第十七回 梧空 小月王の八卦宮を見て驚き、子ザルを造り四方に偵察をさせる
初めまして!原 海象と申します。
今回は『西遊記』の外伝(SS小説?)である神魔小説『西遊補』を編訳したものを投稿致しました。なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は千六百年頃の明の時代に書かれたとされております。原作者は董若雨です。
本書は削除版ですので、原書が読みたい方は東洋文庫(鏡の国の孫悟空「西遊補」)をお読みください。多分絶版になっているので図書館で検索すればあるかもしれません。
<西 遊 補>
第十七回 梧空 小月王の八卦宮を見て驚き、子ザルを造り四方に偵察をさせる
梧空は拝礼感謝をすませ、楼をはね降りますと、また一つの門の前にやって来ます。門の上には「節卦宮」と大きく三文字を彫った板石が掲げられ、門の横木に掛けられた一本の紫金のくみひもに、碧玉に彫り込んだ節の卦が吊り下げられております。二枚の門扉。一枚には水の紋様、一枚には沼沢が描かれ、両側にはまた一対の雲浪紋様の短冊がかけられており、そこには
門を出でず、戸を出でず、険なる地、険なる天
少女となり、口舌となる、節は甘く、節は苦し
梧空は読み終わり、すぐに入って行こうとしますが。ふと足をとめちょっと考えてから言います。
「青々世界には人を縛るあんな紅い糸がある。むやみやたらに行動してはダメだ。門の前やら向こうやらをざっと見て、様子を探ってから老和尚を探し出せばよしと」
塀にそって門の東側に廻ると塀の上に一枚の紙が貼られておりました。
節卦正宮 建物 大小六十四宮
節の乾宮 六十四宮
節の坤宮 六十四宮
節の秦宮 六十四宮
節の否宮 六十四宮
梧空はさすがに目が疲れてしまい、残りの六十宮はただ懐素式早見法を使い、ただの一目ですませました。梧空が見終わったとき、そら恐ろしくなり、
「この俺様は天宮や蓬莱山を見たが、こんな六十四卦宮なんぞ一度だってみたことはない。六十四卦が六十四でもなお不足、各一つの卦の中にさらに六十四宮がる。
こういうところが、また一か所ではなく、他に、まだ十二ほんと肉眼じゃ出会えぬ、夢の中の奇遇だ」
梧空は即座に計略をめぐらせ、体からひとつかみの毛を抜いて。口に含み、粉々にかみ砕き「変われ」と叫びますと、無数の小サルに変身し、せわしく立ち上がり、動き回りました。
梧空は子サルに「面白そうなところにぶっかったら足を止めてちょっと見るだけで、すぐに帰って知らせろ。そのまま残ることは許さんと言いつけました。
子ザルの一群は飛び跳ねるや踊りまわるやらして、東西南北の方向にまっすぐ走り去ります。
*******
梧空はいましがた子ザルを出動させ、自分はぶらぶら歩くうち、ふと愁峰頂という一つの山頂にさしかかります。向こうを見ると一人の小者が一通の書状を手にし、歩きながら不平不満を言っていました。
「うちの親方はおかしいや。帝王のお家の大事が、てめえ一人とどう関係するのかしらないが、余計な疑問を抱き、おまけに書状とかを持って王四老人のところまで行かせやがる。他の日ならいいが今日の午後は陳先生(三蔵)が飲虹台で芝居やら語り物やらお楽しみをして酒を飲まれるのに、てめえのこんなつまらない用の為にぼくには芸1つ見させてくれない」
梧空は師父が飲虹台にいることを聞いて、すぐにそこへ探しに行こうとしますが、ひょいとまた考え直し、「万一あちらこちらして、道を間違えたら……・それよりあの小者に声を掛けて尋ねる方がいい」
しかし、梧空が小者に声を掛けますと小者は梧空を見なかったため突然現れた梧空にぶつかり、ぶっ倒れ気を失いました。梧空は師父を探したい一心で小者の持っていた書状を読み終えると、すぐに身ぶるいして子ザルを呼び戻しました。
子ザルの一匹はふもとから山頂まで飛ぶようにかけあがり「大聖さま、駆けもどってまいりました。半日も探せるおつもりですか?」と叫びます
梧空は「お前は、何を見て来た」
「わたしは一つの洞天まで行き、白鹿がしゃべるのを見ました」
しばらくして子ザルの一団が東北の方から戻って色々とわめきました。
梧空は耳にとめる気もなく、体をひとゆすりすると百千万人の子ザルが一斉に跳ね上がって体に戻ります。
梧空がすぐに大股に歩きだすと、もどった身の毛どもが
「大聖さま、行っちゃだめです。まだ帰ってこない仲間が一匹います」
梧空がやっと立ち止まり、見ると一匹の子ザルがぐでんぐでんに酔っぱらって山を上がって来ます。梧空が「どこに行って来た」と尋ねます。
子ザルは「わたしが一つの楼の近くに参りますと楼の中の娘が、わたしがいるのを見て部屋の中に引っ張り込みわたしを泥のように乱酔するまでのまされました」
梧空は大むくれ、子ザルに対して無茶苦茶に叩きました。
「このろくでなし、ちょっと野放しにすれば、すぐ情の妖魔にまといつかれようと言うのか」
子ザルは大泣きしながら、はね上がって梧空の身の毛を全て収め終わり、梧空は愁峰頂を下りました。




