ワイ、おっさん、雷にビビッて咽び泣く
「隣の国が攻めてくる」
昔はそれなりだったおっさん。昔、事故を起こして悪役を被り、免許剥奪されて止む無く離職。
その時に拾った竜の子供と辺境でのんびりスローライフな日常をと決め込むが、そんな噂に踊らされ、慌てて本国へ向けて出発します。
やっと出発できましたが、早々に救難信号を目撃してしまい、渋々救援に向かいます。
逆走する迷子の子を助けた後、竜の子達も救援しますが、雷にビビりまくるという、何とも情けないざまぁな展開で泣きたくなります
「……おとうさん!」兄の子は悲鳴をあげた。
目が合ってしまった。笑顔だが、その目は全く笑っていない。
「…ああ、よかった! 感動の再会だね!」おっさんはニッコリ笑った。 「それじゃあ、元気でね!」
そしてすっと煙雲の中へと消えて行く。
誰もいなくなる。その前に赤い子は咄嗟に叫んだ。
「助けて! 誘拐犯! 誘拐犯がいます! 助けて!」馬鹿の一つ覚えの様に叫ぶ。
すると、ぬっと下から太く長い腕が伸びてきた。おっさんだ。
赤い子の落下傘の頭頂部を掴んで引っ張る。有無は言わさせない。
赤い子はジタバタした。意味をなさない。そのまま引きずられ、煙雲の下に消えた。
本当に誰もいなくなる。
「悪い子には、お仕置きだ!」
父親は兄の子に襲い掛った。
おっさんは、暴れる赤い子を引き連れて、一度、煙雲の下に潜る。風に乗る形で半周程廻る。
再び浮かび上がると、おっさんは、背面飛行で、体の向きを昇り風に相対するようにして留まる。
赤い子の落下傘を潰しながら丸めて畳む。そっと外して風に乗せた。
上手く滞空できているが、体が硬い。緊張している。
ポトン!
上から赤い子の頭に何かが落ちて来た。
「なにこれ?」
爪だ。落下傘に絡まった時に食い千切った、おっさんの爪だ。赤黒い。埃にまみれている。色々汚い。
多分、どこかに引っ掛かっていたのだろう。
「…空からの贈り物さ。御守りだから、地面に降りるまでは捨ててはいけないよ」
おっさんが、子供だった時に云われた文言を繰り返す。
今更、指先が痛み出す。手を振って痛みを散らす。汚物は即投げ捨てて欲しい。
とは云え、これも立派な鋭利物だ。危険行為になる。
赤い子は、色々じっと見ていた。
「分かった! 大切にする!」そして笑った。
おっさんの頭上と首元からも声があがる。
「いいなー!」
「たいちょー! ぼくもほしい!」
きまりが悪い。慌てて話題を変える。
「…少しの間、ここで待っていられるかい? すぐに戻るから!」そのまま煙雲の下に消えようとする。
「待って! 待って! おっさん! あの子はどうなるの?」赤い子は何故か焦る。
そして反対側にいる、あの迷子の子とその父親を指す。その姿は陽炎に霞み朧げだ。
おっさんには、有るべき有り様に見えた。
それよりも、陽炎が濃い。その方が気にかかる。
「…あの子は、お父さんと一緒に行くんだよ。別の隊なんだ。もうすぐ迎えが来る」
赤い子は落胆した。顔が歪む。それはおっさんにも分かった。でも理由が分からない。
それでも、もう関わってはいけない。
…あの親子は不法渡航者だ。多分、誰も迎えには来ない。
一目で分かる荷重超過に装備不備。逆走飛行時に所属隊長が止めに来ない。隊名や次の寄港先を訊ねてもはぐらかす。
これ以上は聞けなかった。疑念が確信に変われば幇助者となる。
できることはした。これから先は、知らなかったでは済まない。
「おっさん! どうしたら、あの子と一緒に飛んでいっていいの?」赤い子は質問を変えてくる。
「…編入条件かい? 真に止むを得ない場合かな?」おっさんは怪訝な顔をした。
「しんにやむをえない、って何なの?」
「へんにゅーじょーけんって?」
上の子、下の子も割り込んでくる。
「…はぐれて独りになるとか、本当にどうしようも無い時は、あの子も一緒に飛んで行っていい、という事さ!」
すると子供達は歓声を上げた。何故か一緒に飛んで行く事になっている。
全力で否定すると、次は不平不満を並べだした。
おっさんは注意事項を念押しして、慌てて煙雲の下に紛れて消えようとする。
途端、赤い子は何故か慌てだした。引き延ばそうと話を続ける。
あいつは絶対ボロを出す。眼の前で見せつけないと。
「ねぇ、おっさん! 待ってる時に、他に気を付けることってある?」
おっさんは、渋々納得顔になった。その場でくるりと転回し、通常の飛行姿勢に戻る。
「わぁ!」下の子が声をあげた。
懐の荷袋から、藁半紙を一枚取り出し、手早く円筒状に折る。紙飛行機もどきだ。
おっさんは、風柱の外側に向かって、左前に投げた。
風を切り、甲高く鳴きながら、まっすぐ飛んでいく。音色を変えながら白く輝き、小さくなる。
やがてデタラメに振れて煌めき、ストンと墜ちた。
同じ様に、もう一つ折ると、今度は、右後ろの風柱の真ん中に向かって軽く投げる。
風に乗ると、音も立てずに、すっ飛んでいく。
やがて陽炎の壁にぶつかった。何度か煌めき弾む。そして上空に消えた。思ったより速い。
「わぁ!」下の子が声をあげた。先程とは声色が違う。
見上げれば、もう雲塊ができている。白いというより黒い。
見下ろせば、港の建造物が作る長い影の先の右上に、別の影もある。
思ったより大きい。何より早い。おっさんの顔は険しくなった。
「…分かったかい?」険しい顔で、念を押す。
眼の前で、見えていなかった危険を見せつけられた。赤い子は、黙って頷くしかない。
おっさんは後悔した。怖がらせてどうする。
「…大丈夫! 巻き込まれたら、落ち着いて、尾を伸ばして、首と翼を畳んで、真上を向くんだ!」朗らかに笑って見せた。
「堕ちてるときも? 地面にぶつかるよ!」
「…大丈夫! 大丈夫! 翼の先だけを出すんだ! 6つ数える間に大抵抜けられる。そうしたら翼を広げるんだ」
赤い子は少し安心した。おっさんが言うと、大丈夫な気がする。
そんなやりとりをしている間に、首元にいる上の子は、おっさんの荷袋から藁半紙の紙束を探し出していた。
「見つけた!」宝物の様に振りかざす。数枚が空に舞い上がる。
「あーずるい!」おっさんの頭上に陣取る下の子も騒ぎ出す。
「…コラ!」おっさんは焦った。その次が簡単に予想できる。
「たいちょー! ぼくもやりたい!」
「ねぇ、ここで、一緒に飛んで待ってても、いいでしょう?」
おっさんは、苦虫を噛んだ顔になった。
「おっさん! 俺も一緒に、飛びたい!」そこに、何故か焦る赤い子も加わった。
連呼が始まる。「飛びたい! 飛びたい!」即興で歌まで付く。おっさんは早々に根負けした。
赤い子とこの場にいてもいいと伝えると、上の子と下の子は喜んで抱っこ紐を外しだす。
おっさんは、何度も注意事項を繰り返し、それでも急いで、煙雲の中に消えて行った。
一方、赤い子はがっかりした。アイツはまだボロを見せない。自分で何とかするしかない。
その場に残った子供達で、紙束を分け合うと、飛行機の投げ比べが始まる。
赤い子は、何度も陽炎の向こう側に向かって、紙飛行機を飛ばすが、陽炎の壁に阻まれ、弾かれる。
「クソ!」赤い子は、陽炎の柱を睨みつけた。
「こう飛ばせば?」上の子が飛ばしてみせた。明後日の外側の方向だ。
赤い子は小馬鹿にしたが、上の子は気にしない。
スナップが効いている。紙飛行機は、左廻りの外側の周回コースに乗った。
四半周の手前で、中央の陽炎の柱に吸い込まれた。
「へへん!」上の子は得意げだ。
赤い子は目を丸くした。
真似をして外周コースに向けて投げてみた。同じく四半周程廻った後、吸い込まれた。あと少しで届く。
「三角の尾っぽを付けると、もっと飛ぶよ!」
上の子は紙飛行機の端を、爪で少し切る。上手く切れない。何とか切り出して、形を三角に整える。投げると本当によく飛ぶ。本当にもう少しで、あの子に届く。
赤い子も真似をして、自分の爪で切るが、全く切れない。おっさんの爪を使ってみた。スパスパ切れる。面白い。
下の子も真似するが、くしゃくしゃになる。折り方も投げ方も適当だ。あっという間に紙束を使い果たしてしまう。
「ねー、ねー! かみを、もっと、ちょーだい!」
「だめ! ちゃんと、三等分したじゃないか!」
上の子は、狙いを定めて、紙飛行機を飛ばす。
直後に、下の子は紙飛行機を掴まえた。滞空する場所を変えている。
上の子は何度か投げるが、下の子が全部取ってしまう。
「ずるいぞ!」
「ちがうもーん! ぼくのところに、とんできたのを、とっただけだもーん!」
そして掴まえた紙飛行機を投げる。やはり上手くいかない。
赤い子が、その先に廻って掴まえようとする。が、おっさんの爪に軽く当たってしまった。
少し強く風に吹かれた途端、バラバラと四散する。折角の力作が台無しだ。
上の子は奇声をあげた。紙飛行機を投げる振りをして、下の子に、そして赤い子に体当たりした。
「返せよ! ばか!」
「いたい! やめて! こわいよ!」
「お、おい! 止めろよ! 流されるぞ!」
徐々に風に流される。上の子は気にしない。下の子、赤い子ともみくちゃになる。
とうとう風に乗ってしまった。
慌てて赤い子は、目の前の行く先に向かって、紙飛行機を投げた。
風の周回コースに乗る。陽炎の向こう側のあの子の所まで届いた。これは行ける。
赤い子と、上の子、下の子は、悲鳴を上げながら流されていった。
陽炎の向こう側では、あの迷子の兄の子を、その父親が折檻しようと襲い掛かっていた。
何度も、何度も、襲い掛かる。しかし、風を孕んだ落下傘は、生きている様に、それを避ける。
「早く、こっちに来い!」
「やだ!」
「親の言う事を聞け!」
「いきたくない!」
兄の子は手足をバタバタさせ、手の平、足の裏の爪を全開にして抗う。
父親は、何のために、襲っているのか、訳が分からなくなっていた。
目の前の自分の子が云う事を聞かない。ただ云う事を聞かせたい。それだけなのに。
父親の感情が爆発した。自分の子に向かって爪を伸ばす。
パチン。
爪先に何かが当たった。痛い。紙筒だ。そして、彼の耳に子供達の奇声が聞こえて来た。後ろからだ。
振り向けば、子供達が団子の様に丸まって突進してくる。父親の背中の翼に次々に衝突した。
「うわっ!」父親は短い悲鳴を上げた。
それぞれが、爪を立てて、翼にしがみつく。父親の首が持ち上がる。
ずるずると子供達は、後ろに滑り落ちる形になる。
重心が完全に後ろに倒れ、垂直に立ち上がる。風がどんどん翼から剥がれ出す。
兄の子にかまっている暇などない。父親は、怒って子供達を振り払った。ぽんと、上空に放り投げる。
赤い子は、廻り込む風に乗って踏ん張ったが、上の子と下の子は、毬の様に綺麗な放射線を描いて墜ちて行った。
赤い子は、父親の背中から離れると相対する。おっさんの爪を向けた。
「鬼さん! 鬼さん! こっちだよ!」赤い子は挑発した。
「お前! まだ居やがるのか!」父親は憤怒の形相だ。
「やめて! やめて!」兄の子の悲鳴も響く。
今度は、赤い子に向かって爪を伸ばす。風が舞い上がる。赤い子はフワリと浮かぶ。
伸びた爪は空を切った。赤い子は何もしていない。父親は激昂した。同じ事を繰り返す。
いつの間にか、父親と赤い子は、吹き下ろしとの境目まで流されていた。
赤い子は、見えない風の断崖絶壁を背に向け、相対した。
ぼこぼこと、下から上から、前から後ろから、暖気と冷気の塊が、襲い掛かる。
小さな翼では、重心を取るのが難しい。
「下手クソ! 全然当たらないじゃん!」もう一度、爪を向けてみる。
「この糞ガキが! そのチンケな翼位、すぐに引き裂いてやる!」また爪を伸ばしてくる。
そこに丁度、冷たい突風が上から吹き抜けていく。
赤い子は、風に背中を押された。爪の前に突き出される。父親は醜く嗤った。
「墜ちてしまえ!」
赤い子は、おっさんの爪を付き出した。それしかできない。
父親の爪が赤い子に届く前に、先におっさんの爪が父親の手に突き刺さった。深い。
赤い子の目の前で血が噴き出る。その血は父親の顔に吹きかかった。怯む。
風はその隙を見逃さない。今度は、熱い突風が父親の腹尾を下から持ち上げてくる。
父親は前傾姿勢になる。自然と前方へ滑り降りてしまう。
下降風に嵌まってしまった。上からどんどん冷たい風が吹き降りてくる。墜ちていく。
父親は昇り風を掴もうと足掻く。翼を一杯に広げる。翼幕が凹む。昇降笛が降音で叫びだす。
吹き下ろしの風を一杯に受け、どんどん降下していく。逆効果だ。
父親は悲鳴を上げた。
一緒に墜ちている赤い子は冷静だった。おっさんに云われた通りにすればいい。
落ち着いて、爪を引き抜くと、首を畳み、尾を立て、上を向き、少しだけ翼を出す。
すぐに激しい吹き下ろしから押し出され、離脱した。
今度は、お腹から暖かい風が突き上げてくる。翼を拡げると、風が強引に翼を押し拡げた。
一気に上昇して、兄の子に追いつく。何故か兄の子は動揺している。
「いい気味だ!」赤い子は息巻く。
下から父親の昇降笛と悲鳴が聞こえてくる。小さくなっていく。音程も低く遠のく。
「……おとうさん!」一方、兄の子は悲鳴をあげた。「……おとうさん! ……おとうさん!」繰り返し叫ぶ。
「止めろよ! あんな奴!」赤い子は驚いた。「もう忘れろ! いい気味だ!」思わず怒鳴る。
「……そんな……そんな……」兄の子は、泣き出した。「……君も、僕のこと、怒るの……?」
「そうじゃないか! あんな奴! 俺がせっかく、やっつけたのに!」赤い子は驚く。
「もう怒らないで! 何にもしてないのに、どうして、いつも怒られなきゃいけないの?!」兄の子は落下傘の結び目を解いた。
「もう、来ないで!」
落下傘は昇り風を受けて一杯に開き、本来の大きさを取り戻した。
ぐん。と上へ引っ張られる。どんどん上へ、上へ。
「一緒に、飛んでいくんじゃなかったのかよ?!」赤い子は怒った。
「もう、いやだ! いやだ! 来ないで!」兄の子の姿は、どんどん小さくなっていく。
上の子も下の子は、墜ちながら、たいちょーを探すと決めた。それしか思いつかなかった。
翼を少しずつ開いて体勢を立て直す。煙雲を突き抜ける頃には、何とか持ち直した。
探すのは簡単だ。たいちょーはでっかい。一番大きい翼影を探せばいい。
下を見れば、ポツリと、ポツリと落下傘の花が開いている。
たいちょーはすぐに見つかった。首を下に向けて狙いを定めている。
大きな翼と長い首を畳み、尾はまっすぐ伸ばした。自然に銛の様な恰好になり急降下する。
竜の子の下に回り込み、翼をぱっと広げる。ややあって、落下傘の花がまた開いた。
たいちょーは少し離れた。その場で、風上から風下へ、風下から風上へ、ジグザグに翼の向きを変えながら、少しずつ昇ってくる。
上の子、下の子は、狙いを定めると、たいちょーの真似をした。尾を伸ばし、首と翼を畳む。
自然と重心が下を向く。急に怖くなったが、もう止められない。錐揉み状態になった。
視界に、たいちょーの翼が一杯に広がる。そのまま突っ込む。
ぼすん! ぼすん!
おっさんの翼の上に、上の子と下の子は続けて硬着陸した。
思わずよろめく。首が深く立ち上がる。
慌てて尾を下に、尾先を拡げて上に向ける。尾に全荷重が圧し掛かる。風がねじ折ろうとする。
激痛だ。踏ん張って耐える。何とか立て直すと、首を子供達にねじ曲げた。
久しぶりだ。不機嫌が隠せない。何度やられても慣れない。
「…どうした?!」感情に蓋をして、子供達に微笑む。ぎこちない。
子供達は負けじと一斉にまくし立てた。
「たいちょー! 助けて!」 「あのね! あのね!」
「あの子がいじめられてる!」 「かみひこーきをなげてね!」
「早く! 早く!」 「けんかしてね! ぶつかってね!」
「風に流されちゃうよ!」 「おちちゃったの!」
訳が分からない。赤い子がいない。何かあった。悪い事だ。それは分かった。
一通り喋り終えると、それぞれの定位置に、もぞもぞと移動する。温かく、こそばゆい。そして抱っこ紐を自分で締めて、体重を乗せてきた。たいちょーの事を信じている。それが分かる。不機嫌は何処かに消えた。
おっさんは、見上げて目を凝らす。
赤い子と、あの迷子の子が見える。迷子の子の落下傘がぱっと広がるのが見えた。
…まずい!
おっさんは、すぐに追いかけた。何とか赤い子の高さまで辿り着くと近寄る。
赤い子は呆然として、上を見上げている。あの迷子の子は、更に昇っていた。
雲底高度を既に越えている。上昇も速すぎる。もうあの子は雲の虜だ。
…もう、これ以上は無理だ。
おっさんは追跡を止めた。自らも雲に喰われてしまう。
感情に蓋をして、赤い子に微笑む。久しぶりだ。
「…あの子は……これから綺麗な虹になるんだ! 邪魔しちゃいけないよ!」ぎこちない。
子供だった時分に云われた言葉を繰り返す。声が震える。何度やっても慣れない。
赤い子は、まだ何か喚いている。追いかけて昇ろうする。
おっさんは慌てた。翼先を伸ばす。そして赤い子の直ぐ脇を掠める様に飛ぶ。
赤い子は、おっさんに引き寄せられた。見えない鎖で縛られた様に身動きができない。
赤い子は暴れた。それでもおっさんが飛ぶ方向にしか飛べない。
「…あの子は綺麗な虹に出世するんだ! だから、邪魔しちゃいけない!」
おっさんは目を細めて繰り返した。
その上では、兄の子は安堵していた。ここなら誰にも怒られない。やっとだ。
空は水色。お日様は真上。白く眩い。日輪が虹色に煌めく。
どんどん近付く。陽射しは柔らかい。
おいで。おいで
輝く空が誘う。お日様も笑っている。
こっちは明るいよ。綺麗だよ。楽しいよ
虹色の日輪と、白いお日様は、どんどん大きくなった。
やがて日輪は、丸い地平を囲むまでに大きくなった。そして、お日様は空全体を覆った。空全体が白く輝く。
その真上に、更に白く輝く太陽と、日輪が現れた。
さぁ、おいで。ここなら、誰にも怒られないよ。一緒にあそぼう
やがて光の柱が降りて来た。兄の子を包み込む。虹色に輝きだす。
そして光の柱とも雲ともつかない輝く何かは、ふっと吐息を吹きかけた。
冷たい。日向の香りがする。優しく、柔らかく、清らかだ。
ほら、もう目を閉じて、おやすみなさい
眠気が襲ってくる。抗えない。冷たい。気持ちがいい。他の子供達の笑い声が聞こえてくる。楽しそうだ。
兄の子は目を瞑ってしまった。兄の子の姿は、どんどん小さくなっていき、白い雲の中へ消えた。
束の間、白く輝いていた空は、どんどん昏く、黒くなっていく。
おっさん達が、その様子を黙って見ていると、その更に下から、男の喚き声が聞こえてきた。
父親だ。懸命に羽ばたいて、おっさんに近寄ってくる。
上空を指して、意味不明な事を訴える。腕を掴まえて引っ張ってくる。危険行為だ。
おっさんは、笑顔を捨てた。素に戻り睨む。首を虚空に向け、顎を大きく開けた。
軽く噴霧する。威嚇噴霧だ。黒煙に赤い炎が混じる。燃焼不良だ。臭い煙が鼻と目を刺激する。涙が零れる。父親は負けずに、何事かを訴えかけてくる。涙混じりの喚き声は、獣の唸り声だ。
仕方がない。丁寧な対応をする事にする。
おっさんは、荷袋に手を突っ込み、紙片を探した。数枚取り出して円筒状に折る。
上の黒雲に投げ込む。殆どが何かに阻まれ、弾かれ、墜ちていく。
やがて一つが風に乗り、狙った方向に飛んで行った。おっさんは、父親と目を合わせた。
…追いかけたいんだろ?
何も言わない。顎をしゃくり、翼を振った。おっさんは紙飛行機を投げただけだ。後は父親次第だ。
もう一度、同じルートで投げる。紙飛行機は、あの子が消えた道筋を辿る。父親は、その後を追いかけた。
紙飛行機が黒雲の中に消えて行く。父親もその後を追う。
直後に轟音が轟く。稲妻が伸び、父親に直撃した。炎が立ち昇る。その後も雷が何度も落ちる。
真っ黒になった身体から、幾筋も火柱が噴き出し、くるくると独楽の様に廻る。
黒雲から、にゅっと何かが伸び出てくる。腕とも首とも口ともつかない。
その何かは、父親まで伸びると、一呑みにした。先端が鈍く赤く染まる。鮮血に似た色だ。
そして伸ばしたソレを、ゆっくりと仕舞い込む。
何度も、中でガリガリと轟音が響く。口の辺りが赤く輝く。まるで咀嚼している様だ。
怖い。全身の鱗が逆立つ。頭上から怒気と殺気が伝わってくる。
…天地の怒りを買ってしまった!
おっさんは泣きたくなった。
…非常に大変にお待たせ致しました。
まだまだ不慣れですので再投稿が多々あるかもしれませんが、ご容赦を。
誤字脱字などのご指摘もよろしくお願いいたします。
本当にたった一言だけでいいですので感想を頂けると元気百万倍になります。
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m(_ _)m
さて、次のお話は…
「ワイ、おっさん、年甲斐もなく綺麗な虹を見て咽び泣く(予定)」
…です。