第二十一回 梧空 三蔵が和尚将軍になり、戦で野生の血が騒ぐが偶然にも隠し子発見
初めまして!原 海象と申します。
今回は『西遊記』の外伝(SS小説?)である神魔小説『西遊補』を編訳したものを投稿致しました。なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は千六百年頃の明の時代に書かれたとされております。原作者は董若雨です。
本書は削除版ですので、原書が読みたい方は東洋文庫(鏡の国の孫悟空「西遊補」)をお読みください。多分絶版になっているので図書館で検索すればあるかもしれません。
<西 遊 補>
第二十一回 梧空 三蔵が和尚将軍になり、戦で野生の血が騒ぐが偶然にも隠し子発見
空はもはや暮れ方、梧空は山のくぼ地で、師父が案の定将軍になり、経の入手の事を棚上げしたのを見て、心中千々に乱れますがどうにもならず、軍士の姿に化け、隊の中に紛れ込み、どうやら一夜が過ぎました。
翌日の明け方、三蔵は軍営に坐り『軍士募集、軍馬入用』というのぼりをあげることを命じます。正午には新米の兵士二百万名に達し、またどうやらこうやらで一日が過ぎました。
三蔵は近衛の将校と呼ばれる、白旗を持つ将校を派遣、その夜、軍令を伝達
「金鎖の将軍台の造成、将兵名簿を作成、明晩登台し、点呼閲兵」
翌日の三更の明月は昼間のよう、三蔵が登台、諸将にふれさせます。
「我輩今夜の閲兵は、通常と異なる。鐘一つを聞いたら、軍士は食事、鐘二つで武装、鐘三つで心を鎮め気合を入れる。鐘四つで閲兵開始」
白旗の将校が命を受け、大声で
「各将よく聞け、将軍のご命令、今夜の閲兵は常と異なる。鐘一つを聞いたら、軍士は食事、鐘二つで武装、鐘三つで心を鎮め気合を入れる。鐘四つで閲兵開始 遅参無用」
三蔵は更に白旗に命じます。
「全軍将士は我輩を『将軍』と呼ぶのではない。我輩を『和尚将軍』と呼ぶように」
白旗はまた軍営を一巡して伝達
台上から鐘が一つ鳴ると軍士はあわただしく食事です。三蔵はまた白旗に命じ諸将にふれさせました。
「拝謁・点呼の際は精一杯元気を出すこと、あいまいな応答、でたらめな行動を許さない」
台上で鐘が二つ鳴ると軍士はあわただしく武双します。三蔵は白旗に命じ閲兵旗を立て軍営にふれさせます。
「河川山谷、ともに警戒を厳重に。営中に入り込む、異様な言語、異様な服装の者は、説客や浪人どもは首をはねる」
白旗は命令通り一巡して伝達しました。三蔵は更に白旗に向かって
「貴様は営中の将士に言え、点呼不参加の者は首をはねる。軍門をうろつく者は首をはねる。仮病の者は首をはねる。騒ぎ立てる者は首をはねる。勇猛果敢ならざる者は首をはねる。喧嘩早い者は首をはねる」
伝達が終わって、台上から鐘三つ鳴り、営中では各自心を鎮め気合を入れます。三蔵も両眼を閉じ、こうこうたる月光の下,高台で黙坐しておりました。
半時ばかりして、台上から鐘四つ鳴ると全将兵は一斉に台前に集まり点呼を受けます。
三蔵はそこで名簿に従って、一名ずつ点呼しながら、大声で
「将士ども、我輩は軍中で慈悲心を起こし得ぬ。各人注意し、処刑を避けよ」
ただちに旗を振り命令を下し、六千六百五名の将士を一気に読み上げます。
不意に『大将猪梧能』と、名が呼ばれました。
三蔵は姓名を見てすぐに八戒だと気づき、だが軍中では威厳が大事、知っていると言えず。「そこの将士、貴様は醜怪なる顔で、まさか妖怪が惑わせに来たのじゃあるまい」
白旗に対して、引っ立てて斬首を命じます。八戒はひたすら何度も叩頭、
「和尚将軍、どうか怒らないで、儂に一言いわせてから死なせてください」
八戒曰く
本の姓は猪、親族序列は八、三蔵法師に従い西方にのぼりますが中途できつい縁切状を突き付けられ、急ぎ岳父の荘園に身を寄せんとしたけれど、荘園の妻はもう土の中、また戻り西方へのぼれば将軍の陣に行き当たったので、将軍どうかわしめを救い、営中の飯炊きにでもお使いくだされ。
三蔵は微笑を浮かべ、白旗に縄目を解かせました。八戒はまた続けざまに叩頭百回、三蔵に拝謝。
『大将孫悟空』と名を呼ばれます。三蔵は顔色を変え、台下を見ました。
さて梧空はというと、混乱の軍中で三日を過ごし、とっくに六耳獼猴の姿の軍士に化けており、「孫悟空」の三字を聞くと飛び出して地面に這いつくばり
「将校の孫悟空は兵糧輸送で、未到着です。その弟孫悟幻、和尚将軍の軍律に違反を承知のうえで替わりに軍中にはせ参じました」
三蔵「孫梧幻、貴様はどういう来歴なんだ。さっさと供述しろ、命だけは助けてやろう」
梧空は大喜びでしゃべりました。
「昔は妖怪でして、梧空の名をかたり、大聖が三蔵と別れてからは婚姻関係結び親しい上にも親しくなり、姓と名はお尋ねになるまでもなく、六耳獼猴の孫悟幻大将軍で」
三蔵「六耳獼猴は、梧空の仇敵ではないか。今や新恩を念じて旧怨を忘れるとは、やはり善人である」
白旗の将校に命じ、先鋒の鉄の鎧をひとそろい孫悟幻に賜わり、かれを破塁先鋒将に任じます。
将士の点呼が終わると、三蔵は早速号令を伝え軍士に陣形を取らせると、月明に乗じて西戎に侵入します。
兵が西戎の領域に入ると、黄小旗を合印として、敵と紛れぬ用途、三蔵は命令。
軍士は指令どおり、旗を配り終えると、またもどんどん前進、山裾をまわったところで青旗を押し立てた一群の人馬に正面からぶつかりました。
梧空は先鋒の将なのですぐに飛び出します。
その一群の人馬の中に紫金の冠を被った将軍が、刀をひっさげ迎え撃ちます。
梧空「そっちは何者だ」
将軍「我こそは波羅蜜王その人なり。てめえは何者だ。不敵にも刃向かいおって」
「我こそは大唐の殺青掛印大将軍の部下、先鋒の孫悟幻なり」
「わしは大糖王だ、いざもらったぞ、てめえの大糖」
蜜王は刀を回しながら切りかかりました。
「てめえみたいな無名の小将まで俺さまの鉄棒の錆になりたいとは哀れな」
謀を振り上げて立ち向かい、数合戦ったが,勝負がつきません。その将軍が
「待った!わしが家系にふれず、本名を言わずに、てめえを殺したら、てめえが幽鬼になったとき、またわしを無名の小将と思うはずだ。はっきり言ってやろう。波羅蜜王のわしはほかの人間じゃない。天宮を大いに騒がせた斉天大聖孫梧空の正真正銘の息子だ」
梧空はそれを聞いて、心ひそかに、
『不思議な!まさか先日の芝居が本当だったとは。今や本物の証拠が存在するのだから、それでも間違いがあるか。でもあと四人の息子はどこだ。それから俺の奥さんは、死んでいるのかどうだか。まだ死んでないなら、今じゃ何をやらかしてるんだ。それからこいつは末っ子かな。それとも総領かな。奴に詳しく聞きたいが、師父の軍律は厳しく、とても違反できない。まずはちょっと探りを入れてみよう』
そこでどなりつけ
「孫悟空は俺の義兄で、息子がるなんて言ったこともないのに、なぜ突然息子が出る」
「てめえは内幕をしるまい。蜜王のわしとわしの父孫悟空は、もともと認知されてない親子なんだ。父の孫悟空は最初水簾の妖怪の出でわしの伯父牛魔王とは義兄弟になった。伯父には添い寝をやめた、芭蕉洞に住む本妻の羅刹女がおり、これがわしの母なんだ。
だが東南の地の唐僧三蔵が西天に行き仏祖に会おうと思ったのが発端で父の梧空に頼みこみ、臨時の弟子になってもらった。西方への道筋は艱難辛苦をきわめたが、ある日ふと火炤山に出くわし、師弟一行、途方に暮れてしまう。父梧空は色々考えたが、『一日、師と為さば、終身父と為す』だ。しばらく兄弟の義理を断ち、まずは師父の恩に報いようと思い、ただちに芭蕉洞に行き、最初に牛魔王に化けて母をだまし、それから小虫になって母の腹の中に潜り込み、半日もいて、滅茶苦茶にかきまわした。そのとき母は痛みに耐えきれず、やむなく芭蕉扇を父梧空にわたした。父は芭蕉扇を手に入れると、火炤山を扇であおぎ冷やし、まっすぐに立ち去ってしまった。翌年五月、母は突然蜜王のわしを産み落とした。わしは日一日と成長、知恵もどんどんついてきて、こう考え始めた。
伯父とわしの母とは、ずっと不仲で父の梧空だけが母の腹の中へ一度入り、それでわしが生まれたで、父の梧空は直径実子であるのは、言わずとしれたことだと」
話を聞いて梧空は泣くに泣けず、笑うに笑えず、全く困惑しきっているとき、ふと見れば西北の方から小月王が紫の軍服を合印にした一隊を率いて三蔵を助けに駆け付けに来ました。西南の方からはまた、黒旗を押し立てた幽鬼兵が蜜王を助けに駆け付けます。
蜜王の軍勢は猛烈で、まっすぐに三蔵の陣営に突入、小月王を殺し、さらに返す刀で三蔵の首を切り落としました。一度に大混乱となり四軍団は入り乱れて殺し合い。
孫梧空はどうもこうもできず、調子を合わせて合戦の真似事。目の前で黒旗が紫旗隊の中に倒れこみ、紫旗が青旗の上にかぶさり、青旗は紫旗隊に飛び込み紫旗が黄旗隊に走り込み、黄旗がななめに黒旗隊の中に入り込む。青旗隊の中に倒れこみ青旗が替わって立ち上がりまたもや黒旗隊の中に落ち、たちまち見えなくなった。梧空は憤激大憤激となり、すぐに我慢が出来なくなります。




