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26.地獄へ落ちろ 上

「グリフォン、お前が必要だ」


 それは大胆な賭けだった。極度の集中、そして大量の魔力を消費する。魔力が尽きれば魔法の発動どころか身体の活動までできなくなってしまう。しかし、これしか方法がないのだ。人数不利、この場合は場数だが、それも同等まで持っていけるし、グリフォンには強い炎耐性が備わっている。


「ジャック、お前の缶製品は、俺が有り難く使う」


 いつも決まって観客席の端に立っているが、今日は何処にも見当たらないジャックに感謝しつつ、俺は地面を見据えた。

 地面には大きな魔法陣。これは成功の証だ。


「なっ!? お前、何を召喚した?」

「いっただろ、グリフォンだよ」


 少しづつ、その全体が露わになる。

 獅子の顔に鷲の巨躯。紛うことなき魔獣の王。逸話によれば魔法での討伐はほぼ不可能とまで言われた魔法の天敵だ。


「ギィィアァァァァ!!」

「うわあっ!」


 その美しく巨大な翼を大きく振り、場にティアが放った風魔法よりも強い風が蹂躙する。それこそ、魔法を喰ってしまうような威力だ。

 物理で捻じ曲げていくその様は、どこか自分と似ているような気がしてならない。

 だって俺も、剣で魔法と戦っていたのだから。


 俺に服従を示すグリフォンは次なる指示を待っているのか、会場の隅まで吹き飛んだデルトとティアを見ながら鼻を鳴らした。余裕、といった気構えだ。


「君、そんなことまでできるんだね。伝説上の魔獣なんて、初めて見るよ」

「俺もつい最近知ったな」

「!! ふざけたことを言うなああ!」


 怒り狂い、接近戦へ持ち込もうとしてくるデルト。怒りに冷静さを欠いたか? 接近戦なら、有利は俺にある。

 剣を握り、俺は構えて。


「はっ」


 姿が見えなくなる。どうたら考えなしに突撃してきたわけではないらしい。だが、一度見た技にもう一度引っかかるつもりはない。手と手を合わせ音を出し、その反響を確かめる。

 邪魔な視界を閉じ、耳にだけ集中して。後ろだ。


「ぶはっ!!」


 確かに後ろだったはずなのに、正面から氷の礫がものすごい勢いで飛翔し飛び込んできた。それが溝を抉り、胃の中のものが出そうになるのを必死に抑えた。目を開き、前を確認すると。


「ティアか……」


 デルトが仕掛けようとしたのは罠で、本命は正面からの氷魔法攻撃。まさか、そんな、一瞬で?

 それこそ、長年のタッグのような連携だ。俺ちおいるより、ティアは向こうの方が輝いている。

 無駄な思考が戦場で混ざった、それは、命の有無を下す。


「――詰めが甘いんだよ」


 背後から、奇襲に成功したデルトが先の鋭利な杖を仕向けてくる。マズい、このままでは。


「グルァァァ!」

「かっ!」


 それをグリフォンが蹴り、デルトは派手に壁へ激突する。コンクリートで作られた壁に穴が出来、そこにデルトは身を沈めている。しかし、直ぐに這い出ると。


「舐めた真似を! このたかが魔獣ごときが!!」


 デルトがもう何度目か分からない怒りの言葉を発して、ティアの下へ歩み寄った。

 それを見届けて、俺はグリフォンと向かい合う。


「ありがとな」

「グォン」


 言葉は分からなくとも、通じ合える何かがある。グリフォンは確かに俺に頷いた。


「お、おい。生徒会長、今日なんか変じゃねえか?」

「お前もそう思ってたか。今日は何というか、勢いがすごいよな」


 そんな囁き声が頭上から降り注ぎ、俺は眉を顰める。

 きっと自分の中で作り上げたキャラを演じていたデルトは、今日この場でそれが崩壊し始めているのに気づいていない。激情に駆られて周りまで考える余裕がないのだ。

 それは、絶好のチャンスともいえる。今までさんざん新入生や混血をいたぶってきたのだ。ここらで一つ大恥をかいてもいいだろう。


 そんなことを考えていると、ふと違和感に気づく。いつもは用意された座っているレイヒー王が、いないのだ。必ず毎試合を観戦していた王が。ジャックがいないのは、まあ納得がいく。あいつあ自由気ままだし、そこら辺をうろついているのだと考えれば妥当だ。


 しかし、俺に激励を送ってくれたレイヒーはこう言っていた。この目にお前の試合を焼き付けておくと、そう言ってくれた。

 それが、何故居ない? そこまで、薄情な王だとは思ってもいないのだが。


「どう、したのかな」


 炎塊を投げつつ、俺が観客席を見回しているのに気づいたデルトはそんなことを訊いてくる。

 動きが幾らか鈍いデルトの魔法を斬った時だった。


「ばーか」


 そんな声と共に、俺が斬った炎の塊が爆発し、爆風に体が後ろへ飛ぶ。グリフォンの羽毛にキャッチされ、なんとか壁に激突は防いだが。


「もう隙は与えない」

「……ッ! 上か!」


 上から追撃してくるデルト。グリフォンが俺を乗せたまま宙に浮き魔法を放つ。物凄い爆音と共に、紫電が一直線にデルトめがけて落ちていく。


「おい混血! 防壁を張れ!!」

「【氷壁アイル】」


 抑揚のない声でティアは魔法を詠唱し、デルトを守る。そこに少しの違和感を感じるも、言及する暇はない。


「お前、魔法まで撃てたのか」


 グリフォンをなだめつつ、俺は次への攻撃を態勢を取った。


「魔剣」


 もう一つの魔剣を錬成し、合体、はしない。それをするだけの魔力の余裕がないのだ。底が見えてきている。

 だから、こうする。


「二刀流、か。来い」

「はああああっ!」


 グリフォンが背中から風を起こし俺が加速。そのまま跳躍してデルトの懐へ入る、だけではない。更にはデルトの杖を剣でパリィした。弾かれた杖が地面に落ちる。


 そして腹部を蹴って剣を横薙ぎ、しようとしたとき。


「おいおい、どうしたんだい? やってみなよ!」


 嗜虐的に顔を歪めるデルト。彼は両手でティアの肩を掴み、前面に押し出した。要するに、自分の身代わりだ。

 そんなことをされているにもかかわらず、ティアの表情は乏しい。まるで何も感じていないように、平然とただそこに立っていた。


 そこで、抱いていた違和感が決定打となる。


「――お前、ティアに何をした?」


 声を低くして、言う。それに周囲の観客が畏怖の声を上げる。一般人には、少し威嚇しすぎたか。だが関係ない。俺が言っているのは、目の前の、デルトにだ。


「何もしてないさ。少し、洗脳作用のある魔術を"食べさせただけだ"」

「なに……? 食べさせた?」


 そう言うと、デルトは目の前のティアの肩を外して、俺のところへ来て耳元で囁く。


「魔術を仕込んだ食物を食べたとする。それが胃の中で消化されたら、魔術はどうなると思う?」

「それは、破壊にならないのか……!!」


 魔術は破壊されれば、その効果を失う。しかし、胃の中での消化がもし破壊にカウントされないのだとしたら、それは、魔術をかけるのと何ら変わりなく、その当人に影響を与える。


「そうだ、その通りだ。物分かりがいい奴は好きだよ。俺は、お前みたいなやつが、好きで、大嫌いだ!!」

「ッ!!」


 俺と話しているうちに魔法で引き寄せていた杖を掴み、暗黒色の直線が爆ぜた。


「お前、それはっ!!」

「君なら、この攻撃が何かわかるかな」


 一目見ただけで分かる。それは、もう目を閉じていても、全ての感覚を閉ざしていてもわかるかもしれない。


「お前、その魔法をどこで!!」


 一点集中型の、魔力砲撃だ。目の前が真っ赤になる。許せない。こいつが、リアーナを。

 横を通り抜けた魔力砲撃のまりょっくで分かった。こいつが、リアーナに魔力砲撃を喰らわせた。魔力探知が強く反応している。


「あはは、起こるかい? 絶望を感じているかい? その顔が見たいんだ! 俺はただお前にあの日の屈辱を味わわせてやりたくて、一心不乱に鍛錬して、試行錯誤してきた! もっと絶望しろ! もっと自分に失望しろ!!」

「おま、おまええええええええええええ!!」


 思いのままに剣を振るう。すかさずデルトはティアを前に押し出し俺に攻撃をさせないようにするが。


 ――ティアは傷つけない。今は、デルトに。


 苦痛の限りを味わわせたい。


 残りの魔力のほぼ全てを使って、レーヴァテインを合体させ、気血の剣を創る。

 これならば、俺の思ったものしか斬れない。気血の剣の能力は魔獣に対して飛ぶ出た効力を発揮するだけではない。思ったものを、自由自在に斬れるのだ。

 俺の横薙ぎが、ティアをすり抜けてデルトの下へたどり着く。鎖骨の横に裂傷が出来た。


「なっ!! なんで、俺に!」

「お前は屑だ。最強でもなんでもない、ただの狂気に満ちた屑だ」

「ははっ! 俺を屑だっていうのかい! だったら君はなんだ! 俺を倒す正義のヒーローにでもなったつもりか!」


 何と言い返せばいいのか言葉がつまずく。俺はなんだ? 騎士でもなく、英雄でもなく、ヒーローでもなく、おそらく普通の人にもなれない。だったら、答えは――、


「俺は、リアーナやヤシュア、ティアの友人だ」


 一閃。

 デルトの腕が地に落ちる。

 その腕からは、信じられない量の血が溢れ出ており。


「あああああっ! 腕がああああああ!」

「降参しろ、直ぐに治癒魔法をかけないともう一生片腕になるぞ」

「降参する! それをするのは君の方さ」

「……何を」


 戯言だと、一蹴することはできなかった。

 デルトが残った片腕で指を鳴らし、頭上に大きな丸い水晶が浮き、何か映像が映し出された。


「もし負けを認めるんだったら、彼らを救ってやる」


 その先には、一歩たりとも動かないリヒト―王や、ジャックの姿が映っていた。


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