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05.負けず嫌い

 ティアとの魔法特訓が始まってから一週間が経った。あれから俺はほぼ全種類の初歩的な魔法を習得し、滑り出しにしては順調だとティアからお墨付きをもらった。


「ほんとによく頑張ってるよね。私の何倍も覚えるのが早いよ」

「これもひとえにティアの御陰だ。ありがとうな」


 言い合いながら、俺とティアは朝の通学路を登校していく。ティアの家は俺の家から五分ほどの近場にあり、朝は俺が迎えに言っている。というか、迎えに行かされている。

 ただでさえ朝が弱い俺なのに、何故用事を増やさなくてはいけないのか。そんな文句を垂らしていたはいたが、慣れは怖いものでもうなんとも思わなくなった。


「所で、今日の放課後は暇?」

「おう、暇だが。なんかあるのか?」

「今日は上級生同士の魔法練習戦があるみたいでさ、見に行かない?」


 魔法練習戦。それはつまり模擬戦である。上級生ともなれば俺たち一年には考えられないようなレベルの高い試合が見れるだろう。今後の成長のためにも、見に行きたいところだ。


「面白そうだな。連れてってくれ」

「やった!」


 はしゃいで一歩前に踏み出すティア。なにをそこまで喜んでいるのか分からないが、まあいいとしよう。

 校門を潜り、階段を昇れば一年生の教室はすぐそこだ。


「じゃあ、放課後ね! 私が迎えに行くよ!」

「りょうかい」


 そんな会話を交えて、俺らは互いの教室に入っていく。そして自分の席に座ろうとすると、そこにはある仕掛けが施されていた。


「ちっ、誰がこんなことを」


 俺の椅子の背もたれには体温を感知すると炎が噴き出す魔法罠トラップが仕掛けられていた。

 それを無言で外し、指ではじいてごみ箱へ捨てると、今度こそ席に着いた。


 あのトラップ。下手すれば全身やけどものだ。そんな性根の悪いことをこいつらは本気でやるから腐っている。


「リアーナ・マクレ―アさん! 僕と結婚を前提にお付き合いしてくれませんか!!」


 そんなことを考えていると、教室全体に響くような大きな声で愛の告白が聞こえてきた。

 朝から何なんだ。まったく。不満を漏らしつつ俺はそちらの方角へ振り向く。気が付けばその周囲にはたくさんのクラスの奴らが集まっていた。


 隙間から覗くに、すらっとした長身で、優しい顔に眼鏡をかけ淡いオレンジの髪と瞳をした男が花束を一人の女子生徒へ向けていた。


「えっとこれは、その……」

「僕は本気です。貴方こそ受け入れてくれれば、本当に結婚もしたいほどです」

「お! 熱いね!」

「ひゅーひゅー」


 その告白が引き金となって、教室内は祭り騒ぎだ。女生徒の困った反応とは裏腹に、どんどんと熱気を帯びてきている。しかし、あいつらがやることなんて俺にはほぼ関係ない。関係あるとすれば、それはこちらへ悪意の目を向ける時くらいである。


「ごめんなさい、私は貴方とはお付き合いできません」


 女子生徒がそう言って差し出された花束を軽く押し返す。しかし、男はめげずに。


「なにか不満があるなら言ってください。僕にできる事であればなんでもします」

「いや、私は……」

「おいおいお嬢様ぁ。それはねぇんじゃねえか? こんなに尽くしてくれるって言ってるんだぜ」


 そこに割り込んで入ったガタイの良い男子生徒。あれはよく俺に魔法を撃ってくるガイザ・フォーエストである。クラスの頭的存在で、常に周りには複数の子分的な奴らがいる。


「そう言われても……」

「そうだ。お嬢様の家は代々凄腕魔法士を輩出してる家柄だよな。だから弱ぇやつには興味がねえんだよ」

「なら、全力で魔法の練習に励もう! 約束する!」


 お嬢様、と女子生徒は言われているがそういうことか。彼女の家は有名な魔法の名門家。いわゆる貴族というやつだ。


「だめだ。デクト。今力を示さなきゃいけねえ。そう、魔法練習戦でもしてな」

「するさ! 誰とだってしてやる! それで勝てば、お付き合いしてくれるのか!」

「きっとしてくれるさ。なあお嬢様」

「いや、そんなことは……」

「なあお嬢様?」

「……ッ」


 ガイザが威圧して女子生徒の黙らせた。ガイザに絡まれるその姿は、普段の俺と重なっているように思えた。

 しかしあいつも純血。たまたま今日はあいつが少し絡まれているだけで、俺がやられるとなれば嘲笑う最低な奴なのだろう。だから俺は見て見ぬふりをする。ましてや今の俺には助け出す力はない。


「よおし、付き合ってくれるってよ。対戦相手はそうだな、おいアトス。お前がやれ」

「な、彼は……」

「なんだデクト? 対戦相手に文句はないだろう? 俺がみっちりと鍛えてやってるからよぉ」


 その言葉と共に、子分が笑って俺の方を向いてくる。

 なるほど、弱い俺を相手にして絶対に勝たせることで、ダクトという男とお嬢様をくっつけたいのか。

 だが、生憎俺もそこまで暇ではない。


「俺は戦わない」


 俺が一言そう言うと、ガイザは露骨に機嫌を悪くしてこちらをにらんだ。


「相変わらず威勢だけは良いなてめえ。お前に拒否権なんてねえんだよ、黙って勝負しろ」

「こちらに見返りもないし、戦う利益がない」

「あははは! 利益か! 利益なんて考えるまでもねえが、お前が勝てばお前と付き合ってくれるさきっと、そこのお嬢様がな」


 獰猛にガイザが笑い、そんなことを言ってくる。


「俺は付き合いたいだなんて言ってない」


 ちらっとそのお嬢様とやらに目を向け見る。すると、期待するような目を向けられた。情に流されるな、あいつも俺を嘲笑っているような奴なんだ。戦う義理なんてないし、勝ち目も薄い。


「お前が戦わないなら、あのお嬢様は明日から学校に来なくさせてやる」


 耳元でガイザがそう呟いて、俺は咄嗟に立ち上がった。どこまでもどこまでも、性根が腐った奴らだ。後ろにいる取り巻きはなんの反論もせず、まるでガイザは王のような身勝手なふるまいをしている。

 ここで見過ごすこともできる。しかし俺が断ったら、あのお嬢様は……。


「分かった。やる、だからその手をかけるな」

「わかりゃいいんだよ」


 ガイザが俺の肩に手を置いてどこかへ歩いていった。奴の目的は何なのだろうか。ただ彼らを付き合わせたいだけではないということは分かる。


「いやぁ、助かるよアトス君。ボクの恋路に、悪いね」


 ダクトはほぼ勝ちを確信したかのような笑みでこちらへ話しかけてくる。俺はそれを聞き流すと、最後にもう一度だけ女子生徒へ視線を向けた。彼女にしてみれば、勝手に話が進んでこんなことになってしまっているのだ、迷惑極まりないだろう。だからこそ、全力でアトスは行かなくてはいけない。


「放課後、魔法練習場に集合ね。よろしく」

「ああ」


 そういって俺は席に着く。その時から、俺は勝ちへの算段を考えていた。ただ単には負けない。

 騎士だった時から、俺はとんでもなく負けず嫌いなのだ。

 正式な勝負はこれが初めて。戦うからには、どうせなら爪痕を残したいところだ。


 




 

ここまで読んでいただきありがとうございます!

もし気に入ってもらえましたらブクマ、感想、下にある評価ボタンから評価をいただけると作者が跳ねて喜びます。それと投稿意欲がめちゃくちゃ上がります。(小声)

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