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39.空に咲く 下

 表彰式が行われた後、俺は夜中にティアを呼び出した。夜中ではいけない理由は、昼間だと俺が無断で保健室から出るのをフェルヒネが怒るため、そして、もう一つ理由がある。

 全身がぴりぴりと痛むが、そんなことはどうだっていい。


「こんな夜遅くに、どうしたの?」

「少し、話をしたいと思ってな。付いてきてくれ」


 そう言って、俺は歩き出す。それにつられてティアが横に出てきたので、俺は歩幅を調整しながらゆっくりと話し始めた。


「しばらく、話せていなかった気がする」

「そう……だね。今までは毎日のように話してたのに」


 それは、俺たちの関係が変わってしまったからなのか。それとも、何か別の事か。


「アトスがリアーナと試験のペアを組んでいるのを見た時、どうしてかとても悲しくて、それと同時に怒りが湧いてきた」

「……」

「多分、私はアトスと組みたくて、いや組むと思ってたから、それが裏切られてそうなってしまったんだと思う」


 俺も根本的なものは同じだ。ヤシュアにティアがほかの男子生徒と組むかもしれないと聞いて、焦りと不安に襲われて。

 それを隠すように、俺はたまたま会ったリアーナと組むことにした。


 いや、紛らわせていた。リアーナと組むことによって、その焦りや不安を自分の中に隠していた。

 最低だ。そんな自分勝手なことで、他人を巻き込むなんて。


「俺も、ティアと組みたかった」


 言った。本音を。

 そんな俺の言葉に、ティアは目を見開く。


「え、でも……アトスはリアーナが」

「俺は、ティアと一緒に組みたかった。戦いたかった」

「……私も、そうだよ」


 頬を赤らめながらも、しっかりとこちらを見て話してくれるティア。

 美しい白髪が、漆黒の夜闇の中で揺れている。青く透き通った目も、動揺に揺れ動く。


「ティアがほかの男子生徒と組むかもしれないと聞いて、俺は正直どうすればいいか分からなかった。阻止すればいいのか、受け入れればいいのか」

「アトス……」

「でも、もしティアがその男子生徒と組みたいのであれば、俺はそれを呑み込むべきだと思った。だから、俺は組もうといってくれたリアーナと組んだんだ」

「私は……! アトスと組もうと思ってたけど、アトスがリアーナと組んでいるのを見て、デルト生徒会長と」


 ここで、すれ違っていた互いの思いがぶつかる。

 両方、ペアになりたいと思う気持ちはあったのに、どうしてか口に出せなかった。その現状を、今理解した。


「だったら、ペアを組んだ日に、俺の家に来てくれれば良かったのに」


 あの日、おれはティアが来るのを待っていた。しかし、結局ティアは来ずにそのまま次の日を迎えた。


「それは……ごめん。何故か怖くて、行けなかった」

「はっ……俺も、すまん」


 そんなこと、ここまでの話を聞いていれば言われなくてもわかることだ。

 はっと我に返り、頭を冷やすために夜風に当たる。


 今日は格段と寒い。そのために互いの温もりに触れようと距離は近くなる。

 

「なんで、こんなに寒いんだろうね。もう夏なのに」


 重くなった雰囲気を治そうとティアがそう言う。

 それに、俺は何も返すことが出来ない。俺がしてしまったことが原因で、世界が変わりつつある。


「お互いに、ペアを組みたがっていたのに、それを言い出せなくなるなんて、馬鹿みたいだよな」

「……ふふっ、そうだね」


 微笑みが漏れて、ティアの笑みが俺までをも笑顔にする。


「はは、ほんと、なんでこんなことになってたんだか」


 一通り笑い合った後に、ティアは静かにポケットから銀のプレートを取り出す。


「それは……!」


 今まで気づかなかったが、戦闘中にドックタグを落としていたらしい。

 ティアが拾ってくれていのか、感謝しようとして。


「――これは、私のパパのドックタグ」

「それは、本当か……?」

「ここに書かれている名前、ギルヴィア。これが私のパパの名前なんだ」


 それだとしたら、ティアの父は、俺を庇って。


「どうして、アトスがこれを?」


 そう質問されるのは、仕方がない。ここで、嘘をつくことはできないだろう。言わねばなるまい。


「その人は、お前の父さんは、俺を庇って……死んだんだ」

「そう、なんだ……よかった」

「……?」


 困惑する。なんで、聞いてそんなに反応が薄い。

 

「私の中で、家族の記憶は薄いんだ。本当にいたのか、信じられない日もあった。けどこうやって実在してて、残したものが、助けた命があるんだって知ったら、なんか安心した」

「悲しくは、無いのか?」

「悲しいよ。でもいつまでたっても下を向いてるわけにはいかないもん。前を、上を向かなきゃ」


 なんだ、ティアは。

 ――俺なんかよりも、ずっと強かった。

 彼女はとっくに自立していたのだ、俺が心配する必要などなかった。


「本当に、ありがとう」

「感謝するなら。私の父さんにしてよ」


 そう笑うティア。俺はその手を握り、走り出す。


「ちょっ……どこに行くの?」

「この先にもう少し開けた場所がある。そこに行こう」


 そして、一本道の隣に生い茂った木々を抜けて、花が咲いた高台に上る。


「よし、ここでいいだろう」

「なにがあるの?」

「見てれば分かるさ」


 そう言って、俺は夜空を指さす。

 不思議そうにしながらも、ティアは俺が指を指した空を見上げて。


「――」

「綺麗だよな。俺はこの光景に憧れたんだ」


 ――夜空に咲く、一枚の花弁。派手な音と焦げ臭いにを立てて、華麗に咲き誇る。


 今日は、建国記念日の日。日付が変わる瞬間に一回と、日が落ち始める夕暮れに一回この大魔法が放たれる。

 この日を、俺はずっと待ち望んでいた。


「……アトス」


 ティアがこちらへ向いて、俺を抱きしめる。その柔らかな感触を感じて、俺もぎゅっと抱き返した。

 もう離さぬように、離れぬように。


「ティア。俺はお前が、好きだ」


 その瞬間、ティアの目がこれまでにない以上開いた。

 その碧眼が、俺を射抜く。


「……本当に?」

「ああ、本当だ」


 最初はこの気持ちがどういうものなのかわからなかったが、今ならわかる。俺は彼女が、好きだ。

 

「私も……好き」


 ティアの照れた顔が、夜空に舞う花により照らされる。

 そして、違いの激しく脈打つ鼓動を感じながら、少しづつ、顔の距離が近くなっていく。


 息がかかるほどの距離、顔が、はっきりと鮮明に見える。

 そして、ゆっくりと。


 ――俺たちはキスをした。



 魔法は、俺が思い描くものとは程遠くて、期待外れだ。しかし、その魔法によって出会えた今がある。助けられた命がある。

 そのことに感謝しつつ、俺はティアと手を繋いで空を眺めながら、魔法を放った。


「ヒートブラスト」


 勿論、それはあの花のような高さまでは届かない。

 ある程度のところに飛んで、儚く散る。


 しかし、それでいい。

 今から、ここからだ。


 ここから、また始めればいい。

 だって俺は、魔法を学ぶためにここに来たのだから――。








一章fin~


ここまで読んでくださってありがとうございます!

二章への伏線を残して、一章はここまでとさせていただきます。

そして二章の方ですが、投稿日は未定です。


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