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西 遊 補  作者: 原 海象
19/22

第十九回 梧空 緑竹洞で古老に会い、孫丞相となり息子が五人いるらしい

初めまして!原 海象と申します。

今回は『西遊記』の外伝(SS小説?)である神魔小説『西遊補』を編訳したものを投稿致しました。なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。

原作は千六百年頃の明の時代に書かれたとされております。原作者は董若雨です。

本書は削除版ですので、原書が読みたい方は東洋文庫(鏡の国の孫悟空「西遊補」)をお読みください。多分絶版になっているので図書館で検索すればあるかもしれません。


<西 遊 補>

第十九回 梧空 緑竹洞で古老に会い、孫丞相となり息子が五人いるらしい



見れば三蔵はひたすら声を上げ泣くばかり。小月王が言います。

「陳先生、悲しんでばかりいても仕方ありません。お尋ねしますが、天の掘削はどうなさるおつもりで。もう西天に行かぬなら、踏空児どもに帰還を命じますが」

「昨日はまだ決心がつきませんでしたが、今日はもう、行かぬことに心が決まりました」

小月王は大喜び、人をやり、踏空児にはもはや天を掘削する必要なしとの聖旨を伝達させる一方、女優の役職の宮女たちに芝居の支度を命じました。女優たちは一斉にひざまずき申し上げます。「陛下、今日は芝居ができません」

「暦の上で祭祀に良い日よくない日、元服に良き日よくない日があっても、芝居に良くない日があるなど聞いたことがない」

「陛下、よくないのではなく、できないのです。陳先生はあれやこれや心配、悩みを抱えてられてますから、もし世話物をやったらまた泣き出だされます」

「どうしたものかな。新作をやれ、旧作をやってはならんぞ」

「それでは簡単で。ただ旧作ならばやれますが、新作はやらない方が……」

「愚か者め!今日は陳先生のお祝い、派手に宴会を開こうというのに、芝居なしですまされるか?お前たちに任せるから、いくつかの段をやってくれたら、結構見所がるだろう」

女優たちは否も応もなく引き下がりました。そばに控える侍女二人がお茶のおかわりをもってきます。


三蔵の席が決まりますと、控えの間から銅鑼どらや太鼓がひとしきり、角笛がひとしきり、そして大音声が聞こえてきました。舞台からにぎにぎしく口上

「東西・東西、本日演じるのは『高唐の煙雨の夢』のお芝居、まずは『孫丞相』五幕をご覧に入れます」

梧空は山のくぼ地に伏せておりましたが、口上がはっきり聞き取れ、こう思いました。

「『孫丞相』ってのがって、そのあとで、『高唐の夢』だって。どちらも通しでやってから、やっとお開きにしておみこし上げようってわけだ。ちょいとどこかでお茶でも飲んで、それから和尚さまの様子を見に戻ってもおそくはない」


ふと背後から足音が聞こえてきます。振り返って見ると、道童こものが一人年は十三、㈣ 大声で呼びかけました。「若和尚、若和尚、芝居見物のお供します」

梧空は笑いながら「愛い奴、俺様がここにいると知ってやって来たのか」


「からかっちゃいけません。うちの主人はなかなか手ごわいですよ」

「ご主人の名は?」

「賓客好き、遊覧好きの緑竹洞主人と申します」

梧空笑いながら

「結構結構,お茶の接待はきっとその方にやって頂こう。坊や、俺の代わりにちょっとここに坐っておくれ。俺はご主人の所に行って、渇きを止める物を頂戴してくる。それまで芝居を見て。はねるかどうかたしかめて、もしはねたら、ご苦労だが坊やもすぐに戻ってきて一声かけるんだ」

道童はニコニコ笑って

「おやすい御用です。うちに一向にさしつかえありませんから,勝手にお入り下さい。私はここにおります」

梧空は大喜び、真っ黒い例の場所を見ながら、飛ぶように走り、明るい石洞の前に来ると一人の老爺にばったりでくわします。

「和尚はどちらから来られた。うちでお茶でも」

「もしお茶がないなら、俺だって行きません」

老爺は笑いながら

「お茶はともかく、和尚まあ来てごらんなさい」

「もしお茶がないなら、俺だって行きません」

二人は旧知のように笑いさざめきながら歩いて行きます。石段を一つ通りすぎると突然水辺に洞天が現れました。

「もうお宅ですか」

「いやまだです。ここは倣古晩郊園ほうこばんこうえんと言います」

梧空が目を凝らしてよく見ますと、なるほど結構な眺めです。東南の方角に向かって愉快そうに一人笑いをします。高楼も翠関も、急岐のがけも奇観のみねも、全く見えず、雲か霞か、あるのかないのかはっきりしない二つの山影を認めただけでした。


梧空はひたすらお茶に気を取られ、山水を出る気持ちにはなりません。

老爺とともに先へと進みますと

するとまたとある洞天に着いたのです。「ここも拙宅ではありません。擬古太崑地と言います」

梧空は笑って「貴人の墓場に立てる石人・石馬は皆彫り終わったのに、墓碑はまだ立っていないのは銘文の作り手いないのでは?

「若和尚、ご冗談ばかり。ま水の中をご覧ください」

梧空は言葉通り頭を下げじっくり見つめます。百の連峰逆さまに水の中、水面のさざなみとくあいまって、まさに一幅の山水画です。このとき何艘かの舟が出てきました。

舟にはみすぼらしい年寄りが大勢乗って何かを歌っていりました。その歌は


是非はいたらず魚釣の場、栄辱は常に随う馬上の人に

皆様よるもうし間抜まぬけ世界には何処にゆかばと問わるれば、押して行きては、ちょっと引き引き来たりて南に向かいて揺らし、揺らしては又推し、推しては又引く


梧空は間抜世界の四文字を聞くや、老爺に尋ねます・

「その間抜世界は何処の?」

「どなたをお探しで?」

「親戚に秦の始皇帝ってのがいて、間抜世界に引越してるので、そいつ一言話したいのですが」

「行きたいのなら、舟で渡って行かれるがよいです。あっちの青々した山の一帯、そこが始皇帝のとこの裏門です」

「そんなに広い土地なら。行ったところどこを探してよいやら。やめた、やめた」

「私も始皇帝と顔なじみ。行く気になれなきゃ、私が話をきいてきましょう。明日会ったら伝えてときます」

「俺には親戚がもう一人唐の天子と言うんで、始皇帝の駆山鐸くさんたくを借りて使いたいです」

「運が悪いですね。折悪して昨日借りて行かれました」

「一体誰に?」

「漢の高祖です」

「あなたもいい年してお人が悪い。漢の高祖と言えば秦の始皇帝にとっちゃ金箔付きの仇、あいつに貸すわけもあるまいに」

「若和尚、ご存じないが、秦と漢のあの頃のわだかまりはもう消えました:

「そうでしたら、秦の始皇帝に会われたら口上をお伝え下さい。二日経って漢の高祖が使い終わったら、借りに来ます」」

「それは妙案」

梧空はずっとしゃべり続けで、ますます喉が渇き、お茶だ、お茶だと喚きだしました。

老爺は笑いながら「若和尚は始皇帝の御親戚、私は始皇帝顔なじみ、みな一家の身内も同然です。お茶でも飯でも、お好きなように、さあ拙宅へどうぞ」と緑竹洞天に着きました。


見れば一面の青苔、天までのびる竹藪、その中に四部屋からなる紫竹の家屋がありました。

老爺は奥に入って、蘭花玉名茶を二杯持ってきたので梧空はそれを飲みます。

すると老爺は梧空の八字(誕生日の年月日時を干支で表したもの)を尋ねます。

「俺はあんたに偶然会出会っただけで。俺の八字を聞いてどうするんだ?」

「私は運命鑑定をやってはずれたことがない。始皇帝の御親戚だから、運命を占ってあげ、どんな幸運が待ち受けているか見ましょう」

梧空は顔をあげしばらく考えた後で、「俺の八字は最高です」

「まだ占っていないのに、よく最高と分かりますね」

「俺は普段からよく占ってもらっているんで。おととし青衣の占い師が運勢を見てくれたとき、八字をちょっと言っただけで、その占い師はびっくりして立ち上がり、馬か丁寧にお辞儀をして『失礼・失礼』と繰り返し、俺に若旦那呼びかけ『貴方様の八字は斉天大聖と寸分違わぬので』と言いました。そういえば斉天大聖はむかし天宮で怒りにまかせて、すごい神通力を現わし、今じゃすぐにも仏に成られるとか。おれの八字があの人と同じなら、なんてすばらしいことか」

「斉天大聖は甲子のとし正月一日生まれです」

「そうそう、おれも甲子のとしの正月一日生まれです」

梧空は視線を落としちょっと笑い、老爺に対し「早いとこ運勢を」と促します。


もともと梧空は石の中から生まれたので、自分の八字など全然しらなかったが、千宮の玉の箱の中にその誕生日が記録され、それが深山幽谷に伝わっていたのを、あるとき悪智恵をつかって探り出したのです。老爺はなんで梧空の手の内をしりましょう。早速梧空は講釈を始めました。

「若和尚、気を悪くなさらぬように、私は相手にお世辞言うのが苦手です。

梧空は笑い顔を作りながら「その方がずっとよろしい」

「占断の経典に『変宮にあえば奇遇なり、佳仁才子二人会いあう』とあり、若和尚は既に出家の身、夫婦の事に触れるべきではありませんが、運命を論ずるとなると、やはり縁組を持ち出さざるを得ません。」

「嘘祝言(虞美人に化け項羽の妻になったこと)はしましたが、数の内にはいりますか?」

「縁組でありさえすれば、嘘か誠か問いません。さてあなたの運命ですが、経典に『忌難並びに逢う悪海と名づく』とあります。どういう意味かと言いますと家族の増える慶事があり、親しい人と離別する悲哀もあるでしょう』

「師父が一人増え、師父が一品別れましたが、数の内にはいりますか」

「出家の身なのでそれも結構、ただ、本日以降、次にはまた奇怪な目にあいます明日は商と角の星に差し掛かり、人殺しをせねばなりません」

人殺しなど朝飯前、恐れるに足らず、と梧空は思います。老爺はさらに「三日後は変微星にさしかかります。経典に『変微の別号は光明宿、ぼけ老人もまたすっきり』とあり、難中に恩有り、恩中に難有りと解釈できます。さらに日・月・水・土の四大変星が運命にかかわり、若和尚はきっと九死に一生の目にあうことに」

梧空はわらって「生き死になぞ真面目に考えることですかい。死ぬんなら何年しんだって、生きるなら何年行きたって」

二人の話がちょうど盛り上がってるとき、ふとみれば道童が息せき切ってかけてきて叫びました

「若和尚、芝居はまもなくはねます。高唐の夢はもう醒めました。はやく、はやく!」


梧空はあわてて老爺に別れを告げ、道童に礼を言い、元来た道をおとって帰します。

くぼ地にもどると、懸命に楼の上を見つめます。すると「高唐の夢」はまだ一段残っているぞ、とだれかがいうのが聞こえました。

梧空はそれを聞き、また目を凝らして芝居を見ると舞台には一人の道士と五人の仙人にふんした役者が登場し、歌い出します。


この愚かなる一人を解脱させんと、人の情・世のさまをすべて語り尽くせり。

お前たち浮世の住人たちよ。夢より醒めし後、心のみずから銘記せよ。


見終わってところで、舞台上では、またもやにぎにぎしく口上

「『南何の夢』の出来は今一つ、『孫丞相』こそよろしければ、実は孫丞相はすなわち孫梧空。その婦人はかほどのあでやか、五人の息子はかほどにいき。当初は和尚の出身にして、後には天晴の幕切りかな、天晴の幕切りかな」






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