第十六回 梧空 新居士に会い帰り道を聞くと、池に突き落とされる
初めまして!原 海象と申します。
今回は『西遊記』の外伝(SS小説?)である神魔小説『西遊補』を編訳したものを投稿致しました。なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は千六百年頃の明の時代に書かれたとされております。原作者は董若雨です。
本書は削除版ですので、原書が読みたい方は東洋文庫(鏡の国の孫悟空「西遊補」)をお読みください。多分絶版になっているので図書館で検索すればあるかもしれません。
<西 遊 補>
第十六回 梧空 新居士に会い帰り道を聞くと、池に突き落とされる
さて、山東地方に一軒の飯屋があり、店には一人、髪は薄く、歯歯抜け、何百歳なのか分かりませんが、日がな一日店にいて客に飯を出しております。看板には『新古人飯屋ハココ』と書かれ下には、小さな字で「旧名新居士」とあります。
実は新居士、間抜世界から帰って来たのに、玉門関が閉められて、古人世界へ入れず、未来世界に仮住まい、飯屋をやって暮らしていました。この男はむかしを忘れたりしない人で、それゆえに姓を新、名を古人と改名したのでした。
その日店先に坐ってお茶飲んでいましたが、ふと見れば孫悟空が東の方から「生臭い、生臭い」とわめきながら、転がり込むようにかけて来ました。新古人は、「先生、まあどうぞ」と言いかけます。梧空は「あんたどうゆう人です。わざわざ先生なんて」
「わたしはほかならぬ今人の古人で、古人の今人で、お話せばただの笑いぐさです」
「とにかくはなしてください。わらいませんから」
「わたしはほかならぬ古人世界の中の新居士なのです」
梧空はそれを聞いて。慌てて改めて挨拶し
「恩人の新さん、もし恩人のおかげでなきゃ、俺も玉門関から出られなかった」
新古人は大いに驚き、梧空はただちに姓名・経歴・経緯を一と通り話します。新古人は笑って「孫先生、あなたはまだわたしに頭が下げられますか?」と言います。
梧空は「まあ無駄口は叩かずに。こちらには尋ねたい大切な話があります。何故こんなに生臭いので、魚でもなければ、また羊でもないし」
「生臭いのを嗅ぎたければうちに来なさい。嗅ぎたくなければ来なさんな。ここはダッカン人のお隣で、ほんのちょっと行けば、もう全身生臭くなります」
梧空はそれを聞いてそっと思います。
『俺様は毛だらけだ。万一生臭いものをまともに浴びたら生臭猿になってしまう。おまけに臨時の閻魔大王になって秦檜一名を完膚なきまでやつけたばかり。考えてみれば秦の始皇帝も秦だし、秦檜も秦で、始皇帝の子孫でなければ奴の一族だ。
(注:始皇帝の姓は嬴で梧空は勘違いしています)始皇帝は大いに怒り、腹を立てて駆山鐸をすんなり渡そうとはしない。ここで暴力沙汰をして強奪したならば、俺様の名に傷がつくのがまた怖い。それよりも新居士に尋ねて、鏡から飛び出したらよいわ』梧空はすぐに大声で「恩人の新さん、あんた青々世界へは、今どこから行くのかちゃんと知っていますか?」
新古人は言います「今来た道、これすなわち戻る道」
梧空「結構な禅問答で。俺はきた道については分かってます。しかし、古人世界から未来世界へまっすぐ転がり落ちるのはまだしも簡単だけど。もし未来世界から古人世界へ逆に転がり上がるとなると難儀です」
「それなら一緒に来た。一緒に来た」
梧空の手を引っ張り、どんどんと歩いて行き、緑色の水をたたえた池のほとりに来ました。新古人は何も言わず梧空を池に一突き、すると、もと通り万鏡台の中に放り出されていました。
梧空はあたりを見回しますが、さてどの鏡の中から飛び出たのか分かりません。時が経つばかりで、師父の身に何かあるのが心配、向きなおって、すぐ階下へ降りようと半時も探しましたが、階段一つ見当たりません。梧空はいらいらするばかりで硝子の窓を左右押し上げてみれば、外は全て氷片紋様に組みこんだ素晴らしい真紅の欄干です。幸いなるかな、紋様の作りがとても大きく梧空はいきなり頭を突っ込み、一気に抜け出ようとします。
ところが、欄干が突然何百本の赤い糸に変わり梧空をぐるぐる巻きにして少しも動けません。梧空は慌てて一粒の真珠に変身すると赤い糸はすぐさま真珠網に。また梧空が鋭利な剣に変身するとたちまち鞘に変わります。
梧空はどうにもならず、元の姿に返り
「師父、どこにおられる。弟子がこんな苦難に逢っているのをご存じか」
と叫ぶよりありません。そのあと涙が泉のように溢れます。
突然目の前が明るくなり、空中で一人の老人が出現し、梧空に挨拶し、
「大聖、どうしてここにおられる」と尋ねます。梧空は哀れっぽくわけを話ます。老人は「大聖はここが青々世界の小月王の宮殿の中だとご存じない。小月王は元々読書人の出身、国王になってからは、朝から晩まで風雅三昧、十三経になぞらえて、十三宮を造成しましたが、ここは六十四卦宮です。大聖はいっとき惑乱し、まんまとこの宮の中に入り込み。それ故、縛り上げられたのです。わたしが赤い糸をほどき、大聖を開放して師父を探しに行かれるように致しましょう」
梧空は涙ながらに言います。
「もし長老にそうして頂けたら、いくらでも感謝してもしきれません」
老人はただちに赤い糸を引きちぎり、梧空はやっと抜け出せて、丁寧にお礼を申しました。
「長老お名前は?仏さまにお会いしたとき、長老の大手柄も記録してもらいます」
「大聖、儂の名は孫悟空と申します」
「俺も孫悟空と言い、貴方がまた孫悟空と言う。1冊の功労簿にどうして孫悟空が二人もおりますかい、まずはこれまでどんなことをしてきたか話してください。俺はそのことを少しは覚えているかどうだか」
「大聖、もしわしのしたことを聞いたならば、恐ろしく命が縮みますぞ。
五百年前天宮を奪い、腰をすえんとし、玉帝がわしにやらせたのは弼馬温、斉天大聖こそ我がことなり。五行山に苦しみぬいて一人の唐僧来たり、悟りの道に従わし。西天の道は危難あり、たまたま青々世界に逃げ込む」
梧空はカンカンに激怒し
「六耳獼猴の化け猿が!この畜生め、また俺をからかいに来おったか。棒をくらえ」と言い、耳から如意棒取り出し、正面から殴りかかります。
老人は袖を払って避け大喝一声
「これぞ身内が身内を救うというもの。残念ながら、そなたは虚妄を真実とし、真実を虚妄としている。」
突然一筋の金色の光が目の中に吸い込まれ老人の姿は即時に消えました。
『俺は情の魔に惑わされ、心が既に虚妄なのだ。真の心の方は自覚しており、妄心を救うのは、まさしく真の心である』と梧空はようやく悟りました。今のは自分のまごころの出現だと。大慌てで自分に拝礼感謝しました。




