はっ!その洞窟はですねこの国を出て西に進んだ先に、ピレウス炭鉱跡地と書かれた看板が立てられておりましてその奥に例の洞窟があります」
「分かった、だがその前に少し寄るところがあるからその後だな」
「え、どこ行くんすか?」
「個人的な野暮用だ」
「よし、話はだいたいまとまった翌日にこの2つを調べる。寝坊すんなよ翔太」
「なんで俺なんすか!」
「戦闘になることも視野に入れておきます」
「高確率で戦闘になるだろうな」
「足だけは引っ張るなよ。アホ」
「それはこっちのセリフだわ!」
--ピレウス王国アダブ廃教会--地下通路
「何かしらジェラルド、私に話って」
「単刀直入に言う、リリィが死んだ」
「、、、」
「サギリ、お前の直属の部下だったからな一応報告しておく」
「そう、死んだの」
「あぁ」
シャキンッ!
「それで、私の可愛いリリィを殺したのはだァれ?」
「とりあえず、俺の首にナイフを突き立てるのはやめろ」
スッ
「それで誰なのよ」
「これを見ろ」
「なにこれ」
「あの御方から預かった記録玉だ」
『だがまぁ、空の精鋭スカイナイツの隊長格に認められ程の実力はあると評価してやる』
『誰目線だよ』
『悪いね、早めに決着をつけされてもらうよ』
「この茶髪の男、、、」
「なんだ見覚えがあるのか?」
「いえ、ただの気のせいだわ」
ブォーーーーーー
シュッ
バタンッ
『うわ、対人で使ったの初めてだから知らなかったけど、ほぼ原形留めてないじゃん。なんならもう灰になりかけで人なのかも分かんねぇや』
『まぁでも、これで一件落着だからいっか』
「以上がリリィの死因だ」
「なるほど、なら私はこいつのイチモツをもぎ取ってオークの餌にしてやるわ」
「後のことはお前の好きにしろ」
--翌日、安らぎの羽毛--3人の部屋
一夜が明け朝日が昇る中未だに熟睡している男がいた。そう、翔太である
そして寝ている翔太に近づき今にも攻撃魔法を打ち込もうとしている男もいた。そう、バルカンである
「このアホ、寝坊はするなとガイア様に言われておきながら」
「未だに起きる気配すらない」
「だから、この私が特別に叩き起してやろう」
《上級無類魔法 "反転結界"》
フワンッ
よし、コレで外側に危害が及ぶことはなくなった。
心置きなく叩き起こせるぜ
貴様の耐久性を見るのにも丁度いい!
《超級火炎魔法 "灰燼龍"》
シュッボーーーーーーーーーン!!
「あっちゃァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「よう起きたか」
ドンッ!
「熱い熱い熱い熱い!!」
「おい、朝っぱらからうるせぇぞ翔太」
「アァァァァァァァ!!」
パチンッ
シュッ
「はぁはぁ、ありがとうございます師匠」
「貴様、ガイア様があれ程寝坊をするなと言っておきながらなんだその体たらくは」
「テメェ、粉微塵にしてやろうか」
「なぁ、翔太」
「はい、なんすか?」
「これ、お前のお友達じゃねぇか?」
「ん?なんすかこれ?」
「今朝の新聞だ」
「へ〜この世界新聞もあるんですね、どれどれ」
『ピレウス王国所属の勇者またも都市を救う!!』
「え!?、この新聞の写真に映ってるのって慎太郎と小早川じゃないですか!?なんで?」
「やっぱりそうか」
「えぇ、元いた世界の高校のクラスメイトです」
「でも、なんで」
「あぁ〜それ異世界から来た勇者たちですね」
「知ってるのかバルカン」
「えぇ、2年ほど前にこの国が魔王の討伐を目的として異世界から勇者を召喚したんですよ」
「なるほどな」
「そういえば貴様も異世界からの来訪者だったな」
「だったらなんだよ」
「ふぅん、なるほどね」
「不思議だ、お前のその顔を見てるとすげぇ殺意が湧いてくる」
「どうしたバルカン」
「いえ、ただ転移魔法を使用した時の典型的な不具合を思い出しまして」
「なんだそれは?」
「大勢の人数を1箇所の場所に転移させますと必ず何人かは違う場所に転移してしまう不具合があります」
「分かりやすく例えると果物を100個いっぺんに持って移動すると何個かは手から落ちてしまうのと同じ現象ですね」
「じゃあつまり翔太は」
「えぇ、大体の人間は目的の場所に転移されましたがこいつだけ違う所に転移してしまった哀れな人間ってことですね」
「師匠、こいつのこと八つ裂きにしていいですか?」
「だが、幸いなことに貴様はこの"世界"には来れたってことだな」
「どういうことだ」
「私が今言った例えは同じ世界で転移魔法を使用した場合のことを言ったんだ」
「つまり?」
「違う世界から違う世界へ、ましてや大勢の人数を異世界転移だなんて」
「下手したらこことは全くの別世界に飛ばされていた可能性だってあったんだぞ」
「マジかよ、、、」
「今すげぇ背筋凍ったんだけど」
「まぁ、1番最悪なパターンは次元の狭間、"虚無空間"に放り込まれることだがな」
「なんだよそれ、、、」
「おい、お前らそろそろ出発するぞ」
「はっ!」
「分かりやした」
--ピレウス王国王城--騎士団訓練所
"王国騎士団訓練所"ここでは国直属の騎士団が日々鍛錬を行う場であり、今では異世界から召喚された勇者達の訓練所でもある。
「はぁ?翔太を見た〜?」
「そうなんだよ、昨日の夜飲みの帰り翔太に似たようなやつが安らぎの羽毛に入っていくのを見たんだよ」
「お前酔ってて見間違えただけだろ」
「いくらこの国の法律で16歳から酒が飲めるといえど、飲みすぎだ」
「いや、でもほんとに」
「あのなぁ矢部、気持ちは分かるが俺らもうこの世界に来て2年経ってんだよ今更そんなこと有り得ねぇだろ」
「仮にその話が本当だとして、あのガサツで適当な翔太が上流貴族や王族だけしか泊まれない宿に入れるわけないだろ」
「じゃあアレは本当に見間違えだったのか」
「あぁ、後お前はしばらく酒禁止だ」
「はぁ〜!それはねぇだろ!!」
--安らぎの羽毛--三人の部屋
「ここのオーナーからこの宿に何日でも滞在していいと言われてる」
「つまり、今回の任務が万が一長引いても安心というわけですね」
「まぁな、だが長引かせるつもりはねぇ」
「見つけ次第制圧してみせますよ!」
「これより黒の十字架団の拠点と思われる二か所の捜索及び制圧を始める」
「はっ!」
「うっす!」
「戦闘になることも視野に入れて作戦を進める」
「恐らく幹部クラスの奴も中にはいるでしょうね」
「まぁ、師匠ならぱぱ~っとやってくれるでしょう」
「油断しなければいいだけの話だ」
「出発はこの部屋からっすか?」
「あぁ、そんで作戦完了後またこの部屋に戻ってくる。なるべく目立たないように行動しろよ」
「それではまた、この部屋で落ち合いましょう」
「あぁ」
シュンッ
シュンッ
シュンッ
--ピレウス王国王城--王女の自室
第一王女イラリアの自室
本来この部屋は王族関係者のみしか出入りすることができず部屋の窓も全てしっかり鍵がかかっているのだが、この日は王女の自室の窓がガチャッと開く音がした。
その音に王女が目を覚まし、窓の方にゆっくりと視線をやると、アースの姿がそこにあった。
王女は困惑しながらも何者なのかを問いただした。
「一体どちら様ですか?」
「この場において俺が誰だかは今関係ない」
「それより少し話をしようか」