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ワイ、おっさん、小鬼を退治するが凹んで咽び泣く


「隣の国が攻めてくる」


子連れで港昔はそれなりだったおっさん。昔、事故を起こして悪役を被り、免許剥奪されて止む無く離職追放。その時に拾った竜の子供と辺境でのんびりスローライフな日常をと決め込んでいたが、そんな噂に踊らされ、慌てて本国に帰国するため、港町にやってきました。

おっさんは半ば強引に現役復帰させられ、その打合せ中に子供が外で遊んで怪我をし、迷子も押し付けられてしまいました。何とか中央迷子預かり所までやって来ましたが、色々ざまぁな展開で泣きたくなります。


【!!!微グロ表現注意!!!】

遊具の中に逃げ込んだ赤い子を追いかけて、子供達は遊具の中に飛び込んだ。おっさん達も後を追いかける。

積み木広場では誰かの大作が完全倒壊し、お砂場では同じく誰かの力作が木っ端微塵に粉砕され、滑り台では子供同士で玉突き事故が起こり、読書広場では本棚が倒壊した。


誰も彼もが、わんわん大声で泣いている。阿鼻叫喚の地獄絵図だ。


何とか赤い子を係官が保定し、おっさんが子供達を保定した。係官もおっさんも全身汗だくだ。

親達の冷たい視線が、おっさん達に集中した。

おっさんが覚悟を決めて謝ろうとすると、係官の方が先に広場の皆々に向けて頭を下げた。


「皆さま、申し訳ありません!」そしてしっかり抱えた赤い子の首根っこを掴んで「ほら! お前も謝る!」


おっさんは逆におろおろした。


 …いや、まず悪いのはこの子達でしょう? 勝手に追い回したんかだら謝らせないと。いや待て。この迷子の子はどうする?


おっさんの足元では、子供達が性懲りもなく訳の分からない事を喚いている。


「そうだよ! ごぶりんをかえして!」

「それとレンズ玉を返せ!」

「ごぶりんがないと、くすりがかえない!」


この期に及んで何事か。おっさんはギロリと睨んだ。「…隊長訓告!」とぼそりと呟く。

すると、しっかり者の筈の上の子が急に堰を切った様にボロボロと大粒の涙を流し始めた。


「たいちょーの言う通り、この子が困ってたから、助けようと、がんばったんだもん……」


まずい。これは非常にまずい。

下の子も主張を始める。


「がんばって、ごぶりんをつかまえたんだもん……つかまえた、ごぶりんを、たいちょーにみせたかったのに……!」


下の子も同じように大粒の涙を出して泣き出した。

迷子の子も口を開いた。下を向いて絞り出すように嗚咽を漏らす。


「せっかくつかまえた、ごぶりんを、あのこに、ぺちゃんこにされたの……」


 …これじゃ、まるで俺が泣かせたみたいじゃないか!


こんな絶望的な状況を救ったのは、現場の保育士さん達だった。


絵本広場では読み聞かせ会が開かれ、積み木広場やお砂場では片付け大会が、滑り台では綺麗な紋章付の絆創膏の配布会が開かれた。

あの騒動をあっという間に収めてしまった。


 …何これ? この連携プレイ! 保育士さんって本当に凄い!


責任者らしきベテランの保育士が出て来た。主任さんと呼ばれているらしい。おっさんや子供達、係官や赤い子等、皆が隅に集められる。


「ごぶりんを、せっかくつかまえたのに、ぐしゃ! っとされた!」

「この子達、小鬼を生け捕りにして小鬼屋に売ろうとしてた!」

「あたまがいたくなくなるくすりを、かうためだもん! ちがうもん!」

「それにレンズ玉も壊した! 返せ!」


子供達は次々と主張するが、似た事を繰り返し喋るだけで収拾が付かない。

おっさんと係官は顔を見合わせる。お互いに時間が無い。今すぐに喧嘩両成敗という形で手打ちにしたい。だが、そうすると多分どちらもその後が大変になるだろう。

ベテランの保育士さんは順番に話を聞き、一つの物語を汲み上げた。


「お母さんに頭痛薬を買ってあげたくて、小鬼を生け捕りにして売ろうとしたんだけど、この赤い子に折角捕まえた小鬼をペチャンコにされたのね?」


これで手打ちにする見通しが立った。


 …流石! 保育士さんって本当に凄い!


おっさんは子供達を叱る。


「…そうか、この子のために色々がんばったんだな! でも小鬼を生け捕りにするのは駄目だぞ! 病気が伝染るからな!」


係官も赤い子を叱る。


「確かに小鬼を生け捕りにするのは悪い事だけど、理由も聞かずにいきなり叩き潰すのは駄目じゃないか!」


そして、おっさんと係官は黙って頷き合い、お互いの子供達の首根っこを掴まえて同時に頭を下げさせた。

そして何度も主任さんにお礼を言った。


その後、おっさんは、主任さんに迷子を預け、ようやく医務室に向かう。

医務室も混雑していた。待合は20名ほど。看護士に「全身燻煙消毒済ですね?」念押しされると、受付簿に名前を刻む。

そろそろ集合時間だ。初顔合わせの打合せ後にまた顔を出してみよう。


おっさんは、遊具広場の滑り台を背にする形で、その前の場所を陣取り、隊長の印となる巨大な黄金色の角の付いた兜をかぶり、受付で預かった隊旗を掲げた。

後脚で立ち上がって、翼を広げ、ゆっくりと羽ばたく動作をする。


「…皆様、ご参集下さい!」繰り返し呼びかける。


隊旗を見て、被引率者の皆さんが集まりだす。頭数を数えて揃った事を確認する。

久しく使っていなかった初回顔合わせの挨拶の口上を思い出し、頭の中で一度復唱する。

無理やり笑顔を作って口を開く。


「…皆様、もうお昼に近いですが、おはようございます。私が今回の渡航で隊長としてお供致します!」


笑顔が馴染んできた。上の子と下の子が足元でおとなしくしている事を確認した。おっさんは続けた。


「…まず最初ですが、こちらの港には様々な方がいらっしゃいます。貴重品は肌身離さずでお願い申し上げます!」


早速、下の子が飽きた。足元のおっさんの尾っぽの先から背ビレを伝って、うんしょ、うんしょとよじ登ってくる。

肩を経由し、長い首をよじ登り、おっさんの頭上へと登頂に成功した。おっさんの兜の立派な角の間に鎮座して、周りに手を振って挨拶する。所々で「可愛い!」と歓声があがる。


「…今回、出発に先立って様々な話をお耳にされている方もいると思いますが、今朝現在、渡航安全公告や悪天候および各中継地の閉鎖等の悪情報は入っておりません!」


可愛さを自慢したい気持ちが3分の1。叱りたい気持ちが3分の1。口上に集中したい気持ちが3分の1。

おっさんの笑顔が崩れ、3つの気持ちが混じり合った複雑な表情になった。


「…また今回の渡航で使う航路は、比較的安全な航路と云われてます。迂回路も沢山あります! ですが使わないと思います! 私も何度も使っておりますが、今まで事故に遭った事はありませんので大丈夫ですよー!」


下の子は調子に乗った。おっさんの首から背中の翼を伝ってするすると滑り降りると、また尾っぽの先からうんしょ、うんしょと登ってくる。


「…出発までの流れですが、まず私の方で、皆さんの装備や身体検査をさせて頂きます。その上で出国審査を受けて頂く事で、円滑に審査が受けられるかと思います! 出国審査は各自で受けて頂きますので、万一、審査が通りませんと、その時点で隊から離脱する事になりますので、ご協力をお願いします!」


上の子は、よじ登る下の子を阻止しようと追いかけて、同じくおっさんの背中によじ登るが、途中で滑ってしまい、滑空して、遊具広場の滑り台に飛び移り、また滑り台からおっさんの肩の上に飛び戻った。

そして、おっさんの背中と滑り台の間をくるくる廻る形で、下の子と鬼ごっこをする格好になる。


 「待てよ!」

 「またないもん!」


これがきっかけとなり、遊具広場の滑り台で遊んでいた子供達におっさんと遊んでも構わないという「遊具認定」を受けてしまった。


「…出国審査が無事通りますと、隊毎に割り当てられた滑空台から順次出発となります! なお滑空台の番号ですが、審査を通過しませんと決定しません! まず私が先に審査を受け、その先で待ち合わせますので、その時にお伝え致します!」


後ろの滑り台からは、おっさんの広げた背中の翼を目掛けて、子供達が次々と滑空して突っ込んでくる。

子供達は、おっさんの翼に突っ込んだ後、そのまま下に滑り降りて、また滑り台に戻るを繰り返す。

おっさんは時折よろめきながらも踏ん張る。所謂「力持ち」のガッツポーズをとる形となる。


「…審査が通ってから出発までには時間がありますので、一度解散し、時間になりましたら滑空台でまた待ち合わせる形になります!」


その内、おっさんの翼幕に爪を立て、翼の上に登る猛者が現れ出した。

また翼の上に飽き足らず、おっさんの腕にぶら下がり出す猛者も。


おっさんは、続けて使う航路の旅程や、隊列形態、各種注意事項について伝えるが、そうしている間にも、両腕にそれぞれ数名の子供がぶら下り、両翼や両肩の上、首や頭上にも子供達が乗っかってくる。

両腕、両肢、両翼がプルプルと震え出し、全身の筋肉が悲鳴を上げる。下手なトレーニングよりもずっと過酷だ。

もうこうなると笑顔もへったくりもない。

最後には、顔を真っ赤にして牙を全部むき出し、必死の形相になって口上を言い切る形となった。


「…以上トナリマス! 何カ、ゴ質問ガ、アレバドーゾ!!」


周囲から謎の拍手喝采が盛大に沸き上がった。


上の子と下の子はそれぞれ、おっさんの翼の上に鎮座していた。拍手喝采を受けて鼻高々だ。

とその向かい側の通路に赤い子を見つけた。こちらをじっと見つめている。目が合うとあかんべーをした。


 どうだい! たいちょーは、すごいだろー!


赤い子は、キッと睨みつけると、保安検査場から、例の小鬼の死骸で一杯の大きな屑籠を引きずってきた。

そして、おっさん達の目の前まで引きずってくると、屑籠の中身をぶちまけた。

屑籠にはまだ生きている小鬼が案外沢山いて、ぶちまけた中から、わらわらと立ち上がって、広場のあちこちに散らばっていく。


広場はパニックになった。


小鬼達は、一見バラバラに散らばっているようで、陣形らしきものを組んでいる。

先頭に立った小鬼が、おっさんの目の前にやってきた。長い毒針を振り回して何かを囀りだす。


「ワレラは、ココにトレワラテいるドーホーをキマサラからカいホーシキニた」小鬼は囀る。


この小鬼は、固い金属の甲羅で全身が被われている種類だ。全力で何回も叩かないと潰れないヤツ。面倒だ。

甲羅はつやつやテカって光っている。はっきりいって気色悪い。

主任さんも傍に来る。


 「何? こいつ。喋るんだけど!」

 「…違う! 只の鳴き声だ。聞き入ると魅入られるぞ!」


「キマサがコノマオージョーのアルジか! イマからタイジしてヤルからカゴクをメキロ!」

小鬼は手に持った長い毒針をぶんぶん振る。

「ヲレはキョーのタメにシュギョーをシテきた! クラエ! サシイューヲーギ!」

所々何となく意味があるような無いようなフレーズを囀るので、思わず聞き入ってしまう。


「タイチョーメイレー! ゼーイン! シネ!」


 …隊長命令、全員、死ね?


我に返った。やはり小鬼は小鬼だ。


「主任要請! 総員! 燻煙開始!」主任さんは叫んだ。


子供達が気味悪がってきゃーきゃー逃げ惑う中、主任さん以下、保育士総出で、広場のあちこちで燻煙剤を噴霧しだした。いかんせん広い。燻煙剤が十分効かない。

おっさんは、燻煙噴霧には加わらず、港内案内図を丸めた棒で、小鬼達をバンバン叩く。小鬼達はちょこまか動いて、全く当たらない。そこに主任さんがやってきた。


「そこのアンタ! 何、一番肺活量が大きそうな図体のくせに、なんで燻煙噴霧に協力しないの?!」


主任さんは鼻口から燻煙剤をもくもく吐きながら、血走った目でおっさんを睨みつけた。さながら地獄にいる火炎竜のようだ。

おっさんは躊躇した。


「…え? 俺? あの。その。大変だよ? 俺が噴霧すると。本当にいいの?」

「早く噴霧する!!」それでも主任さんは、つかつかと歩み寄り、強力燻煙剤を2つ3つ一度におっさんの口の中にねじ込んだ。


おっさんは覚悟を決めて、胸一杯に空気を吸い込むと、大きく口を開けて燻煙剤を噴霧した。

広い預かり所の遊具広場が、おっさんが噴霧した煙で一気に充満していく。

すると部屋のあちこちから小鬼達の断末魔と思われる甲高い鳴き声があがる。

煙の隙間から小鬼達が泡を吹いてピクピク手足動かし痙攣しているのが見える。


はっきり言って気色悪い。全身の鱗が逆立つ。見たくない。聞きたくない。


と同時に充満した煙の中から次々と子供達が飛び出してきた。


「お゛え゛ーっ! 臭い!」

「何これ、ゲロ臭いんだけど!!」

「なんか、便壺ひっくり返したみたいだー!」


子供達は正直だ。


 …悪かったな。今、歯周病の治療中なんだよ!


おっさんは泣きたくなった。


色々不手際等で再投稿が多々あるかもしれませんが、ご容赦を。

誤字脱字などのご指摘もよろしくお願いいたします。


毎回のお願い恐縮ですが、☆マークを沢山つけて頂けると元気百万倍になります。

また本当にたった一言だけでいいですので感想を書いて頂けるとこちらでも元気百万倍になります。

ブックマークも大好物ですので、コチラもよろしくお願いいたします。

m(_ _)m



さて、次のお話は…


「ワイ、おっさん、子供におもらしされて咽び泣く」


…です。

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