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西 遊 補  作者: 原 海象
15/22

第十五回 梧空 宋の将軍岳飛を師父と拝し、秦檜の血酒で混乱した地獄から逃げ出す

初めまして!原 海象と申します。

今回は『西遊記』の外伝(SS小説?)である神魔小説『西遊補』を編訳したものを投稿致しました。

なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。

原作は千六百年頃の明の時代に書かれたとされております。原作者は董若雨です。

本書は削除版ですので、原書が読みたい方は東洋文庫(鏡の国の孫悟空「西遊補」)をお読みください。多分絶版になっているので図書館で検索すればあるかもしれません。


<西 遊 補>

第十五回 梧空 宋の将軍岳飛を師父と拝し、秦檜の血酒で混乱した地獄から逃げ出す



殿外で太鼓の音がひとしきり、牙をむき出した無数の青面鬼卒が飛び出し秦檜を取り囲み、まず魚鱗状の肉片を一つまた一つと切り取って一度に窯に投げ込みます。魚鱗裂きが終わると、梧空はただちに正簿判官に命じ、一つ目の金牌を溶かさせます。

判官が溶かしてしまうと、声高「殿下 岳将軍を召還する一つ目の金牌は溶けました」と申します。


太鼓の音がひとしきり、左側から赤身の凶悪な鬼使たちが躍り出てめいめい刀を手にし、秦檜を氷紋状に剮きます。梧空はまた正簿判官に命じ、二つ目の金牌を溶かさせます。

判官が命令を奉じ、声高「殿下 岳将軍を召還する二つ目の金牌は溶けました」と申します。


太鼓の音がひとしきり、東側からまた目‣口も無い、血面の真紅な鬼卒が十名が走り出て、やはりめいめい刀を手にし、雪片状に剮きます。正簿判官が金牌を溶かし終えると、声高に、

殿下 岳将軍召還三つ目の金牌は溶けました」と申します。



太鼓の音がひとしきりさらに太鼓の音がひびき、魚のかっこうの小鬼が一人の真紅の大名刺を捧げ呈上ていじょうします。名刺には五字が記されています。


宋将軍飛 拝


それを見た曹判官がただちに一冊の歴代臣下調査記録を差し出します。梧空は改めて細かく目を通し、岳飛の事績を胸にしかと納めます。門のあたりでまた太鼓が響き、殿外では笛や太鼓の音が起こり、やかましく鳴り響いて半刻、一人の将軍が面前に参台。


梧空は慌てて正殿を駆け下りちょっと脇へ寄って拱手の礼をし、「将軍どうぞ」

殿上へ上がってから、またまた深々と身をかがめ拱手の礼をしました。御簾みすの内に入るや否や、梧空は頭を下げて拝礼。

「岳師父、弟子は一生に師父が二人おりまして一番目は須菩提祖師で、二番目は唐の三蔵法師でした。今日将軍にお会いでき三番目の師父ということで三教(需・仏・道)兼備の完成です」

岳将軍は辞退するばかり。梧空がなんて聞き入れましょう。ひたすら拝礼をつづけます。そこで、「岳師父、師父のおなぐさみに今日は一つ血酒を差し上げましょう」と大声に申しました。「大いに感謝致しますが、きっと飲めますまい」


梧空はこっそり一通の書状をしたため、「使いの小鬼はどこだ」とどなります。

牛頭の連中や虎頭、更には頭に角がある連中が一組ずらりとひざまずき

「殿下お言いつけは何事で」と申します。

「お前たちを天にやりたいんだ」牛頭が言います。「殿下我々は地獄の悪鬼どもが、どうして天へ上れましょう」

「そりゃお前が天に上る手たてを持たぬだけで、天に上るのだって難しいことじゃない」

一枚の紙きれを、美しい雲に変化し書状を牛頭に預けます。先日天門が閉まっていて今日も開いているかどうかわからないのをふと思い出して

「牛頭、お前はこの雲に乗って行け。もしも天門が閉まっていたらお前はすぐに冥土の文書ですからと言って、太上老君のいる兜率宮へ届けに行くんだ」


梧空は牛頭を送り出してから、また大声で

「岳師父、弟子は嬉しくてたまりません。師父のゲの後を続けて作らせてください」

徒弟でしどの、わしは毎年毎年連戦し、仏書を一句だって口にしたことがありません。

続けてもらえるようなゲがどこにありますか」

「師父、まあおれが続けるのをお聞きになってください」



君有りては忠を尽くし、

臣との為りては国に報ゆ

一人一人天王、一人一人これ仏



梧空が唱え終わったばかりに、ふと見れば牛頭が返書を捧げ、頭には紫金のひょうたんをのせ、突然階段の前に降って来ました。

梧空は「天門は閉まっていたか」と尋ねます。

牛頭は「殿下、天門は大きく開いていました」と申し上げ太上老君の返書を呈上、曰く


『玉帝が大いに楽しめるのは、大聖の秦檜を尋問する、一言一言が真、一打ち一打ちが切なる為なり。金のひょうたんを送り奉る、ただ銅鉄の鏨子たがねを忌む。

大聖が留心せられることを望む。さく天の一事に至りては、その話甚だ長ければ面えし時に再めてつつまびらかにせん』



梧空は読み終わり、大笑いしながら、

「俺様はむかし蓮花洞れんかどうで、元々やつの宝貝をヤスリで切るんじゃなかった。今日は反対にチクリと皮肉りやがる」


「師父。まあ一度お坐りになって、弟子が血酒を用意するのでお待ちを」



梧空は受け取ったひょうたんを手に判官にそばまで来るよう命令し、ひそひそと耳打ち、何を言っているかわかりません。ひょうたんを判官に渡すと、判官はすぐ階段を降り空中に飛び上がり「秦檜、秦檜」と呼びます。

秦檜はその時、脳死状態ですが、息はまだあり、ひと声返事をすると、たちまちひょうたんに吸い込まれます。梧空はそれを見て「持って来い」とわめき、判官はあわてて御簾みすの内に進み入り、ひょうたんを梧空に返します。


梧空は「太上老君急急如律令」と記された一枚の封印紙を張り、ひょうたんの口をふさぎます。ただちに秦檜は膿汁のうじゅうに変りました。そこで判官は金爪杯を持ち出させ、ひょうたんをさかさまにし、血膿ちうみを注ぎます。


梧空は両手に杯をささげ、岳将軍の前にひざまずき

「師父、なにとぞ秦檜の血酒をお飲みください:と言います。

岳将軍は押し戻して飲みません。

「岳師父、考え違いなさらないよう、宋を盗んだ賊目はただ憎むべきで、あわれんじゃなりません」

「わしは憐れんでいるんじゃない」

「憐れんでないと言うなら、何故に血酒を口にさせないので」

徒弟でしどの、そなたは分からのか、乱臣賊子の血酒は、人としてこの世にある限り、たとえほんのちょっとでも口にすれば、腹の中は一万年も臭くなるだろう」


梧空は岳師父が絶対に飲まないのを見ましたので、一人の赤心鬼に褒美にそれを飲ませます。その赤心鬼は飲み終わるや否や、正殿の後ろへ駆け込みますが。半時ばかりして、突然門前が大騒ぎ、門番は鳴姦鼓めいかんこを叩きはじめ、殿階の下では五方五色の鬼使・五路の各殿の判官がどれもこれも武者震いをして闘志満々。


梧空が判官に何事だと尋ねようとすると。白玉の殿階の前にすでにぼさぼさ髪の鬼卒三百名も集まり青牙碧眼・赤髪朱髭の判官の首を捧げ、

「殿下、赤心鬼は秦檜の血酒を飲んでから、瞬時に面相が変わり司命紫所へ押しかけ、腰の小刀を抜いて、奴の恩人の判官殿を刺し殺し、ただちに鬼門関を出て、生まれ変わりに行きました」と言います。


梧空は一喝して小鬼卒どもを下がらせ、岳将軍のすぐに立ち上がります。御簾みすの外では太鼓がひとしきり、管弦の楽が奏され、槍や刀が触れ合って響き、剣や戟がいかめしく林立する中、五万名の総判が叩頭して岳将軍をお送ります。

梧空が「立ち去れ」というと、総判はただちにめいめいの持ち場に散って行きます。


三百名の護正黄牙鬼卒がめいめい宝戟を手に「岳将軍閣下を護衛します」と上申。梧空はそこで護正黄牙鬼卒に命じ、岳閣下を将軍府まで送らせました。


二人が正門まで来ますと太鼓がひとしきり、笛が一曲

梧空は拱手の礼、更に岳将軍に従って行きます。鬼門関に着くとひとしきり太鼓が鳴って、鬼卒どもは一斉にときの声をあげ、梧空は深々と拱手の礼をし、岳将軍を送り出し、声高に

「師父、機会があればまたご教示を」と叫び、再び拱手の礼をします。



梧空は岳将軍を見送ると、即座に空中に突っ立ち、身に着けた平天冠、渦状竜紋の長衣、容赦なきこと鉄のごとき靴閻魔天子という玉印を捨て鬼門関のそばに放り出し、一直線に歩み去りました。




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