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02.初体験

「昨日から告知していた通り、今日は魔法を実際に放ってもらう」

「何に打つんですか?」

「うむ、それはこの魔法人形だ。これの損壊具合によって判断させてもらおう」


 教室から少し移動した場所にある魔法訓練所に連れていかれ、俺らは今魔法人形とやらの前に立たされていた。

 昨日は本を借りれなく不安の種は山のようにあるが、やるしかあるまい。


「では、出席番号順に放っていきなさい。壊れても魔力で修復する、思う存分に撃っていいぞ」


 この学園の出席番号は成績順になっている。あの王様が俺をどんなふうにこの学園の立ち位置にしたいのかは謎で、俺は最後の一つ前。ようするに結構な成績が低い奴として扱われている。

 周りは談笑しながら自分の順を待っているが、当然俺にそんな友はいない。おそらく昨日の女生徒が言っていた混血だから、なのだろうと思う。思えば、クラスにも純血の奴がほとんどで、混血の奴は俺含め三人。四十人中三人だ、かなり少ない。まあ混血の差別を受けると知っているなら、入学してこないものなんだろう。


「おいおい……どうすれば……」

「あの、大丈夫かい?」


 後ろから声がかかり、俺は振り向く。そこには俺と同じ混血の生徒が立っていた。

 緑の髪に黒い瞳。背丈は平均的な俺の身長よりも一回りほど小さく、弱弱しい印象を受けた。


「君も混血なんだ、苦労するね。お互い」

「あ、ああ」


 適当に相槌を打ち、俺は首を傾げる。


「だが、俺が困ってるのは別のことで何だ……」

「? どうしたんだい?」


 この生徒は最後尾。つまり一番成績が悪い。頼っても大丈夫だろうか。しかしこの最高峰の学園での最下位だから役には立つか? そんな思考が頭をよぎる。

 同じ混血ということもあり、親しく接してはくれている。だが魔法が使えないなんて言ったら……。まあ、縋る思いで頼んで見るとしよう。


「実は俺、魔法が使えないんだ。頼む、お手頃な魔法を教えてくれ」

「ええ!? 君どうやってこの学園に入ったんだい!?」

「それは追々話すとして、なあ頼む」


 驚いてかけていた眼鏡を落としかけ、男子生徒は狼狽える。しかし、一度瞑目すると深呼吸して息を整え。


「よくわからないけど、これで魔法が打てなかったら退学になっちゃうかもしれないしね。同じ混血としてそれは避けたい」

「教えてくれるのか!!」

「勿論さ。さあ軽く手のひらを正面に押し出して」


 言われた通りに俺は手のひらを前に出す。これは眠れない夜などに俺が魔法を撃てたらなあと妄想でやっていた格好だ。まさか、これで撃つのか?


「そしてイメージするんだ。自分の身体に行き渡ってる魔力の流れを、それを一気に手のひらに集める」

「お、おう」

「それでヒートブラストと言ってごらん」

「ヒートブラスト」


 すると、俺の手のひらが熱くなる感覚に襲われて閉じていた目を開けると、そこには球状の炎の塊が、俺の手のひらから放たれていた。


「こんな初級魔法じゃ普通は無詠唱なんだけど、最初はイメージも取りにくいからね。これで乗り切るしかないよ!」

「十分だ、十分! 俺、初めて魔法を撃ったぜ……!」

「あはは、ほんとに不思議な子だね……」


 苦笑いされているのに気づき俺は興奮していた頭を冷やす。これでなんとかやれそうだと思った矢先、俺の前の生徒が順番になり魔法人形に魔法を放つ。


「ハッ!」


 無詠唱で、いとも簡単にその生徒は辺り一帯を焼き野原にして見せた。まわりもそれが当然だとばかりにしけた面をしている。

 おい、これは大丈夫だろうか。


「次、アトス」

「は、はい」


 遂に俺の順番が来た、覚束ない足取りで指定の場所に立つと、手のひらを魔法人形の方へと向ける。


「頑張って!」


 後ろから激励を受けながら、俺は意識を手のひらへと集めた。こいつを、壊すくらいの威力を。

 魔法はイメージがほぼを占めると言っていた。イメージさえ、どうにかなれば――。


「ヒートブラスト!!」


 声を振り絞り、手のひらに魔力を集めた。火傷しそうなほどに手のひらは熱くなる、思わず俺は熱さに手を振った。


「熱っ。これは、さっきの威力を超えたか」

「……すごい威力だな」

「お、」


 先生が感嘆の息を漏らして俺が魔法を放った魔法人形の方を見ている。まさか、ここで実力を発揮しちゃったりしたのだろうか。


「……傷一つついてないぞ」


 現実はそう甘くない。感嘆はまさかの弱い方だった。見てみると、魔法人形は嘲笑うかの如くピンピンとしている。これじゃ公開処刑にもほどがある。


「おいおい、あいつあれだけ恰好づけた癖にあんな弱いぞ」

「やっぱ混血は駄目だな。落ちこぼれしかいない」

「とんだ恥さらしだ」


 口々に罵声を浴びせられる。先生はそれを耳にしているのかいないのか、何も注意はしない。俺は顔を俯かせて拳を固く握った。

 言い返す言葉はない。郷に入っては郷に従え、この学園が純血と魔法至上主義というのなら、それは仕方のないことだ。

 

「何もそこまで言うことないんじゃないかな」

「お前混血なんかを庇うのかよ? あいつは魔法も見ての通り、正真正銘の落ちこぼれじゃねえか。なんでこの学園にいるんだか」

「ほんとだよ。もう退学にしちまってもいいんじゃねえか」


 一人の生徒が俺を庇う発言をすると、更に罵声が響く。正直、彼らの言うことも正しい。俺は魔法を甘く見すぎていた。彼らも彼らなりに研鑽を積んで今この学園にいるのだ。それが魔法を今日初めて撃ったような奴にのさばられては困るというものだ。


 だが俺にだって誇りはある。混血というのを馬鹿にされるのは、違うだろう。


「…………」


 しかし何も言うことが出来ないまま、その授業は終わった。そして、一人の男子生徒に呼び出される。


「おい、ちょっとツラ貸せよ」

「何の用だ」

「すこしお話がしたいだけだ」


 引き下がることもできずに俺はついていく。人目を気にしているのか、誰もいないような薄暗い廊下に辿り着いた。

 そしてその角を右に曲がると、複数の男子生徒が群がっていて。


「よお学園の恥晒し」


 低く威圧するような声音だ。咄嗟に警戒態勢を取るが、派手にやるつもりはない。


「何故、こんなにも人がいる?」

「あー、悪ぃ。言ってなかったっけ? 俺だけじゃないって」


 連れてきた本人である男子生徒は後ろに下がり、代わりに強面でゴツイ体格をした生徒が現れた。


「恥晒しには教育が必要だって思ってな。魔法ってのを教えてやるよ」

「なに――ッ!」

「ははは! こんなんで苦しんでやがるぜ。ろくな魔法耐性もねえな!」


 風の刃に身体を吹き飛ばされ、そのまま壁に衝突する。胃の中のものが込み上げるがなんとかそれを抑えた。自然と反撃に映ろうとする身体をぐっと抑えて、そのまま力を抜く。

 そして顔を上げようとして頭を踏みつけられ、うつ伏せになりなにをすることもできない状態だ。


「隣国出身の混血な負け犬。お前は良いところが一つもねえ。退学でもなんでも、しちまえよッ!」


 背中を蹴られて俺はもう一度壁にぶつかった。顔は、もう上がらない。上げようという意思すらなかった。


「むかつくんだよ。お前みたいな弱い奴がなんでこの学園にいる。平気な顔で居座ってんじゃねえよ!!」


 なにか、ぷつりと俺の中で弾けた気がした。体術でも、剣でもあればこいつらを負かすことは容易い。しかし、それではだめだ。魔法でこいつらをいつか絶対に見返してやる。

 強くなる。混血でもここまでやれるんだと証明するために。


 それで本当に、未だ心の中で続いている戦争を止めるんだ。


 その後も何発か分からない程にに蹴られ殴られ、魔法を撃たれた俺は朦朧とした視界の中、これがノティアが味わっていた痛みか、と場違いな感慨を得る。 よくもまあ、あんな華奢な身体で耐え抜いていたものだ、と。



 ――差別も迫害も戦争も、あってはだめだ。俺がこの腐った学園を、根底から変えてやる。


 最後の最後、そんなことを思って俺は意識を深い闇の中に落とした。



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