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ジキルとハイドに告ぐ  作者: 詠み人知らず
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EDその1

※402が最多得票かつ、404が二重人格ではないことを皆知っている。

(「404は二重人格ではないのでは?」という旨の話を、『全体会議』『402と403の密談』のいずれかでされている)


―――――――――――――――――――――――


長い夜が明けた。


朝になり、ようやく警察が病院に到着する。

警察官は医師らと会話した後、二人の人間に手錠をかけた。

402号病床の会社員と、404号病床の元学生である。



医師たちの口から、事件の真相が語られる。


昨夜20時半頃、二つの病床で異変が起きた。

一つは被害者の『河童男』。

薬の効果が切れたのか、彼は眠りから覚め、河童の姿を見つけた。

河童の幻影を追いかけて、ベッドを抜け出し、ふらふらと向かいの402号病床のカーテンを捲る。

彼の目には、確かにこの中へ河童が入っていったのに、その姿は全く見つかない。

被害者――『河童男』は、402号病床の机をどけ、戸棚を開け、捜しまわる。


同じくこの時、402号病床の会社員も、薬がうまく作用せず、精神分裂を起こしていた。

『善意のジキル博士』は眠りにつき、『悪意のハイド氏』が目を覚ます。

ハイド氏は、自分の病床の、戸棚を漁る被害者に気付いた。

「自身の荷物を漁る不審者がいる。」そう思った。


ベッドや机の下、戸棚を探っても、河童の姿を見つけられなかった被害者は、踵を返し、402号病床のカーテンの外に出て行った。


『河童男』を物盗りだと思ったハイド氏は、自身の戸棚にあった、妻の帯紐を手に取る。

小さな病室の窓の前で、虚ろな瞳で河童の幻影を探す被害者の首に、後ろから帯紐を巻きつけ、力の限り締め上げる。

しばらくすると、被害者はぴくりとも動かなくなった。

ハイド氏が帯紐から手を放すと、被害者はどさりと、音を立てて床に崩れ落ちる。

不届きな盗っ人を成敗し、満足したハイド氏は、22時45分、床に戻り、真の眠りについたのだった。


そしてその十分後の22時55分。

403号病床の無職の男が、夢遊病症状を起こした。

ベッドを抜け出し、カーテンを捲ったところで、月明かりに照らされた、帯紐の飾りに目を奪われる。

夢遊病者は、無意識に、息絶えた被害者の首から、帯紐を取り、着物の裾に入れた。

その後、廊下を彷徨っているところを、看護師に保護されたのだった。


この夜は、今冬一番に雪の降る日であったが、唯一、夢遊病者が帯紐の飾りに手を伸ばした、ほんの僅かな時間だけ、雲が晴れ、月が院内を照らしていた。



一連の事件の真相を知った、『ジキルとハイド』は、表情を歪ませる。

「私は、とうとう、越えてはならない一線を、越えてしまったのですね」

様々な感情を押し堪え、男は呟いた。

己のしでかした罪の重さに、一時は、自ら死を選ぶべきかとも思った。

しかし、彼は罪を受け入れ、然るべき罰を、生きて償うと誓った。

―――友人である、『河童男』のためにも。


また、404号病床の元学生は、数々の物証や証言から、二重人格者ではないことが明るみになり、再び逮捕され、改めて裁判を行うことになった。

後の裁判中、彼がかつて、私利私欲のために、二人の人間を殺害したいたことなども判明した。

かつての下された無罪判決は取り消され、懲役刑、或いは死刑も視野に入れた判決を巡り、抗争中である。



『ジキルとハイド』は、鉄格子のついた閉ざされた病室に隔離され、

二重人格を騙った犯罪者は、独房に収容されたていった。



403号病床の夢遊病者の男は、ただ一人、この白い壁に囲まれた病室に残された。

全ての謎が解明されたルート。


【オマージュ&リスペクト】

ロバート・ルイス・ヴンソン「ジキル博士とハイド氏」

芥川龍之介「河童」

江戸川乱歩「夢遊病者の死」

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