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31.戦え(アトス視点)


「で、突っ込むたってどうするんだ。お前は見るからに満身創痍だし、正面から突入ってことも出来ねえ」

「俺はちゃんと戦える。そして作戦だが、隠蔽魔法を使おうと思う」


 これは前提条件としてまず隠蔽魔法を使用できることが出てくるのだが、その点は大丈夫。隠蔽魔法に特化したジャックがいる。

 俺自身も使えることには使えるのだが、今回はそれに特化したジャックの出番だ。


「お前、国の中央本部だぞ? そう簡単に侵入できると思わねえほうがいい」


 そう、流石に隠蔽魔法に対しての何かしらの対策は弄されている。だから俺は、更にもう一つ策を打つ。


「ああ、だから"影に"潜ろうと思う」

「影に?」

「そう。これは暗殺者なんかが使う魔法だが、その分完璧に身を隠すことが出来る」


 だがこれっは欠点があり、影が無いところには移動できない。だからための隠蔽魔法。一瞬だけなら、隠蔽魔法をつかい外に出てもバレないはず。


「試しにやってみるか」


 そして、俺は静かに手のひらを地面に当てて。


「【影潜シャドウ】」


 すると、グリフォンに乗っていた俺はジャックの影に入り、姿を消す。

 これでジャックからすれば全く俺のことを見えないはずだ。


「……すごいな。気配も消えてる」

「伊達に戦ってきてない」


 今まで、数々の職者と戦ってきた。その中に、暗殺者もいた、それだけの話だ。


「俺は、戦ってきた者の攻撃を模範することが出来る。昔からそれは得意だった」

「なるほど血は争えないか」

「……?」


 なんでもないと、ジャックは首を振ると前を見て指を指し。


「見えてきたぞ、あれが中央本部だ」

「あれ……か」


 一目見た感想は、神殿のよう。しかしその表面は冷たい鉄でできており、鉄の柱が無数に円形の建物を囲っている。天井には虹色のガラスが敷き詰められ、外からは見えないように加工が施されている。


「よっと」


 グリフォンから折り、目の前に聳え立った中央本部を眺める。同時にグリフォンの頭を撫で、消した。最後、淡い光になって消える瞬間にグリフォンの鋭い目が俺を射抜く。激励のような、叱咤のような、慈愛のような、そんな目立った。それを目にしながら何ら気にすることなく、ジャックは煙草を吸っている。


「おかしい、護衛が一人も居ねえ」


 重々しいつぶやきだ。まるで煙草の煙に言葉が乗っているようであった。


「そんなにおかしいことなのか?」

「ああ、普段ならば中央本部の周りには少なくとも十人程度には護衛がうろついてる。それが今日は一人もいない」


 確かに、静かにそこにある中央本部からはまるで活気を感じない。もぬけの殻、とも思えるほどだ。これでは、先ほどの作戦などまるでいらない。


「都合がいいだろ。今から潜入するんだ、戦いは避けたいしな」

「まあ、今はそれでいいか」


 含みある言い方をしてジャックは背丈の三倍以上ある扉の前に立ち、煙草の先端を扉に付けた。


「!?」


 すると、じゅっと火が消える音がすると同時に、扉から身を焦がす業火が飛び出る。


「これは、温度検知」

「そうだ、扉に触るとこの罠が飛び出すようになってる」


 いつか、クラスの奴らが俺の椅子に仕込んでいた奴の上位互換だ。あの時とは、威力がまるで違う。


「これだけ警戒してるんだ。さぞ見られたくないもんがあるんだろうな」

「ああ、どうやって入れば」

「心配はいらねえ」


 ジャックは手のひらを扉へ向けると。


「烈風拳」


 風の拳が扉を突き破り、そのまま派手な音を立てて破壊した。


「おまっ、中にいる奴にばれたらどうすんだ」

「外に護衛が居ねえんだ。中にも対していねえよ」


 無茶苦茶なジャックの発言、と思われたが存外、中にはこれまた人っ子一人いない。

 その代わりに。


「ほらな、人はいねえ」

「人は、ね」


 そこには、獲物を狙い廊下を彷徨う魔獣たちが蔓延っていた。道理で人がいないわけだ。魔獣に警備を指せるなんて、常軌を逸している。


「見るからにそう強そうな魔獣はいねえな」


 ジャックがそう言って余裕そうに炎の球を浮かべる。しかし、長く続く廊下の奥を見ると、明らかにこの辺にいる魔獣とはレベルの違う魔獣だらけで構成されている。


「序盤はそうだな。だが後半は違う、気は抜かない方がいい」


 魔獣には隠蔽魔法が効かない。人間とは違う、特殊な嗅覚が微量な魔力の流れをも感知するのだ。そのためやむを得ず戦闘はしなくてはいけないわけだが。


「なら、これで掃除だ」


 ぱちんと、大きな音を立ててジャックが手を叩く。すると、ジャックを中心に弧を描くような炎刃が現れて。


「俺も伊達に魔法戦闘法の教師じゃないんだ」


 優雅に廊下を歩いていく姿はまるで伯爵のような、しかしその前身は命を揺るがすものだ。少なくとも魔獣が無数に存在するこの空間ではありえない歩行だが。


「ギィァァァァァァァ!!」

「グラァァァァァァァァ!!」


 ジャックの周りを渦巻く炎刃が、果物を斬るかのように軽く魔獣の胴体を焼き切っていく。


「お前はまだ、温存しておけ」


 そう言うと、ジャックはふたたび歩き始める。その後をついていく形で俺は進んでいった。ジャックが歩いた後には、文字通り何も残らない。灰すら燃やして、その炎は揺れ踊る。

 デルトよりも強い。


 信じられない程の魔力量。研ぎ澄まされた動き。歩みを見ているだけでそれが分かる。


「お前は一体」


 何者なんだ、と質問されるのを嫌ってか、ジャックは俺の言葉を遮り口を開く。


「この先には、おそらくレックがいる」

「ああ、他の賢人会も」

「それはいねえな」

「……?」


 中央本部なのだから、国の主要たるメンバーはここにいるはずだが。


「今、レック以外の賢人会の奴らは外交で忙しい。そんでもって出張中だ。レックしかいないからこそ、こんな好き勝手出来てるんだろうよ」

「そういうことだったのか」


 てっきり、賢人会の全員の頭がイかれているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「実質この国の政権を一人で担っている。これじゃ君主制と何ら変わりはねえ」

「……」

「まあ、その原因を作ったのもお前の責任だがな。騎士さん」

「その件については、悪かったと思っている」


 最後の決戦で俺がしてしまったこと、その後悔や自責の念、叱咤が消えることはないけれど。


「俺はあれをしたのを、間違いだったとは思ってない」

「……ふん、それでいいんだ」


 薄く笑い、俺の頭に手を置いて、ジャックは胸ポケットから一枚の写真を取り出し見せつけた。


「これは、お前の父さんか」

「義父だ。俺は孤児で、拾ってもらった」

「どうして、そんなものを今」


 廊下を歩き切り、そのまま賢人会の広間へと続く派手で重厚な扉に手をかけて。


「その前に、頼みが一つある」


 呼気の鋭いジャックの覇気に気おされながらも、俺は頷いて。


「ああ、なんだ」

「俺が終わるまで、戦わないでくれ」

「ッ! どうして!」


 俺のその問いに、ジャックが答えることはない。ジャックが言っていることはすなわち、俺が死んだら、戦ってくれという意味で。そんなの、戦わないのと同意義ではないか。俺は戦いに来たのに。戦えと、そう言われに来たのに。

 そして、ジャックは最後の一本の煙草を捨てると。


「写真の意味は、今に分かる」


 そして、扉が開いた先。上半身を純白に、下半身を漆黒に染め、骸骨に角が生えた紋章を胸元に刻んでいるローブを着た男が立っていた。

 顔は見えないが、纏うオーラが今まで相対してきたどの者よりも――

 

 "歪んでいる"


「だろ、クソ親父ぃ」

「出来の悪い息子を持つと、父親も苦労するものだ」


 両者低い唸り声で答え、開幕一転、激しい魔力の衝突を俺は察知していた。

次回、一章最終バトル開始!


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