ワイ、おっさん、半ば脅されて現役に復帰して咽び泣く
「隣の国が攻めてくる」
昔はそれなりだったおっさん。昔、事故を起こして悪役を被り、免許剥奪されて止む無く離職追放。
その時に拾った竜の子供と辺境でのんびりほのぼのとしたスローライフな日常をと決め込んでいたが、そんな噂に踊らされ、慌てて本国に帰国するため、子連れで港町にやってきましたが、即身バレ&半ば脅されて現役復帰する羽目になるという、色々ざまぁな展開で泣きたくなります。
担当者はにっこり笑って言った。
「免許証、お持ちですよね? 拝見させて頂きますか?」
「…ええ、どうぞ」
嫌々差し出された古びた免許証には、大きく失効の印が刻んであった。
それでも担当者は、免許証の職級を確認すると急に態度を変えて切り出した。
「あの済みませんが、この混雑で編制に難儀しておりまして、特に隊長職級が不足……」
「…結構です」すぐにそれを遮る。
「どうしてです? 挽回するいい機会ですよ? 経験値も加わりますし、もしかしたら正規に復職できるかも……」
「…子連れで隊を引率する隊長なんて見聞きした事がないですよ。それに正副隊長が初顔合わせで一般の皆さんを引率するなんて絶対無理。もうこりごりなんです」
「そうだよー。たいちょーやってよー!」
「いつかやって見せるって言ってたじゃない!」
「…君たちは黙っていなさい!」
押し問答していると奥から責任者らしき者が現れた。
一目でお互いの顔を確認すると、責任者の方から明るい表情でおっさんに声をかけた。
「先生、お久しぶりです!」
一方、おっさんの方は顔をしかめて泣きそうな顔になった。会いたくなかったらしい。
受付担当者が、免許証と旅券を見比べて責任者の受付部門長に何か耳打ちしている。
おっさんの表情は更に険しくなった。
「少し奥でお話しましょうか?」
「…子連れでもいいですか?」
「勿論です」
奥の部屋に半ば強引に連れて行かれ席についた。
机の上には、受付票と3名分の旅券、そして免許証が並んでいる。
おっさんの旅券と、免許証の氏名欄を見比べながら、部門長は切り出した。
「お名前、変えられたんですね?」
「…ああ、そうだ。こっちで落ち着きたかったんだ」
「あの子達が、竜の子ですか?」
「…まぁ、そうだ」
竜の子供達は、お菓子と飲み物を貰ってご満悦だ。
「今のお住まいはどちらでしたっけ?」
「…点々としてるよ。季節雇いの農園の監督者をやってる。この春までは、北クシュにいた」
「旅券の渡航履歴を見ますと、この春まではクシュではなくシワに滞在とありますが」
「…間違えた。それより前にいたんだ」
そこに、例の家族の受付担当者がやってきた。
「こちらが旅券紛失の届の出です」
机の上に、旅券紛失届が加わった。
「偶然ですね。紛失届とこちらに並んでいる旅券の氏名が同じですよ?」
「…そうだな。偶然の一致だな」
部門長は、子供の分と思しき旅券をチラと見た後、子供達の方を向いた。
「楽しそうだね?」
子供達は、今は壁に広げられた航路図を眺めて、お互いに地名の当てっこをしている。
「うん!」
「はい……ありがとうございます……」
下の子は無邪気に、上の子は用心深く返事をした。
「所で、君たちを何て呼んだらいいのかな? お名前を教えてくれる?」
下の子の方が元気よく返事をしようとした所を、上の子の方が慌ててその口を押さえておっさんを見た。
「…申し訳ない!」おっさんは頭を下げた。
「先生、どうしてこんな事を?」
倫理観なんてとっくの昔にドブに捨てた筈だが、昔の教え子に云われると流石に堪える。
「…あの時に全部捨てたからさ」
「では、この免許証は?」
「…捨てられなかった」
この子は理論派で、少しでも隙を見せるとそこを突いてくる。しかし今回は「では、あの時とは?」と聞いてこない。それが余計に心の傷に障る。
少しの沈黙の後、部門長が口を開いた。
「話題を変えましょうか?」
「…いいだろう」
「これからのお話は、こちらからのお願いとなります。臨時職とはなりますが、隊長職に復帰して頂けますか?」
「…脅すのか?」
「いえいえ、只のお願いです」
「…断ったら?」
「規則に則り本件を処理させて頂きます」
「…旅券はどうする?」
「仮旅券でしたら、私の権限でこの場で発行できますが?」
「…そんな事ができるのか?」
部門長は伏し目がちなおっさんの顔を正面から見据えて口を開いた。
「貴方は、弊港の要請に応じて隊長職に復職して頂きましたが、当方の手違いで旅券を紛失してしまいました。大変申し訳ありませんが、直ちに本国に戻って旅券を再発行して頂く必要があります。ですので帰国専用の仮旅券を緊急発行します。帰国後に正式な手続きをして下さい」
そして専用の旅券紛失届を差し出す。
部門長は無表情だ。それでも言外の伝えたい事は何となく分かる。
今言った話は、全くの作り話だが、これから既成事実になる。
おっさんが望めば。
「…それは、つまり……」
おっさんがその先の言を続けようとする。途端、部門長はおっさんの口を押さえた。
「隊長職への復職をお願いできますか?」と更に隊長職用の誓約書を差し出す。
そして「先生、どうかよろしくお願いします」と頭を下げた。
おっさんは覚悟を決めた。
「…済まない……本当にありがとう……!」
顔をごしごし擦って受け取り、名前を刻み始めた。
「それでは、こちらの隊の本国までのご引率をお願い致します」と編成表を手渡し、何事も無かった様に説明を続ける。ほぼ中隊規模に匹敵する超「超過編成」の小隊だ。
「先生でしたら、ご引率できると思っています」
「…事前打合せは?」
「午前の最終回が始まってます。今入れば間に合います」
部門長は大した事ではない様に微笑んだ。
「打合せ後に戻ってきて下さい。新しい免許証と旅券をお渡ししますので」
おっさんは泣きたくなった。
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さて次のお話しは…
「ワイ、おっさん、これは無理ゲーだと分かって咽び泣く」
…です。