第十八話 最強と言われてる冒険者
--宿場"安らぎの羽毛"--
数ある宿場の中でピレウス王国一大きい宿。
名のある冒険者や商人たちが愛用するこの宿は他国の貴族たちも絶賛するほどのサービスが提供される。
ダイアモンドの装飾が施されている金色の扉を開くとそこには広くて豪華なシャンデリアがあるロビー。
スタッフ一人一人丁寧な接客に豪華なディナー、超大型浴場まで完備。それに加えて充実したルームサービスまで、まさに安らぎを通り越して天に召されるほどの心地よさ。
"ガチャ"と扉が開かれると同時にアースとバルカンは宿の中に入った。
そこには白く輝くロビーが広がっており、扉の両サイドにはスタッフ一同が列を作って出迎えていた。列の一番奥には支配人らしき人物が爽やかな笑顔で立っていた。
見た目は60後半~70前半といった感じの白髪の老人だが、そうとは思わせない程の立ち姿だ。
「お待ちしておりましたガイア様」
「ウィリアム様から全て伺っております」
「なんだあいつ話通してくれてたのかよ」
「えぇ、陛下が直々にガイア様とショウタのためにご用意してくださいました」
「そうか、それより"ディル"の姿がないがやつは今何をしてる?」
「お知り合いですか?」
「あぁ、昔魔物に襲われてるとこを助けたことがあってなそのお礼にここの宿に泊めてもらったんだよ」
「そん時はまだあいつもガキでこの宿もこんなデカくはなかったがな」
「それでお前はなんだ、ディルのガキか?」
「えぇ、当宿の元オーナーである"ディル、ラビオッツォは私の祖父です」
「そうか、なら今のここのオーナーは」
「はい、私"ゲイル、ラビオッツォ"が当宿の現オーナーでございます」
「今回はガイア様が訪れるとお聞きし私自らガイア様専属の支配人として志願させて頂きました」
「ご滞在中はなんなりと私にお申し付けくださいませ」
「分かった、じゃあ一つ質問なんだが」
「はい、なんなりと」
「なぜお前には俺に対する恐怖がない」
「扉の前に並んでた連中は全員少なからず俺に対する恐怖心があった」
「だが、お前にはそれがない何故だ」
「ガイア様はそのような感情も読むことができるんですね」
「流石でございます」
「んな事はどうでもいい、答えろ」
「かつて私の祖父であるディル、ラビオッツォを魔物の脅威から救ってくださったことはご存知でしょう。」
「あぁ」
「祖父にとってそれが最大の恩義であり、以降周りがどのようにガイア様を評価しようと我が一族だけは決してこの恩義を忘れてわならぬことを誓いました」
「ですので恩人であるガイア様に対して恐怖という感情を抱くのは一族にとって万死に値すると言っても過言ではありません」
「、、そうか」
「ガイア様?」
「なんだ?バルカン」
「いえ、なんでもありません」
お気づきでないと思いますが、今ガイア様からはほんの少しだけ嬉しさの感情が現れていましたよ。
常時発動技能"心情感知"
これを有してるのはガイア様だけではありません。
こうして2人は支配人のゲイルに連れられ宿の最上階である6階まで上がり部屋まで案内された。
この宿の最上階は主に階級の高い貴族や王族たちだけが入れる言わばVIPルームと同等の扱いでもてなされる。
部屋に入ると天井には大きなシャンデリアがありソファーベッドが2台並べられていてその後ろにはキングサイズのベッドが3台置かれていた。
まさに王族たちが利用するにふさわしいと言える。
「それではごゆっくりお過ごしくださいませ」
ガチャッ
「こんな大袈裟な部屋じゃなくてもいいんだがな」
「私としましてはガイア様にふさわしいお部屋だと思います」
「俺は落ち着かねぇよ」
ようやく部屋に着き一息つこうと思った2人だがその時、"ドーーン!"と重くデカい音が下の階からこの部屋まで振動と共に響いてきた。
「下の階で何かあったようですね」
「あぁ、多分翔太が来たな」
「ですがこんな音響かせますかね、いくらあのアホでもそこまで愚かではないと思いますけど」
「まぁ、大方誰かといざこざでも引き起こしたのだろう」
「愚かでないと言ったことを撤回しますね」
--1階--フロント、受付前
師匠に言われた通りの宿に入ったはいいもののなんでこんな面倒なことになったんだ。
今俺の目の前には二十代半ばぐらいの見た目をした髪の長い金髪の女が立ちはだかっている。
しかもすげぇムキムキ、、、
てか、身長でかくね?俺一応身長178cmあるんだけどこの人それ以上だぞ。多分185以上は確実にある。
それにこの人が身に着けているローブにペガサスみたいなエンブレムがあるってことは冒険者なんだろうけど、マジで邪魔。
何度も何度も説明しても聞きやしねぇし、そもそもあの支配人みてぇな人が俺の説明をろくに聞かずいきなり腕を掴まれて無理矢理追い出されそうになったから少し振り払っただけなんだけど、力加減ミスって勢いよく壁に埋まっちったんだよな。
そしたら周りが騒ぎ始めてこの金髪の女が出てきたんだよ。
ったくこっからどうしようかな~
「おい貴様、今出ていけば痛い目にあわないで済むがどうだ」
「どうだって言われても俺はただ、この宿を予約してた仲間と合流するために来たって何度も言っているだろ!」
「だが、そのお仲間というものがどこにも見当たらないではないか。それにそんな汚らわしい身形でこの宿に立ち入るなど場違いにもほどがあるぞ!」
「うっ、、それに関しては何とも言い難い」
「おぉ~、さすがはあの”レインボーペガサス"実に頼もしいですね!」
「その不埒な輩を今すぐ追い出してください!」
「おう!任せろ!!」
--2階--階段上の通路
「これは厄介なことになりましたね」
「あいつ今度は女と揉めてるな」
「ガイア様、あの女ただの冒険者ではありません」
「何者なんだ?」
「あの者はたしかレインボーペガサスの一人”黄金のヴィーナス”です」
「レインボーペガサス?あぁ~なんか冒険者ギルドの連中がそんなこと言ってたわ」
「なんでも世界最強の冒険者パーティだとか」
「えぇ、世界中の冒険者の中で頂点に君臨する7名で構成された冒険者パーティですね」
「パーティメンバー一人一人が危険度S以上の魔物を単独で討伐することができる。まさに最強の名にふさわしい冒険者パーティです」
「お前随分詳しいな」
「えぇ、私と同等もしくわそれ以上の実力者はすべてチェックしておりますので」
「そうか」
にしてもあのヴィーナスとかいう女、中々悪くないオーラを纏ってる
魔力値は翔太の方が上だが、純粋な戦闘となるとあの女の方がやや有利かもな
まぁ、まともな対人戦を仕込まなかった俺にも原因はあるんだが、さてこの状況をどう対処する翔太。
「だから何度も言ってるじゃないか、この宿に俺の仲間がいるんだって」
「まだ言うか!往生際が悪いぞ」
たくっ、どうすりゃあいいんだよ!
何度も説明しても聞く耳すら持ってくれない。
てか、師匠たちはどこにいるんだよ、早くこの状況を何とかして欲しいの、、にって、、
ちょっと待ってあの2階の通路で見てるあの2人ってもしかして、、、
っておい〜〜!!
何んなとこで高みの見物決め込んでんだあの2人~~!
人がこんな面倒な状況になってるってのに。
《おい、翔太聞こえるか》
え?なんか頭の中から直接師匠の声が聞こえる
念話のような類なのか
《えぇ、聞こえますってかそれよりなんで早く助けにきてくれないんですか!?》
《何を言ってるこれぐらいの状況自分で何とかしてみせろ》
《いや、今回ばかりは師匠たちの伝達ミスじゃないですか》
《それに関してはすまねぇ》
《だがそのおかげでまともな対人戦を学ぶ良い機会ができたじゃねぇか》
《おかげってまさかこの場でこの人と戦えって言うんですか?》
《危なくなったら止めに入るから安心しろ》
《いや安心できるわけないじゃ、、》
プツッ
「あっ!ちょっと!」
マジかよ、この場でこの人と戦えだと?!
師匠の無茶ぶりは分かってたけどまさかこんな公共の場でもそれを発揮するとは、、
「おい、そろそろ出ていく気になったか」
「そんな訳ねぇだろ」
「なら力ずくでいかせてもらう」
ガチンッ!!
マジでやんのかよ、、
ガントレットか、つまりこの人の武器は拳ってことね。
ならこっちもそれ相応の対応をせねばな
シャキンッ!
「ほぅ、やっと腰の剣を抜いたか。格好からして冒険者だとは思ってたがな」
「だったらなんだよ」
「いや、貴様も冒険者ならばこのあたしに実力を示してみな!」
ガチンッ!
ブォッ!
ッ!?
この圧力、魔力とはまた違った独特の圧力。
なんと言うか気迫とかオーラ見たいな、達人が放つプレッシャーのよう感じだ。
これが魔法とはまた違う概念、自身の肉体や精神を鍛えることで魔法と同等以上の力を発揮する"気法"か!
半端な力でやらないほうがいいな。
《"神童覇気"》
神童覇気、戦闘開始時から戦闘終了後まで自身の魔力値と身体能力が永続的に上昇し続ける常時発動技能。
これと他の技能を組み合わせれば、この勝負俺の勝ちだ。
「ほう、いいオーラだ。」
「申し訳ないがこんな所で長々と戦う気は毛頭ないんでね」
「それは、こっちも同じだ」
「そっちから吹っかけてきたくせに」
「早めに終わらせるって意味だよ!」
ガチンッ!
バチバチバチ
《達人仙技 "雷槌砲拳"》
--2階--階段上の通路
「なるほど、あれが気力を用いて繰り出される"仙技"ってやつか」
「俺からしたらただ両腕がバチバチ光ってるようにしか見えねぇんだけど」
「我々が魔力を使用して技能を扱うのと同じく戦技は気力を使用して放たれる技」
「魔法耐性しか備わっていない翔太にはきつい相手だろうな」
「いくら混沌の底で1000年修行したといえど”アレ”はあいつがこの世界の環境に慣れるための準備運動みてぇなもんだし」
「そもそも気法自体があまり使われませんからね」
仙技?技能とはまた違うのか?
まぁだからと言ってここで引き下がる訳にはいかねぇんだよなぁ!
《神話級技能 "制裁神之力"》
ブォン!!
一撃で終わらす!
「面白い!この身を焼き焦がすようなプレッシャー、貴様中々やるな!!」
「その上から目線の口を今すぐ閉じさせてやるよ!!」
「「いざ、尋常に勝負!!」」
ガシッ!
ズンッ!
「!?」
「!?」
「そこまでだ翔太」
「師匠!?」
「こんな所でいざこざはよしてくださいヴィーナスさん」
「申し訳ありませんマスター」
あの後ろにいる銀髪の少年、手で触れてすらないのに彼女の動きを完全に封じ込めた。少なくとも彼女の実力は俺と同じぐらいだった。
それをいとも容易く抑えるなんて、一体何者なんだ。
てかこの世界、超能力も存在するのかよ。
とりあえず鑑定してみるか
《古代技能 ”解析鑑定”》
《対象の種族値が大き過ぎるため鑑定に失敗しました》
鑑定失敗!?つまりこの子は師匠以外で俺の実力を上回る存在ってことか。
「うちの仲間がお騒がせしてすみません」
「いや、すぐに止めに入らなかったこっちにも非はある」
「お心遣い感謝します」
ギロッ
ッ!?なんだ、急に呼吸がしにくく、、ハァハァ
一体どうなってるんだこれ?!
「おい、俺の弟子に気味の悪い視線を送るのはやめてくれないか」
「おっとこれは失礼、また私の特殊眼が漏れてしまいました」
「ハァハァ、、、なんなんだよ一体。」
「それでは我々はここいらでお暇させていただきます」
「行きますよヴィーナスさん」
「、、、はい」
あの人さっきまでとは打って変わって急に大人しくなったぞ。
そんなにあの子が怖いのか?俺にはただの子供にしか見えないんだけどな。
「なんとか無事みてぇだな」
「えぇ、師匠が止めてくれたおかげで怪我せずに済みましたよ」
「後は周りの連中を起こさねぇとな」
ん?周りの人?
あっ、、
ヴィーナスとの言い合いで夢中になってて全然気づかなかった!
周りにいた人達が全員気絶してるわ!!
早く何とかしないと、、、
パチンッ
「ん?、、一体何が起きたんだ」
「分からない、急に意識を失ってそれからは、、、」
さっきまで気絶してたのに、師匠が指パッチンしただけで急に目を覚ました。
やっぱ規格外なのは師匠の方だわ、、、
「これで、寝てた連中は全員起きたな」
「ありがとございます」
「少しは加減を覚えろ」
「うっ、、、でももとはと言えば師匠がっ」
「ガイア様なんとか事態を終息することができました」
「あぁ、助かった」
「てか、あの銀髪の子供は何ですか!?」
バコンッ!
「痛ってぇ!何すんだバルカンテメェ!!」
「貴様、どれだけガイア様のお手を煩わせれば気が済むんだ!!」
「んだと?そもそもそっちが話し通してないのが悪いんだろ!!」
「言い訳無用!!覚悟!!!」
ドカバコッドカバコッ
「俺もあの銀髪のガキは気になる何者だ?」
サッ
「はい、あの銀色の髪をした者こそが最強の冒険者と言われている”先駆者ゼクスト”です」
「アレがレインボーペガサスの頭か」
「俺にはただの子供にしか見えませんでしたよ」
「それにお気づきかもしれませんが」
「あぁ、あのガキ”流星の瞳”を持ってやがった」
「ん?なんですそれ?」
--最上階--廊下
「もうあのような問題は起こさないでくださいね」
「強いからといって何でもしていいわけではありませんから」
「、、はい、申し訳ありません」
「先ほどからやけに大人しいですけどなにかありました?」
「いえ//、、特別そういったものはまだ///」
「はぁ、そうですか」