ワイ、おっさん、子供が外で怪我して咽び泣く
「隣の国が攻めてくる」
昔はそれなりだったおっさん。昔、事故を起こして悪役を被り、免許剥奪されて止む無く離職追放。
その時に拾った竜の子供と辺境でのんびりスローライフな日常をと決め込んでいたが、そんな噂に踊らされ、慌てて本国に帰国するため、子連れで港町にやってきました。
おっさんは半ば強引に現役復帰させられて、打合せから戻ってくると子供達は遊びにでかけており、必死で探しに行くと、場外広場の露店街で遊びまわった挙句に怪我をしているという、色々ざまぁな展開で泣きたくなります。
【!!!微グロ表現注意!!!】
おっさんが事前打合せ中に便所に籠って上がったり下がったりしていた頃。
自分の名前が決まった子供達は、大喜びで奇声を上げながら部屋を飛び出した。
誰かに自分の名前を言いたくて仕方がない。
今までは、名前を聞かれても、もじもじして誤魔化さなければいけなかった。
これからは違う。ちゃんと大声ではっきりと答える事ができる。もう名前が変わる事はない。
しかも、これは大好きな「たいちょー」の名前の一部なんだ!
お互いにお互いの名前を呼び合う歌を即興で無邪気に大声で歌う。
続けて呼び合うので、結果としておっさんの本名を連呼する歌になってしまう。おっさんが聞いたら卒倒モノだ。
目の前の受付前広場の広い門の外側には、沢山の露店が並んでいる。
今日は、遊ぶんじゃなくって買い物に変更と即相成る。
装備一式を確認する。
水筒、飴玉、絆創膏、警笛、子供用燻煙剤、手拭き布、今日のお小遣いとして錫玉が5つ。
本当に久しぶりのお買い物。確認が終わると子供達は露店街に繰り出した。
薬屋さん、揚げパン屋さん、干物屋さん、装備屋さん、修理屋さん、天気屋さん、凧屋さん、果汁屋さん、燻煙屋さん、護符屋さん、爪磨屋さんに。
そして、駄菓子屋さん。
「これで、なにが、かえますか?」とたいちょーの真似をして、小さな錫玉一つを手に持って上にピンと掲げて、店に見える様にする。
大抵、大笑いされる。それだけでは何も買えないからなのだが、それでも大抵は何かしら…例えば、揚げパン屋さんでは、焦げた売りものにならない揚げパンだったり、天気屋さんでは、売れ残りの昨日の天気図だったり、何かしらオマケをくれる。
差し出されたものを見て、欲しいものだったら「おねがいします、それください」
要らないものだったら「すみません、ほかをみてきます」と言うのも、たいちょーの受け売りだ。
露店を一通り巡り、受付前の広場に戻った。
新年祭のシンボルである日輪と大青星と小白星を表現した巨大なモニュメントが飾ってある。
その一角で、空き場所を見つけると座り込み、戦利品を確認し合った。
今日は、上の子は干物屋さんで貰った売れ残りの干葡萄の屑と、修理屋さんで貰った小さな傷ついたレンズ玉。下の子は果汁屋さんで蜂蜜のたっぷりついた蜜蝋だった。特にキラキラ7色に光り輝くレンズ玉は、ここ最近では一番だ。
それなりに満足して、食べたり、レンズ玉で遊んだりしていると、こちらをじっと見ている視線に上の子が気が付いた。
受付の時にひと騒動を起こしていた家族の上の子供だ。下の子も気付いて簡単に声をかけ、堂々と自分の名前をいう。
普通はそこから「なにしてあそぶ?」になるのだが、今回はそうならなかった。
「かいもの、ひとりでできるの?」
「うん! できるよ! たいちょーのやり方だけどね!」と下の子
「おくすりも、かえる?」
「買えるよ! でもどうして?」
その子は黙ってしまった。自分達にも心当たりがある。誰にも言えないけど絶対に譲れない大切な理由がある時だ。
「行こう!」
薬屋に行き、その子もたいちょーのやりかたで買い物をする。
「これで、なにが、かえますか?」と錫玉1つを掲げる。
「うーん。この店では買えるものはないかな」
その子はがっかりした。
「何が買いたいの?」上の子は聞いた。
「あたまのいたくなくなるくすり」
「ごめんね、頭痛用の丸薬は、錫玉一つでは買えないんだよ」
「何個必要ですか?」
「まけてあげても錫玉5つは必要だね」
上の子は爪折り数えて計算する。
その子の錫玉は1個。僕たちもさっき3個使ったので残りは2個で、合わせて3個。
錫玉をあと2個は増やなきゃいけない。
上の子は、下の子とその子に言った。
「小鬼屋を探そう」
「ごぶりんって、なに?」とその子。
「ねぇ、さがしてどうするの? どうするの?」下の子は繰り返す。
「小鬼を捕まえて小鬼屋に売るんだ」上の子は丁寧に説明する。
まずは小鬼屋を探す。大きな港には必ずある。露店街を隅から隅まで探す。小鬼屋は隅にひっそりと隠れる様にあった。
どの店にも独特な匂いがあるが、小鬼屋の匂いは強烈だ。はっきりいって臭い。
小さな籠が沢山積んであり、その中に様々な小鬼が入っている。
その大きさは子供の手の平程度で、翼も尾っぽも生えていない。細長い4本肢で、後肢2本だけで立っている。鱗や羽毛はなく全身皮膚が丸出しで、何故か代わりに布切れで包まれている。首は短く、棒切れのような小さな身体に不釣り合いな大きな丸い頭が乗っている。顔は平たくてマズルはない。目だけがぎょろりとして、頭の天辺に体毛が少しだけ生えている。加えて、甲高い声でまるで喋っている様に鳴いて五月蠅い。
悪い夢の中で出てくるおばけがそのまま形になった様な生き物だ。
オス1匹だけのもの。オスとメスの番いのもの。幼生だけのもの。様々だ。
「これが、ごぶりん?」その子は嫌そうな顔をした。
「変な生き物だろ?」
臭い消しの煙が立ち込める店の中に、店主と思しき大きな影が見える。
思い切って、上の子は店の中に声をかけた。
「小鬼を捕まえたら、買ってくれますか?」
「1匹で錫玉2個だよ」
「ほかく器は借りれますか?」
「錫玉1個だよ」
という事は、捕獲器を借りる分を考えると2匹捕まえればいい。
捕獲器を借りる。古くて汚い。中に干からびた小鬼の死骸が入っている。逆さにしてポンポン叩き、道端に捨てる。
捕獲器の中は、誘い込むためにキラキラと細かい装飾がしてあって、中央には小さな赤い箱の様な餌置きがある。
箱が二重底になっていて、小鬼が箱を開けて餌を取り出すと床の下に落ちて出られなくなる仕組みになっている。
「どうやって つかまえるの?」
「これを使うんだ」と戦利品の小さなレンズ玉を出す。「小鬼はこんなキラキラしたものが大好きなんだ」
「どこに しかけるの?」
「狭くて、暗くて、暖かくて、じめじめして、小鬼の餌が沢山ありそうな所……例えば……」
と周囲を探すとゴミ集積所があった。
「……あそこにしよう」
小鬼はすぐに捕まった。がちゃんと音がして、小鬼の独特な鳴き声がする。2、3匹捕まったみたいだ。
下の子が慌てて駆け寄って、中を覗こうとすると、途端、火がついた様に泣き出した。
爪の先に長い針が刺さっている。小鬼が持っていた毒針だ。捕獲器を開けようとした所で不意に刺されたらしい。
上の子が狼狽えていると、どこからか赤い子供が現われた。
赤い子はこん棒を持っている。そして手にしたこん棒でいきなり捕獲器を叩き潰した。
ぐちゃっと変な音がして、小鬼の体液が柘榴の果汁の様に飛び散る。
「小鬼を生け捕りするのはいけないんだぞ!」小鬼の体液が付いたこん棒を振り回した。
「小鬼は駆除するんだ!」そう吐き捨てるように言うと、赤い子は、どこかに逃げ飛んで行った。
上の子は赤い子を睨みつけていたが、レンズ玉の砕けた破片も潰された捕獲器の周囲に散らばっている事に気付くと、上の子は泣き出した。
頭の痛くなくなる薬がこれで買えなくなったと分かった、あの子も泣き出した。
「いだいよー! いだいよー!」
「づぶざれだー! づぶざれだー!」
「ぐずりがえないー!」
泣き声の大合唱だ。
そこに、子供達を探していたおっさんが現れた。肩で荒く息を切らし、だらだらと額に汗を浮かべている。
「いだいよー! いだいよー!」
「づぶざれだー! づぶざれだー!」
「ぐずりがえないー!」
やっと見つけたにも関わらず、もう一体何が何やら。叱りたくても叱れない。
おっさんは、痛い痛いと繰り返す下の子の様子を見る。爪の先に毒針が刺さっているのが分かると血相を変えた。
応急措置を手早く済ませると、おっさんは、上の子と下の子と知らない子、全員抱きかかえると、全力で受付まで飛んで行った。
途中、「危険です! 歩いて下さい!」と巡回警備員に注意されるが完全無視する。
受付では、最初におっさんと対応した担当者と、ひと騒ぎを起こした家族を担当した担当者が出てきた。
医務室はここにはなく、検疫・保安検査場を通り越した、出国審査場の手前にあるという。
昔はここにあった筈だと粘ったが「今はありません」とはっきり断られる。
知らない子は、あの家族の子だと分かる。預けようとするとこれまた担当者に睨まれた。
家族は中央迷子預かり所に案内済で、その場所も出国審査場の手前にあるとの事。
「それ位はやって頂けますよね? 隊長殿!」
おっさんの足元では、相変わらず子供達が泣き喚いている。
「いだいよー! だいぢょー! だっごじでー!」
「たいちょー! おしっこ行きたい!」
「おとーさーん! おかーさーん!」
おっさんも泣きたくなった。
再投稿が多々あるかもしれませんが、ご容赦を。
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m(_ _)m
さて、次のお話は…
「ワイ、おっさん、他の子を泣かせて親に睨まれ咽び泣く」
…です。