第六回 梧空 仏門の三蔵法師が大唐国の大将軍となり大いに慌てる
初めまして!原 海象と申します。
今回は『西遊記』の外伝(SS小説?)である神魔小説『西遊補』を編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は千六百年頃の明の時代に書かれたとされております。原作者は董若雨です。
本書は削除版ですので、原書が読みたい方は東洋文庫(鏡の国の孫悟空「西遊補」)をお読みください。多分絶版になっているので図書館で検索すればあるかもしれません。
<西 遊 補>
第六回 梧空 仏門の三蔵法師が大唐国の大将軍となり大いに慌てる
梧空は宮中の演奏を耳にして、すぐさま皇帝専用の政務庁の虎門の中に飛び込んで入り、重なり合った建物をとおりすぎ、青い彫刻を施された軒場に来ました。
そこには殿上人がまわりにびっしりととりまき、真ん中に風流天子が坐っています。
ややあって。 突然風流天子が見る見る顔色を失い、官人たちに言いました。
「朕は昨日『皇唐宝訓』を読んでいたが、その一節にこうあった、『唐僧の陳玄奘、僧の分際でみだりに我が先代を惑わし、門生弟子はことごとく水簾洞‣流沙河の輩にして、錫杖・鉢変じて木柄・金棒の武具となし、四十年後、その門下生を率いて、我が領域を犯さん。これ大敵なり』
また一節にはこうもあった。
『五百年前、孫悟空なる者有り、その昔に天宮に背き、玉帝は天将を従えてこれを階下に坐らさんと欲す。天命未だ絶えず、仏祖これを鎮める。天すら且つかくの如くなる。しかるに唐僧納めて第一の弟子となったのはなぜか。西方の旅を以って、東南に覇を整えサル共の威により、他国を併呑しようと欲する者なり』
朕はこの書物を読んで、心配になってきた。
そこで、総大将に趙成を西の方へやり、唐僧三蔵の首級を取って来させ、
また、ただちに他の弟子どもを放免し、解散させたら、それで事は治まるだろうか?」
宰相の李曂が進み出て奏上します。
「陛下、唐僧の陳玄奘は、殺してはなりません。それどころか、なかなか役立ちます。何よりも奴を使って奴を殺すのが上策です。逆に他人を使って奴を殺すのは下策です」
「では、朕は唐僧三蔵を西方大将軍に封じて、異民族との闘いで亡き者にするべきであるな」
宰相の李曂は「陛下の御心のままに」と言って奏し終えました。
風流天子は将兵に命じて収納庫から飛蚊の剣、呉王の刀、碣石の鉤、雷花の軾等の国宝を惜しげもなく出して、それと共に一幅の黄色い絹の詔書を封じ、
『西天殺青掛印大将軍御弟陳玄奘』に急送致しました。
詔に曰く
『大将軍は青竹のごとく清く、朱糸のごとく素直である。昨日、都の諸侯、軍馬を宗国に走らせ、競いで将軍の雄武を奏す。西方の天下をして、人魚も舌を結び、蛟も色を失わし、いにしえのときも、ちかごろの代も、その人を見ることがない。
朕はもとより慕い、褒めたたえの言葉を聴くも、目は西山に転じ悲しきことかと嘆く。
今の西方には賊が星のごとく多いとの報告が日々来る。
思うに、天は別離をいとい、遍歴よりの帰期なり、将軍何とぞ、しろき池よりおどりいでて知恵の剣を弾き、墨染を脱ぎ知恵袋を傾け、反乱を練絹のごとし、玄日のもと戦無からしめざるや。
しかるのち、朕は一尺の辞令をもって将軍の馬首をつながん。この日の鉾と鎧は、他時の調度品としかならん。
さて、また崑崙の銅柱には記念の碑文を刻みがたく、玉壁の金縄には誰か帰国の辞句をふしえん。ただ大将軍は、 一にこれを思い、 二にこれを思え。
そもそも朕が珊瑚の弓・翠玉の矢にあくこと久し』
宮中から玉の竜虎の割符を持ってこさせ、詔と一緒に使者に渡しました。
使者は聖旨を受け、割符を持ち、風流天子の詔書を捧げ馬を飛ばして城を出ました。
梧空は大変びっくりしましたが、ここでもめ事を起こして、師父に厄介をかけるのは、
なおさら恐ろしく声も立てず、
ただちに追っかけ元の体に戻り使者はどこだと眺めていましたがとうに見えません。
梧空は苦悶のあまりしばし昏倒してしまいました。
さて、梧空は『新唐国』の真偽も判断できない矢先、何が何やらわからないうちに、
師父が大将軍にさせられようとしているのを見て、驚くやらたまげるやら、
にわかに跳ね起き、師父の行方を捜しに行きました。




