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捨てられたもの

掲載日:2022/01/16

「にゃあ〜」


汚れた路地裏から死にかけの鳴き声がした。

か細い声は仔猫の声ではなかった。


視線を薄暗い路地裏に送ると、その猫は成人しきった猫だった。

通る事のできないその道にいた猫は、俺を見て歩み寄った。


自然の摂理だ。とばかりに見て見ぬふりをしようとした。

けれど、その猫があまりにも賢明に鳴いていたからか、どうしても目が離せなくなった。


「お前も捨てられたのか……」


先日、長年付き合っていた彼女に浮気されて捨てられた俺はその猫に深く同情した。


猫の首には首輪があった。

真新しい首輪からは、飼い主の無責任さが伺える。

手を差し伸べると、その猫はすり寄ってきた。


「いっしょに来るか?」


俺はその猫を自身と重ね、寂しさを埋めるようにその猫を抱きかかえた。

猫はひどく痩せていた。

体温は低く、冷たい地面に横たわっていたからだろう。


動物病院に連れて行くと、その猫が、老猫だということがわかった。

治療することもできなくはないが、残り僅かの命をそのまま見送るのでもいいのではないか、と先生は言った。


老い先短い猫生を治療で無理やり長くするのは、この猫には負担になるかもしれない。

俺は最後の時までこの猫が幸せであってくれるなら、とそのまま連れ帰った。


膝の上で眠る猫はどこか安らかに見えた。

撫でられると嬉しそうに喉を鳴らした。

見てるとわかる。この老猫がもう長くないことを。


「いい子いい子」と撫で続ける。

寂しい想いはさせたくない。


猫の重みが一層深くなった。

老猫が息を引き取ったのだ。


それでもしばらく撫で続けた。

手が止まると、涙がこぼれた。


一日もいっしょにいてやれなかった。

出会ったばかりだったんだ。

それなのに、撫でることしかできなかった。


「ごめん……」


自分がこの子を捨てたわけでもなければ、責任があるわけでもない。

ただただ、同じ人間として申し訳なくなった。

同種にはとことん感情的になるのに、いざ重みになるとこうしてなかったものとして捨てられる。


そんな無責任な行為を責めることができない自分が腹立たしい。


「ごめんな……来世ではいい人に出会えるといいな」


老猫の体温がなくなるまで撫で続けた。

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