04.お泊り魔法特訓
「ここが俺の家だ」
「わあ! こんなに広いんだ!」
目の前にあるのは、最近建てた我が家。未だ見慣れないほどの豪邸だ。
鉄製の正面門を開けると庭園の廊下を歩いて玄関の扉を開けると、温かみのある淡いランタンが両端に設置され、全体的に穏やかな印象を受ける家だ。先ほどまで日が沈み肌寒い風が拭いていたので、家に入り一息つく。
「ほんと持て余してるよ。とりあえず茶でも出すからゆっくりしてくれ」
そういってリビングへティアを案内すると席につかせて俺はお茶を入れる。その途中、俺は今日使えるようになった魔法でお湯を沸かそうと思い。
「ヒートブラスト!」
そういって手から魔法を発する。やはり魔法は楽しいが、お湯を沸かすほどの威力もなく俺の魔法は散っていった。
「やっぱり、現実はそう甘くないか……」
結局、俺は普通に台所を使ってお湯を沸かした。
「ほら、身体回復機能向上の効果がある身を煎じてある」
「ありがとう」
受け取り、ふーふーとお茶を覚ましているティア。ティアも混血だ。学校では苦労も多いだろう、少しでも休めるといいが。
「おいしい……」
「ならよかった。このまま夕飯も御馳走するから待っててくれ」
そう言って俺もお茶を人啜りする。戦争時代、戦闘の合間に呑んでいたお茶。懐かしい味だ。
「アトスって、料理できるの?」
「……男料理だが、嫌か?」
「嫌じゃないけど、私が作るよ。お邪魔させてもらってるし」
俺は正直、食べられれば何度もいい主義なので味に関しては期待できない。ここはティアに任せるとしよう。
「じゃあお願いしていいか」
「まかせて!」
「おう、台所の物は何でも好きに使ってくれ」
そしてティアが料理を初めて数十分、手際よくティアは支度をこなしあっという間に様々な料理が机に並んだ。
「凄いな……」
「でしょ? これでも家事全般得意なのよ!」
豊かな胸を前に押し出して自慢げに語るティアを尻目に、俺は料理へ腕を伸ばす。もう長いこと人の手料理を食べていない、だからこそティアの料理はとても魅力的だった。ぐうっとお腹が鳴る。
「ほらほら食べて! それで感想をくれると嬉しいかな」
言われて、俺は早速一番手前にあるささみ肉を甘辛く炒めたものを頬張る。
「おいしい。久しぶりのこんな旨いもの食べたぞ!」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
照れくさげに顔を赤らめるティア。そういう顔をされるとこっちも照れるのでやめて欲しい。
「ま、まあ。ティアも食べよう」
「そうだね。私も食べることにするよ」
対面に席に座り、さまざまな種類の料理を食べていくと、ティアが不意に口を開いた。
「アトスは、魔法があまり使えないの?」
「うぐ……なんでそんなことを?」
あそこまでボコボコにされているところを見て察したのか、ティアはそんなことを聞いてくる。俺としては答えにくいところではあるがいつかはバレること、誤魔化すのも無駄だ。
「あ、ああ。俺は魔法があまり使えない」
「そ、それでうちの学園に入れたの!?」
「いろいろと事情があってだな……」
ましてや、俺が隣国の騎士だったなんてのは口が裂けても言えないことだ。
「ふーん。詳しくは訊かないけど、それで今後の学園生活は大丈夫なの?」
手前に置いたサラダのトマトにフォークを指して、そんなことを訊いてくるティア。勿論答えは分かっている。
「このままじゃダメだってことくらい、俺が一番わかってるよ。毎日あいつらに魔法でやられっ放しは嫌だ」
「じゃあ、私が教えてあげようか? 魔法」
「ほ、ほんとか!!」
こちらとしては、願ったり叶ったりの提案だ。ティアがどのくらい魔法が出来るかは分からないが、あの学園に在籍できるだけの実力は保証済み。
「うん。ついでに私も特訓しちゃお。私もあいつらを見返してやりたいし」
「じゃあ、これ食い終わっって少し休憩したら早速頼めるか!!」
いいよ、と元気に首を縦に振りティアは笑った。いつもとは違って二人での食事に、おいしいご飯。ティアの笑顔が微笑ましい。
それから談笑しながら食べ進め。ほとんどの料理を完食した。
「じゃあ、片づけはよろしくね。私は休むから」
「って。まあいい。俺がやっとくから休んでろ」
皿洗いを受けて、俺が洗い物をしているとティアが目を丸くしてこちらを見てきた。
「あ、そうか。魔法が使えないんだっけ」
「ん? なんだ?」
「えいっ」
可愛らしい掛け声とともに風の魔法が展開され、皿が勝手に洗われていく。隣の国にいた時は考えもできなかった不思議な光景だ。流石魔法が発展した国。こういうときにも使えるようだ。
「便利なんだな。魔法って」
「魔法にはいろんな可能性が眠ってる。だから私は魔法を学びたいと思ったんだ」
「そうか」
俺と同じように、ティアも魔法に魅せられたということか。
そのまま話は弾み、時刻は夜の八時を回っている。
「よし、じゃあさっき言ってた魔法の練習しようぜ」
「そうだね。私もそろそろかと思ってたんだ」
「少し寒いが、庭で出るか」
「いや、室内で大丈夫だよ」
意外なことに室内で魔法の特訓が出来るらしい。適当に空いている部屋へ行き、その場でティアが人差し指を上にあげて解説を始める。
「魔法っていうのは自分の中でのイメージが大事なの。それは分かる?」
「魔力の流れを感じる、だっけか」
「そうそう。それと、自分が出す魔法のイメージも大事なの」
ティアが言うことをまとめるとこうだ。
魔法を放つには先ず魔力の流れを感じ取って、そのあとに出す魔法のイメージを取る。その際によおり具体的になればなるほど威力は強まる。そのイメージを取りやすくするのが詠唱で、慣れれば無詠唱は簡単だとか。だから初歩的な魔法は皆、無詠唱らしい。
「私は一筋の光が身体を通るような想像をしてるよ」
「想像、ね」
頭に思い浮かぶのは、戦場の地であった。剣で誰かが斬られて、槍で誰かが刺されて、弓で誰かが撃たれて、そんな戦場。その中で、俺は一人立っていて、魔法を放とうとしている。
あの時、魔法が使えたら。そんな思いを胸に、俺は魔法を放った。
「ヒートブラスト!」
手からは、先ほどまでよりずっと大きくなった炎が出た。
「マズい。このままだと家が!」
「アクアショット!」
ティアが詠唱をして魔法を発する。すると水の塊が俺の魔法を相殺した。
「アトスの魔法が思ったより強くてびっくりしちゃった。詠唱していなかったら威力が足りずに家に燃え移ってたかも」
「ほんとによかった。詠唱すると威力が強まるのか?」
「うん。慣れたら無詠唱で魔法を撃てるって言ったけど、やっぱり詠唱したほうがイメージが固まるからね。実際無詠唱っていうのは、戦いで詠唱する暇がなかったりする時用なんだ」
要するに、昼間に無詠唱で魔法を放っていた奴らはただの見栄ってことか。
「なるほど。今のところヒートブラストしか分からないんだ。他のも教えてくれ」
「じゃあ今日は、初歩的な魔法を全部習得しちゃおっか」
「お、いいな! いろんな魔法を使ってみたい!」
その後、俺はティアから水、風の魔法を教えて貰い、初歩的な魔法は使えるようになった。
魔法特訓の内に時刻はだいぶ遅くなり、今日は泊まることになったティアを開いてる部屋に案内した後、俺は自室のベットに入る。
「あの感覚なら、もしかしたら」
魔法の際に想像した戦場の地。あの時の憎悪や憤怒。強くなりたいという意思があれば、強くなれるだろうか。
無限の可能性を持つという魔法。これを、最大限活用しない手はない。
寝転んだ視界の真上、部屋を照らす照明を握った。