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不死鳥の一族の終わり

作者: 舞花

初投稿です。

 「ふーん、ふふふーん、ふー、ふーん」


 高い塔の窓辺の月明かりの下で少女が鼻歌を歌っていた。

 窓枠に影がさすと次の瞬間、少年が窓枠に座っていた。


 「やあ、いい夜だね」


 少年は少女に話しかけたが、少女は歌い続けている。

 少年は無視されたことを気にもかけずに少女の頭を撫でた。

 撫でられた少女は少年に気付き、にまっと笑い少年に抱きついた。

 少女は嬉しそうにきゃらきゃらと笑い声をあげた。


「今日は何をして遊ぼうか?」


 そう言うと少年は塔の中に少女と入っていった。



◆ ◆ ◆



 不死鳥に護られた特別な一族が存在していた。

 その一族は直系の一族に産まれる第一子は不死鳥の生まれ変わりであり、一族を守護し、繁栄を与える。

 不死鳥は次子の長子に生まれ変わり続ける為、次子の子が宿ると自然と衰弱し亡くなってしまう。

 その為、現在では一族の次子が跡取りとして教育され、長子は秘匿され大事に育てられ、次子のみ披露される。

 昔は長子も披露され大切に育てられていたが、いつしか過保護になり、不死鳥様に義務や負担をかけないように数世代前からは秘匿され真綿に包むように大切にされ生きていた。

 近年では、前当主が不死鳥の生まれ変わりを迷信と考え、単なる偶然または長子は病弱に生まれやすいからそれを利用した箔付けだと思い、邪魔に感じていた兄である不死鳥の長子を監禁し始めたのだ。もちろん、我が子であるはずの現当主の姉である長子のことも。

 そして、現当主は父である前当主から不死鳥の一族伝説をねじ曲げられて、一族の名誉ある伝統であると教えこまれ、前当主のやり方を踏襲するように長子を監禁し、次子を次期当主として教育をし、披露した。

 不死鳥の生まれ変わり呼ばれた現当主の長子は今までの人と触れ合わなくとも言葉を使えた。しかし、現在の不死鳥の生まれ変わりと言われる長子は、言葉すら発せない異変に気づかずに監禁を続けた。



◆ ◆ ◆



 古びた塔の階段を青年が登っていく。

 塔の上にある部屋にたどり着くと鍵を開錠し、中に入った。

 部屋の中には美しい女性が床に敷かれたカーペットの上に寝そべりながらお絵描きをしていた。


 「おい」


 青年が不機嫌そうに声をかけたが女性は気づかずお絵描きを続けている


 「おい!」


 もう一度、大きな声で声をかけると女性はビクッとして青年を見上げた。

 女性の怯えた瞳には険しい顔をした女性にそっくりな顔立ちの青年が映っていた。


 「お前はなぜ生きているんだ!」


 青年は憎々しげな表情で怒鳴りつけた。

 女性は訳が分からずに何も言わず身体を縮こめた。

青年は床をだんだんと蹴り、苛つきながら叫んだ。


 「お前はなぜ生きているんだ!あいつが産んだ子は俺の子のはずだ!それならお前が生きている訳ないのに、なぜお前は生きているんだ!あの女が不倫をしたとでもいうのか!!」


 一族の長老達から教育を受けた青年は、前当主以外の一族の伝説を信じている者達から、次子である青年の長子が生まれたにも関わらず、現在の不死鳥の生まれ変わりであるはずの女性が生き続けていることで、次子の妻である伯爵夫人に浮気疑惑がかけられていたのだ。

 青年はひとしきり怒鳴りつけ、床を蹴りつけた後、「お前に言ってもどうしようもない」と、少し落ち着きを取り戻し、去っていった。

 女性はずっと蹲りながら罵声を聞き続け、青年がいなくなった後、すぐにベットの布団に入り、丸くなった。

 しばらく丸くなっていると、窓の外から別の青年がやってきた。

 この青年もまた、丸くなっている女性と先程やってきた青年とまるで兄弟のように似ていた。


 「どうしたの、ディーヴァ?」


 女性に優しく声をかけると、寝台の端に座った。

ディーヴァという名は青年が彼女につけたものだった。


 「何か嫌なことでもあったかい?」


 優しく布団の上から頭を撫でた。

 するとディーヴァは布団から顔を出し、青年に抱きついた。

 ディーヴァは言葉を知らない無垢な声で青年にお話しするかのように話続けた。

 うんうんと青年は落ち着くまで聞き続けた。

 ディーヴァが落ち着くと優しく笑いかけた。


 「ねぇ、ディーヴァ、僕と一緒に外の世界に行かないかい?」


 「そろそろ潮時だと思うんだよね。ディーヴァを迎える準備もできたし」と独り言を良いながら誘いをかけた。

 ディーヴァはよく分かっていないが、うんと快諾をするようにうなづいた。

 その様子を見た青年はにっこりと笑ってディーヴァを布団ごと抱き上げた。

 ディーヴァは突然目線が変わったことに驚きつつも、子どものように無邪気に笑った。


 「あの人に許可を取りに行こうね、ディーヴァ」


 優しくディーヴァをあやしながら塔の上から飛び立った。

 青年の背中には深紅羽根が生えていた。



◆ ◆ ◆



 当主の執務室では、今日産まれたばかりの孫について悩む当主が1人で酒に溺れ浸っていた。

 長老をはじめとする一族の不死鳥伝説を信じる者達に、長子がまだ生きているとはどういうことだと詰め寄られ、苛ついていた。長子が死なないことから、やはり伝説は嘘だったのかと思いながらも、今までの長子は次子の子の誕生とともに死んでいたことから、どこで異変が起きたのか。伝説が嘘ならそれを証明をして一族を黙らせる方法は何かないかと考えていた。

 解決の糸口を探して歴代の党首の日記を読んでいたが、どこにもなく、鬱憤を酒ではらしていた。

 コンコン

 ノックがした。

 誰にも執務室に近づくなと命令したのにも関わらず、聞こえるノックの音に苛つきながら、日記を引き出しに隠して入れと声をかけた。



 「初めまして」


 女性を腕に抱えた青年がふんわりと微笑みながら、執務室に入ってきた。


 「お前達は誰だ?」


 当主は見覚えのない人物が使用人の案内なく入室したため、怪訝な顔をした。


 「ひどいなぁ。私はともかく彼女を知らないとは」


 くすくす笑いながら彼はディーヴァを良く見せるように前に出した。

 ディーヴァはきょとんとした表情で何も言わず黙っている。


 「お前達に見覚えなんてないぞ!」

 「本当かい?よーく見てごらんよ」


 苛立ちながら大きな声をあげた当主に対して、青年はディーヴァの顔がよく見えるように髪をかきあげた。


 「まさかこの女は不死鳥か!」

 「不正解!彼女は君達が不死鳥と思っている子だよ。不死鳥は僕。初めましてお父様」


 青年はくすくす笑いながらディーヴァの頭を優しく撫でた。


 「貴様は何を言っているんだ!?私に子どもは2人しかいない!」

 「へー、彼女を自分の子供だと思っていたんだ。酷いことしてたのに」

 「僕は、君と君の結婚前の遊び相手から生まれた子供だよ。母親は君に伝えていなかったから当然知らないけど」

 「彼女が次子。だから僕の弟に子供ができても彼女は死なないし、僕も生ている」

 「今までなかったよね。3人目の子が生まれたこと」

 「まさかお前はあの女の子か!」


 心あたりがある当主は顔を真っ青にして震えた。


 「どの女性のことを言っているかわからないけど、准男爵の娘だよ」

 「なんで私に知らせてこなかったのだ!」


 青年はつくづく馬鹿な男だと当主を哀れんだ。


 「それは、貴方の信頼がないからじゃないかな?遊ばれて妊娠したところで、何の文句も言えない弱い貴族の娘だからね。しかも不死鳥の伝説など貴族達はもう覚えてすらいないから、僕の事を貴方に伝えたところでメリットがあると思いもしないよ」

 「貴族達は伝説を知らないなら、お前はなぜ知っている?」

 「おや?貴方は知らないのかい?僕が記憶を引き継ぎ続けていることを。僕は記憶を引き継いでずっと生まれ変り続けているんだよ」

 「記憶を引き継いでいるだと!?どういうことだ?不死鳥伝説などただの一族の箔付だろ!もし、伝説が本当で記憶を引き継いでいるなら、貴様は何故私に会いに来なかったらのだ!」


 当主は今まではただの迷信だと思っていたが、歴代の当主の日記を読み伝説は本当らしいと思い初めていた。そんなところに不死鳥を名乗る青年が現れたことから混乱し、ひどくいらだっていた。


 「貴方達から解放されたかったからかな。昔は大事に自由にしてくれていたのに、最近の世代では閉じ込めて囲われて不自由な思いをしいたからね。でも時々妹には会いに来ていたんだけどね。気づかなかった?」

 「解放?」

 「そう。このまま、次子である彼女に子供ができなければ僕は解放される。君達への加護も無くなる。

今までありがとう。妹を囲い続けてくれて。妹を守る力もつけたからもう君は用済みさ。教育を与えもしない虐待をしてきた貴方達を許す気はないけど、きっと自滅するから放っておいてあげる。これからは、僕が大事に妹を囲ってあげるからね」


 優しく愛おしげに、ディーヴァの頭を撫でた。


 「どういうことだ!不死鳥の加護がなくなる?それがどうした!我が一族の繁栄は不死鳥の加護など関係ない!不死鳥の加護なんて迷信のはずだ!」


 一族の単なる箔付けだと思っていた、そして思い込みたい当主は錯乱して、「父上は不死鳥伝説などないと言っていた」とつぶやいた。


 「伝説を否定するなら良いよね。彼女を連れて行っても。彼女を大切にしていたことが一度でもあったなら悪いなと思って許可を取りに来たけど、彼女の顔すら知らないみたいだし。彼女も気にしていないみたいだし」


 目の前にいる父親に興味を示さないディーヴァを見て「許可なんていらなかったね」と笑いかけた。

 そして、もう話はついたと、青年はディーヴァを連れて窓辺に近づき、大きく窓を開けた。


 「待て!待つんだ!」


 当主が慌てて引き留めようとするが、青年は気にせず窓枠に足をかけた。

 しかし、ふと思いたって、青年は振り返った。


 「そういえば、お祝いを告げるのを忘れてた!孫の、甥っ子の誕生おめでとう!そしてさようなら」


 さぁ行こうと、彼女を抱き上げて、用が終わったと振り返ることなく、窓から真紅の羽根を広げ飛び去った。



 新しい箱庭にようこそ。大事にするよ僕の大切な(ディーヴァ)




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