第十三回 梧空 仏家から法官へ転職、宋の大姦賊を裁く準備をする。
初めまして!原 海象と申します。
今回は『西遊記』の外伝(SS小説?)である神魔小説『西遊補』を編訳したものを投稿致しました。
なお、原作のくどい話やあまり馴染がない用語や表現はカットしております。
原作は千六百年頃の明の時代に書かれたとされております。原作者は董若雨です。
本書は削除版ですので、原書が読みたい方は東洋文庫(鏡の国の孫悟空「西遊補」)をお読みください。多分絶版になっているので図書館で検索すればあるかもしれません。
第十三回 梧空 仏家から法官へ転職、宋の大姦賊を裁く準備をする。
突然、二人組の青衣の童子が梧空をしっかりとつかまえていました。
「大聖さま、ほんと良いところへ、ウチの閻魔大王が病気で亡くなったのに、上帝さまは何やら造作を始めて忙しく、どなたかを代わりによこす暇がなく、なんと冥府に主なしで知らぬ顔。
本日大聖さまがわたしらの為に半日でもちょっと面倒みてくださったら、感謝感激の極みです」
梧空が考えてみますと、
『もしまた半日ムダにすりゃ、明日やっとこ始皇帝に会うことになるわい。万一師父が妖怪にころされたら、どうなる。このガキどもには帰ってもらった方がいい』
そこで大声で
「坊や、俺は他のことならやれるが、閻魔大王なんかは、絶対になれない。
俺は人間がまっすぐだけれども、名うてのせっかちで、何度も人を傷つけている。
万一冥府に訴状が出て、その原告の言い分が正しけりゃすぐに腹を立て、棒を取り
出し被告を粉々になるまでぶっ叩く。
もしもたしかで公正な証人がいなきゃまだいいが、にわかに証人が現れ、ためらわずに進み出てひざまずき、そして『原告が悪い、被告がかわいそうです』と言ったらおれはどうしたらいい」
「大聖さま。貴方様はお間違いで。生死のカギは貴方の手にあるのに、また誰を恐れておられる」
と青衣は言い、梧空が承知しようがしまいがお構いなく
さっと鬼門関(人界と冥界をへだてる門)に引っ張りこみ、声高に叫びます。
「各員お出迎えを、立派な閻魔大王を探して来ましたぞ」
梧空はどうにもならず、やむなく正殿に上ります。
そのとき冥府のお付きの判官の徐顕が現れ、玉璽を捧げ梧空に管掌をお願い致します。階下には鬼卒、無縁仏等の一団しめて八千万四千六百。殿前には十六判官と五百万の魂、連署の名簿を奉呈し、口々に万歳を唱えます。
また、他の九殿の王や地蔵菩薩が謁見に参上、梧空は一々目通りさせて引取らせました。
そのとき、文書係の曹判使が階下にひざまずき、生死の台帳を差し出しました。
梧空は受け取って見て行くうち、こう思いました。
『俺はおととい男や女をひとかたまりに打ち殺した。
この台帳にはちゃんと記入されているだろうか?』
また一枚めくって思います。
『万一孫悟空が男女若干名を打ち殺すと記載されていたら、
さしあたってじっと我慢するのがいいのか、
それとも口止めするのがいいのか』
あれこれ思い悩むうちに、あることに気がつきました。
『この俺様がむかし、ここえ乱入したとき、
孫という名字をたいがい帳簿から抹殺しちまい、
小サルどもも俺のおかげで、功罪ともになしとなった。
ましてやこの俺様自身のことなんだぞ、
どこかの鬼卒が報告できて、どこの判官が記帳できるものかい』
と言って、梧空はパラパラめくりながら、床に放り投げました。
曹判使は原簿を拾い上げて両手に捧げ、左側の柱のそばに立っております。
梧空はそこで曹判使に命令します。
「ひまつぶしだ、小話本を一冊持ってこい」
「殿下、ここは極めて忙しく、小話本など読むひまはございません」
曹判使はお答えするとともに、一冊の黄面歴を奉呈、さらに
「殿下、前任の殿下はみんな暦の本をご覧でした」と申します。
梧空が開いて見ると始めが十二月逆に正月でおしまいです。
毎月初っ端が三十日、又は二十九日さらに一日おしまいに来ます。
梧空は感嘆の声を上げ「未来世界では月日はすべて反対だ。どう考えても筋が通らない」
暦を作った人物を呼び出して尋ねようとするちょうどそのとき、
見れば一人の判官が堂に参上して申します。
「殿下、本日の午後の御裁きは、宋の宰相秦檜の取り調べの一件でございます」
梧空は『あの秦檜はたしかに悪人だ。やつがやさしい坊さんみたいな、俺の様子をもし見たら、なんで恐れるだろう』
と思い判官に命じます。
「執務用の法服を持って来い」
梧空は頭に平天九旈冠をいただき、身には渦状竜紋の長服、足には容赦なきこと鉄のごとき靴をはきました。
そして梧空は小鬼卒に命じます。「鉄の旗竿を高く立てよ」
判官が命を伝え、殿外で声をそろえて返事がり、太鼓の音がひとしきり響きます。
鉄の旗竿が立てられ、ひらひらとはためく二面の大白旗には
『報仇、雪根、尊正謀邪』 と純金の八字がはっきりと書かれています。
梧空は旗竿が立てられたのを見て、ただちに告示を張り出させます。
正判事 孫
天道はゆったり、法律は無情
一切の掌善・司悪の判使、私を以て公を犯し
自ら厳網に投ずることなかれ。
三月 日告示
告示が出されますと、外で一斉に叫び声があがり、太鼓の音がひとしきり。
梧空はさらに拘引状を一通出します 『秦檜』
判官はひざまずいて拘引状を受け取り、外に飛び出し、東側の柱に掲げますと、外ではどっとどよめき、太鼓の音がひとしきり。
梧空はそこで御簾を上げよと命じると、鬼使が数人大急ぎで、闘虎の紋様の御簾を高く巻き上げます。すると多数の判官が各班ごとに整然と両側に向き合って並びます。
かなたではまた太鼓の音がひとしきり、ほら貝を拭き鳴らし、雲板石を叩き、大騒ぎで一本の白い紙の旗が送り届けられ、旗に書かれているのは『偸宋賊秦檜』です。
正門に着くと、正門の鬼使が声高に『偸宋賊秦檜の牌が入ります』と叫ぶと
殿外で一斉に返事がり、太鼓の音がひとしきり。またほら貝を吹き鳴らし、雲板石を叩き
殿中の青牙判官がただちに奪邪鍾を打ち鳴らします。正門では太鼓の音、中門でも太鼓の音
殿外でも太鼓の音と音が入り乱れます。
正門の鬼使が声高「秦檜が入ります」と叫ぶと、
殿内の五組の鬼判 殿外の多数の鬼使は、声をそろえて怒鳴りつけ、
その響きは雷のようでした。
太鼓の音がやっとやむと、
梧空はすぐに「秦檜の縄目を解け、こと細かく尋問だ」と命じます。
持ち場なしで威風堂々の鬼卒千名が慌てて縄を解き、
秦檜をレンガ敷の床に引きすえ、足蹴にします。
秦檜は床にひれふし、声も上げられません。梧空はそこで大声で
「秦丞相、まあどうぞ」と言いました。




