08.最弱という称号
翌日の朝。俺はティアとリアーナと共に登校していた。
なぜかいつもより視線を感じながら、進んでいく。
「ほんとに昨日のアトスは凄かったね。剣の魔法なんてどうやって?」
「まあなんだ、人よりは剣に詳しかっただけだ」
「ふーん」
どこか訝しむような目を向けられつつ、俺はあることを考えていた。
昨日の練習試合。本来ならば、行き過ぎた戦闘は監修の教師に止められるはずだ。しかし昨日俺が死の淵に立たされた時、抑制の声は立たなかった。それは、あの場に必ずいたはずの教師がそれを見過ごしてい居たということ。
この学園は、教師まで血やら出身やらを気にしているのか?
そうとしか考えられなかった。あの場で教師の一声があれば簡単に止められたはずだ。俺は剣を握ることだってなかったはずだ。なのに、どうしてだ。
そんな答えの出ないことを考えていると、声がかかる。
「お、イカサマ野郎じゃん」
「……何のことだ?」
「お前が昨日、剣をもとから所持してたことだよ」
そう朝から挑発してきたのはブレザーの制服を大胆に着崩し、ワイシャツをズボンから出した格好をした水色の髪と瞳をした男。
「俺はそんなことしていない。あれは魔法で出したものだ」
「そんなことありえねえ。あれだけ魔法の実力がないお前が、そんな高等魔法使えるはずがない」
そう言って男は俺を睨む。男の水色の瞳に、俺が映っている。
「魔法はイメージが大事だと聞いた。なら出来ないという保証はない」
「にしたって段階があるって話だ。いきなり最難関と言われる創造系の魔法をお前は使ったんだぞ」
「話にならないな」
俺はティアとリアーナに視線だけでコンタクトを送りその場から歩き出す。
「女二人連れて逃げるなんて、みてられねえなお前」
「この二人は関係ないだろう。なんなら、お前を斬ってもいいんだぞ」
「やめとくね。薄汚い手とやり合う身はねえんでな」
「薄汚い手、か……」
確かに、俺の手は汚れ切ってしまった。戦場に咲く友の、敵の亡骸をもう何度見届けたことだろうか。
俺はふと、首に下げられた鉄製のプレートに手を当てた。普段は制服の下に隠しているのでこれを俺が肌身離さず持っていることを知る者はいない。
これは、ドックタグだ。認識票とも呼ばれるこれは、個々の兵士を判別するために名前を彫られたプレートで、俺はおそらくこのドックタグを一生手放すことが出来ないだろう。
戦争の時、俺を庇って死んだ敵の兵士のものだ。
その人は国家勢力に反したと罵られて、死体が回収されなかった。だから俺はその亡骸を、戦場に咲いた血河の上から運び、花を添えてドックタグを取った。
名前はギルヴィア。家名は、傷ついてしまっていて読み取れない。
俺は今も、この人から貰った命で生きている。
「黙るってことは、やっぱりインチキしてたんじゃねえか」
「俺は、そんな……」
声はかすれていた。身体は少し震えている。思い出したのだ、自分が背負った命を。零してしまった命を。
「まあいい。その内皆に知れ渡るだろうよ。じゃあな最弱」
「いい加減にして、アトスはそんなことをしないよ」
「なんだおめえは」
少し怖気づく素振りを見せたものの、意を決したのかティアは一歩前に踏み出す。
「私はアトスの友達。貴方よりはアトスを知ってる。彼は、そんなことをする人じゃない」
「断言するんだな。愛されてるじゃねえか、最弱」
「あ、愛してなんかないっ!」
そう言って腕を全力で振るうティア。男は目を鋭くした。
「こいつがインチキしてないっていう確証がない時点で、断言なんてできねえんだよ」
「だったら、インチキしたっていう確証もないでしょう?」
「それならあるさ、こいつが剣を使ったことが何よりの証拠だ」
極論にも程がある言い草だ。これで最弱と言われるのは、悔しいけれど。
「でも、それは――」
「――ティア、もういい」
「でも……」
何かを言いたげなティアの視線を無視して、俺は顔を俯ける。これ以上話しても意味がないし、ティアの評判まで下げてしまったら俺は頭が上がらなくなる。
「ふん、じゃあな」
そういって、男はどこかへ去っていく。随分と注目を集めてしまった。何事だと生徒が見ては、軽蔑の目をむけてくる。
なんだ、最弱か。と何処からか聞こえた気がした。
「でもアトスは、そんなことしてないよね……?」
「ああ、だがそれを言ったところで、信じてもらえないのが現状だ」
「そんなの……酷いよ」
「なにか、証明できるものがあればいいのですが……」
剣を消したことで俺は証明したと思っていたが、あの消すということ自体は幻影魔法という初歩的な魔法でやることでできる。そのため、あいつらが介入する余地を残してしまった。
何か、絶対に反論することが出来ない証明方法があればいいのだが、そううまくもいかない。
「まあ今考えても仕方のないことだ。ありがとな、俺は教室に行くよ」
「アトス、大丈夫?」
それは、きっと俺が教室に入ることを危惧してくれていた。
「私も全力でアトスさんを守ります。心配はないですよ」
「……ならいいんだけどさ」
そう言ってティアは胸を撫で下ろす。俺は何処か居づらくなって。
「俺は守られなきゃいけない程弱くない。大丈夫だ」
だって昔は、沢山の人々を守る立場だったのだから。守られる必要なんて、ない。
「困ったら、助けを求めてね?」
「ああ。そうする」
その言葉を最後に、俺たちは別れた。お嬢様と俺が同じクラスに、ティアは隣のクラスに入っていく。
覚悟を決めて、俺たちは教室へ足を運んだ。
「……なんで誰もいない?」
「この教室だけもぬけの殻ですね」
その教室には、誰もいなかった。机に荷物が置いてあったり、乱雑に脱がれた制服が散らばっていることからして、居なくなってからさほど時間は経っていない。
「次の授業は魔法戦闘法だ。バトルドームにでも行ったのか?」
「いや、そうとすれば前日に報告されているはずです」
心地よい風の音だけが響く教室。
ふいに、バタン。と何かが倒れる音がした。
「おい、何かが倒れ――!?」
後ろにいたリアーナを確認しようとして、俺は驚愕する。
リアーナは、その場にうつ伏せで倒れていた。
「おい、急にどうしたんだ! 起きろ!」
肩を揺らしてリアーナに話しかけるが、返答は返ってこない。
「そう慌てんなよ。少し眠らせただけじゃねえか」
突如として響く低い男の声。その声の主を探そうとして顔を上げると。
「俺はお前と話したかったんだよ。ただそれだけだ」
音もなく目の前に現れ、息がかかるほど近くに男は立っていた。思わずリアーナを抱えて後ろへ飛ぶ。
そして床に安置し、俺は再び前を向く。
ガタイは良く、ワイシャツを腕まくりしている腕はやけに筋肉質だ。口には煙草を咥え、怪しげに輝く紫紺の瞳は見るものをその狂気へと誘う。
見るからにして生徒ではない。
「とりあえず、黙ってついて来い」
「……」
悪意はないが、敵意はある。長年いろんな者の目を見てきたからわかる。独特の輝きだ。
押し黙っていると、ふいに制服の裾を掴まれた。そして、何かしらの魔法をつかわれて。
「寝てろ。ガキは大人の言うことを聞けばいいんだ」
そのまま男の肩に担がれて、俺は意識を漆黒の中に落とした。
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