ハンドアウト③404号病床:元学生
【404号病床・元学生】
先ほど、同じ病室の患者が殺害されたらしい。
この病室にいる二重人格者たちは、皆、精神錯乱すると人に危害を加える事があるようだ。
院内の状態からしても、同室の内の誰かの犯行に間違いはないだろう。
厄介なことをしてくれたものだ。
ちなみに、僕は犯人ではない。
それを何故、僕が確信しているのかと言うと、僕は二重人格者ではないからだ。
――――――――――――――――――――
【プロフィール】
二年前、僕は自分の利益の為に、二人の人間を手にかけた。
最初の一人を殺害した折は、上手く隠し果せたが、二人目の殺害時、ヘマをした。
僕の犯行を裏付ける、確たる証拠を警察に捕まれ、強盗と殺人の罪で、逮捕、起訴された。
しかし、この時、僕は良いことを思いついたのだ。
『精神障害者のふり』をして、減刑を狙う。
取り調べや裁判で、僕は、以前読んだ本のような二重人格者を、『ジキルとハイド』を演じた。
「僕の行った悪事は、全て、僕の中にいる、もう一人の悪人がしでかしたことなのです。」
うまく演じることができた僕は、精神分裂病と診断され、無罪を得た。
だが、かわりに精神病院へ措置入院となってしまった。
刑務所暮らしよりかは、ましだろう。
それに、病状の回復を医師が判断した次第に、晴れて、再び自由の身になれるのだ。
最初こそ、檻のついた、独房のような、何もない狭い個室での、不自由な隔離生活であった。
しかし、『医師の適切な治療』の甲斐があるように、徐々に病状が良くなる演技をしていたら……。
やっと医師の診断で、『症状の回復の兆し有り』(そもそも僕は、病気ですらないのだから。)――と診断が降りたことで、半年前にこの四人部屋にやって来た。
柵こそあるものの、外の景色の見える窓に、鍵のかかっていない病室。
監獄のような、あの個室より、遥かに居心地はいい。
ただ、同室の患者たち……、特に被害者の『河童男』は、頻繁に妄想の話をしにやって来るので、鬱陶しくてしょうがなかった。
だが、これも無罪を、自由を得るためと、我慢してやり過ごした。
ある日に、僕はまた、悪知恵を思いついてしまった。
妄想に陥っている『河童男』には、僕に処方されている分の鎮静剤や睡眠薬を、こっそりと茶に混ぜて飲ませたらば、黙らせることはできないか。
実際にやってみると、効果は覿面で、彼はすぐに大人しくなり、自分のベッドへ帰って眠った。
その日から僕は、今まで飲まずに、便所に捨てていた自分用の処方箋を、隠し持つようになった。
退屈で穏やかな入院生活だった。
そして、ある日、転機が訪れる。
僕たちの病棟の、精神科の主治医が代わることになった。
この新しい主治医というのが、また厄介なことをしてくれたのだ。
『前主治医』の出す処方箋が、副作用が強く、患者の負担が大きいからと、効果の弱い薬に全て入れ替えてしまった。
今の主治医の処方箋は、副作用が弱い代わりに、すぐに薬の効果が切れてしまう。
同室の患者たちの症状が頻繁に現れるようになり、煩わしいことこの上ない。
まったく。前主治医の処方箋を、貯めて持っておいてよかった。
僕に実害が出るような時は、この薬を飲ませて大人しくさせればよい。
そうしながら、退院まで穏やかに過ごす予定だったのに、今回の事件だ。
――――――――――――――――――――
【事件当夜の行動】
21時、看護師が夜服用の処方箋を手渡してくるが、いつものように僕は飲んだふりをして、薬を隠す。
折りを見て、これは便所に捨てることにしよう。
看護師が病室の全員に薬を配ってから、消灯する。
22時、一時間置きに看護師が病室の巡回をしにやってくる。
まだ寝ていなかった僕は、狸寝入りでやり過ごした。
どうやら、隣の402病床の男も寝ていなかったらしく、看護師が声をかけていた。
その後、僕はすぐに寝ていたが、突然、何かが倒れる物音がしたので目を醒ました。
枕元に置いた懐中時計を見たら、22時45分だった。
どうせ同室の夢遊病の連中が何かしているのだろうと、気にせず、再び眠につく。
その10分後、再び眠りに落ちかけていたところを、看護師の悲鳴で起こされる。
看護師曰く、同室の401号病床の男が殺されているらしい。
僕は焦った。
『河童男』の殺害に、僕は関与していないが、やがて警察がやって来て、この病室内を調べられて、僕の秘密がばれたりしたら、今までの計画が無に帰す。
とりあえず、大量に持っている『前主治医の処方箋』を、見つかりにくいように隠しておこう。
その後に、何としてでも、警察が来るまでに犯人を特定し、さっさと突き出してしまおう。
……いや、待てよ?
今回の真犯人を見つけ出した後、そいつを脅して、今後、利用できないものだろうか?
そうだ。代わりに、関係のないもう一人を犯罪者として、警察に突き出してやろう。
どうせ、この病室の患者は、みんな二重人格者だ。自分が犯罪者であるかどうかもわからないのだ。
さあ、まずは犯人を見つけ出し、犯人と共謀して、無罪の男に罪を擦り付けてやる。
計画が成功したら、この絶対的な弱みを使って、彼を意のままに操ってやるのさ。
――――――――――――――――――――
【あなたの目標】
真犯人を見つける +3点
真犯人以外に投票する +3点
真犯人に、犯人と自覚させ、犯人ではないもう一人に投票させる +3点
二重人格ではないことが全員に知られる -10点
――――――――――――――――――――
【あなたの事件当夜の行動】
21:00 消灯。21時服用の処方箋を受け取る。
22:00 見回りの看護師が様子を見に来た。
看護師が、402病床の男に声をかけているのを聞いた。
404は寝たふりをしてやり過ごす。その後、すぐに就寝。
22:45 何か大きなものが倒れる音で目が覚めた。
懐中時計で時間を確認した。気にせず、再び眠りにつく。
23:05 事件発覚。看護師に起こされる。
――――――――――――――――――――
【あなたの持ち物】
『本』
読書が趣味のため、定期的に看護師に、貸本屋から、適当に見繕って借りてきてもらう。
『高価な懐中時計』
以前、殺した人間から奪ったもの。
毎日就寝前にネジを巻くのが習慣。時刻は正確。
『処方箋』
現主治医の処方箋。
21時の服用を指定された、鎮静剤と睡眠薬、一回分。
ハンドアウトそのまま載せるマン