表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/40

30.戦え(ノティア視点)

「表彰式のほうですが、少々不都合が起こっています。今しばらくお待ちください」


 会場にそんなアナウンスがかかる。優勝はアトス・リアーナペア。準優勝は私・デルト生徒会長だ。

 全身に包帯を巻き、顔も見えないデルト生徒会長の横のベットに寝かされながら、私は考える。


 聞こえてしまった。先ほど、フェルヒネ先生とアトスが話しているところを。

 デルト生徒会長の様態や、会場のボロボロに崩れた無残な姿を見ればわかる。今アトスはまともに動ける状態じゃない。いくら彼が強いといっても、流石に限度はある。それが、私の手の届かない範囲だとしても。


 記憶が曖昧だ。デルト生徒会長と夕飯を会食していたとこで完全に止まっている。


「目が覚めたか」

「! はい!」


 実は少し前から目が覚めていたのだが、息を殺して黙っていたのでそう答えるしかない。


「惜しかったね。もう少しで優勝だったのに」

「……いいんです。これで。アトスが勝ってくれれば、それで」


 ついこの間まで、身近にいるつもりだったけれど。

 今はもう、遠く遠く、遥か彼方に行ってしまった気がする。


「それより、デルト生徒会長は大丈夫なんですか? 見たところ、かなりの重症ですが……」

「あ、ああ。そっか、あんた知らないんだね」

「……?」


 どこか苦しげなそのつぶやきに、私は首を傾げる。あまりの超次元な戦いにおいていかれた私を気遣っているのだろうか。


「デルトは学園長とつながっていて、魔術こそかけられていないがほぼ学園長の操り人形だったんだ」

「生徒会長ですし、学園長とつながっているのは当たり前じゃないですか?」


 唐突に訳の分からないことを言い出したフェルヒネ先生に私はそう言う。


「……学園長レックは、酷い純血至上主義者だ。混血の者を、隣国の王を殺し再び戦火を切って混血の国を滅ぼそうとしている」

「……!! そんな!!」

「そしてレックが求めてやまない戦争を止めた張本人、アトスをもその手にかけようとしている」

「うそ……!」


 ベットから身を乗り出し、私は起き上がってフェルヒネ先生と向き合う。冗談を言っている雰囲気ではない。

 息を殺して聞いていたアトスとフェルヒネ先生との会話を思い出す。


『まだやることがあるのかね』

『――どうにもそうみたいだ』


 てっきり、ガイザを弟子にする約束や、レイヒー王との会話だと思っていたが。

 彼は、まだ戦うつもりなのか。


「デルトは模擬戦と言いながら混血の生徒に致命傷を与えていた。デルトのかなりのもんだ。まあ、もうあの体じゃ魔法を撃つ事も出来ないが」

「……魔法を撃つことも!」

「試合の最後、レックがデルトに魔術を仕込んで自爆させた。その代償だ」


 唐突に大量の情報が流れ込んできて、頭の中を整理する暇もない。そんなに、私の知らない裏で、物事が動いていたなんて。アトスはそれも一人で抱え込んでいたのだろうか。

 そうだとすれば、ジャックを魔術で操っていたのもおそらくレックとなるのだろう。


 酷く混血を嫌っていると、そう言っていたのを覚えている。


「だが、こうして生きているのは彼、アトスの御陰だ」

「どうして、ですか……?」

「爆発する直前、アトスは相手の受ける攻撃を半分身代わりとして受ける魔法をつかった」


 ――。


「……」

「もっと、早く言ってくれれば」

「?」


 早く言ってくれれば、止めることもできたのに。場違いな怒りを抱きつつ、私は思考を止めない。

 自分勝手な感情で随分と迷惑をかけてしまった。なんとしてでも、彼を。


「絶対に、アトスには帰ってきてもらいます」

「……ノティアさん、といったかい」

「は、はい」


 初めて名前を呼ばれて、思わず背筋が伸びる。歴戦の、戦い抜いた人々を見てきたものの面構えは、とても険しい。


「このままだと、アトスは死ぬことになる」

「!!」


 何の前触れもなしに告げられる死の宣告に私は動揺する。

 アトスが、死んでしまう?


「全身火傷を負っている、動くのもつらいだろう」

「……私は。私は……」


 この場に及んでも、まだ蹲ってしまうのか。私は。

 情けない。変わりたい。だけど、変われない。


 人間なんて、そんなものだ。

 変わりたいと思い、変わろうとしたって、根っこの部分が変わらないのだからどうしようもない。

 私の、人の目ばかり気にしているような薄汚れた性根では、何もすることが出来ない。


 ふと、ベットに目を運べばそこには乱雑にされた布団がそのまま放置されている。そしてその横には。


「リアーナ、ヤシュア」

「身体的な傷はないが、レックにかけられた魔術で昏睡してる」


 二人とも、私の良くしてくれていた。いつも分け隔てなく接してくれて、私のことを思ってくれていて。

 リアーナの方が私なんかより数倍アトスにお似合いなのに、幼稚に嫉妬心なんて抱いて。


「私、どうしようもないな」

「……」


 その独り言を、フェルヒネ先生は黙って聞いていた。否定することも、肯定することもない。それが今は心地よかった。


「どうしようもないってわかっていながらいつも行動することが出来なくて、それじゃだめだ。行動に、起こさなきゃ」


 自分を鼓舞する。どうしようもないことが分かっているから、どうすればいいかも分かっている。

 行動に、起こす。

 なにより、アトスの隣に居たいから。


 結局は、欲望だといわれても。それでも。私は。


「行ってきます」

「場所は分かるのかい?」


 フェルヒネ先生がそう言う。確かに、場所は分からない。表彰式が行えないといっていたから、ここにはもう居ない。

 どこだ、と考える時間すらも惜しい。がむしゃらに行くしか方法は。


「多分だが、国の中央本部である賢人会のとこだ。そんな奴相手で、勝てるわけがない。デルトには勝てたかもしれないが、スケールが違う」

「それに、一人で」

「賢人会はただの老骨の集まりじゃない、たった数人で国を支えてきた化け物たちだよ」


 絶句した。敵は強大で勝ち目も薄く、心の離れ離れ。そんな絶望的状況。

 だが、それはもう足を止める理由にはならない。


「ありがとうございますフェルヒネ先生。やるべきことがあるみたいだから」


 憧れの人の言葉を真似て、面と向かって言った。


「私も行きたいんだが、今も怪我人が流れ込んできてる。だから治療の手は止められないんだ」

「大丈夫です。先生の分まで、私がやります」


 はっきりとそう行って、手にかけていた保健室のドアノブを下げ、扉を開け駆け出す。


 そして、アトスが持っていたドッグタグをぎゅっと握り。


「頑張るよ、パパ」


 そう誰にも聞こえない声で呟いて、私は風魔法を展開し空に飛んだ。






祝!ナンバリング30!!

もう少しで一章最後の山場です。


使っていたPCが動かず仕方なくスマホから投稿しております……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ