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20.理想の強さ

 ひしひしと、会場の熱気を背負いながら俺は意識を集中させていた。

 そして全身の骨を鳴らし、俺は左手で右腕の手首を掴み方まで上げて斜めに振り下ろした。

 するとざわついていた心が一気に平静を得る。


 混血だなんだのと、言っている奴はいつか絶対にそんなこと言えなくしてやる。


 隣に目をやれば、リアーナはあわあわと手を振るわせて緊張している。

 まともに動けなさそうな緊張の仕方。彼女は戦えるだろうか。

 まあ彼女が戦わなくとも、俺ひとりで十分なのだが。


 最初に地を蹴ったのはガイザ。一瞬の内にして姿が消え後ろをとられた。なるほど、これが彼の実力か。

 見ただけで分かる。彼は強い。ただ、全てにおいて甘い。


「呼吸が乱れてる。敵に位置を教えているようなもんだ」

「!?」


 後ろから杖を振りかざし俺に向かって炎魔法を放とうとしていたガイザへ回し蹴りをして体勢を崩す、その隙に俺は後ろに回って身体を掴んだ。そして――。


「ヒートブラスト」


 初歩魔法であるヒートブラストを撃つ。ガイザの溝が炎弾に抉られ、派手に吹き飛んだ。


「ぐはっ!!」

「ガイザ! そのまま下がってて!」


 すかさずそこをフレアがフォローする形で割って入り、目の前に障壁魔法が展開される。

 高周波の風で構成されるこの壁は触ろうとすれば手が肉片と化す。


 だが、斬ってしまえばそんなのは関係ない。


「魔剣レーヴァテイン、来い」


 魔剣を握りしめ、俺は目の前の壁を見やる。


「なっ……! あの一年、創造魔法を使いやがった!」


 観衆がどよめいているが、こんなもので驚かれても困る。


 この剣にも慣れてきたころだ。いくら魔力で忠実に再現したといってもやはり冷たい鋼の感触とは違うものだ。しかしこの魔力特有の生暖かさと、手にじんじんと感じる魔力の流れも悪くはない。そろそろ全力を出せるか。


「そんなので斬れるもんかしら?」

「お前、自分を過信していると痛い目を見るぞ」


 そして、俺は剣を軽く一薙ぎする。しかし、壁は壊れず。


「ふん、これで時間が稼げる、今の内にガイザを――!?」

「液体のようなこの壁は斬ってもまた戻ってしまう。だったら、その一瞬で間を通ればいいじゃないか」


 そう、薙いだ一瞬だけで来た隙間。それを俺は通ったのだ。隠密部隊に入っていたからこそ出来ることが活かされている。

 案外、虫唾が走るくらい嫌だったあの部隊も今となっては良かったのかもしれない。潜入、裏工作。騎士としてあるまじきことを繰り返してきたと思う。


「そんなっ! できるはずがない!」


 そう言って杖を振るうフレア。


「【獄炎火ヘルファイア】! 焼かれちまえッ!」


 会場を包み込むようにして地獄の業火が荒れ狂う。それを斬って裂こうと思い剣を上にあげると。


「そうはさせねぇ! 【風神劇ウェルブレム!】


 俺の手元に瞬発的な暴風が破裂して、剣が弾かれる。マズい、炎に直撃してしまう。

 咄嗟に身を回転させ横に回避、そのまま下に向かって掌を向ける。


「――」


 迫りくる獄炎の熱を全身に照り付けられたまま、俺は考える。

 この場を回避するには、風魔法を地面に放って跳躍するしかない。しかし、俺のそのままの威力では到底自分を持ち上げるまではいかない。だから、リアーナから借りたこの杖とやらを信じてみることにした。


 この杖は魔法の威力を増長してくれる。なら、可能性はある。

 全身火傷を負ったまま戦ったこともあるが、今日はこの試合だけではない。なるべく傷は負いたくないのだ。


「ウォルフ!」


 俺は杖に魔力を注ぎ込みそこから風魔法を放つ。普段ならば、微風しか出ないが。


「うわっ!」


 信じられない程の大きな風が俺の手を中心に巻き起こり体が宙に浮く。

 そのまま俺は獄炎から免れて、リアーナの元へ着地した。


「アトス! 一人で行ってはいけません! 支え合いましょう」

「あ、ああ。悪い。」


 ぶっきらぼうに答えて、俺はガイザのほうへと目を向ける。

 二人は確実に息が合っていて、この日のために練習していたのが伺えた。ならば、その上を行くのみ。


「今度はこっちから行くぞ!」

「あ、アトス! また一人で……!」


 地を蹴って進みながら剣を作り、フレアの前に立ちはだかるガイザに剣を向ける。


「ッ!」


 それをみて防御態勢に入ったガイザの股下をスライディングで経過。すぐに足を上げガイザの背中を蹴る。


「はえぇ……! 追い付けねえ!」


 完全に裏を取った状態で、俺は体勢を崩したガイザに魔法を放つ。


「【水龍刃アクアブレード】!」


 俺も日々進化を続けている。これは最近覚えた中級魔法だ。龍の形をした鋭利な水の波紋が広がり周囲を一掃する魔法。その波に呑まれるのを確認して、俺はフレアのほうへと進撃を開始する。


「ちっ! 私だけでも、あんたに一矢報いる!」

「――どうして、俺がそこまで憎い?」

「!?」


 フレアがそう言って魔法を撃とうとしたときには遅い。俺は魔剣でフレアの首を絡んでいた。

 低い声を出して、俺は威嚇するようにそう問いかける。


 俺が何をしたとは聞かない。ただ、どうしてそこまで憎んでいるのか、それなのに何故悲しみも抱えているかが不思議だった。


「……私の兄さんは戦争で隣国の奴に斬られて、それで、死んだ」

「だから、俺を憎むのか?」


 そう俺が言うと、フレアは悲痛な表情を浮かべる。そして何か糸が切れたように。


「ああそうさ! 全部お前のせいさ! お前が! 伝説の騎士が! 現れた日から戦争の状況は次第に変わっていった。うちらアマガレテス共和国が勝つはずだった試合は、血で汚れて無くなった!」

「だが、負けてはいないだろう」


 和睦、という形で終了した戦争。戦争をしていたのだから、血が流れるのは仕方ないことだ。それでも俺は、なるべく血は流さないように、頑張ったのに。


 ――それでも、認めてはくれない。


 全部お前のせいだ。

 何度も言われた、投げられた言葉。なんで、俺は、頑張ったのに。誰よりも努力したのに。


 ――俺のせいにするな。死んだのは、そいつが弱かったからだろう。


 俺よりも努力したというのか? 絶望に追いやられたというのか? 家族も何もかも失って、明かりも希望もない薄暗い闇の中で泣いていた俺よりも、よりも。俺が剣だけに注ぎ続けた日々に、お前らは何をしていた?

 グリフォンが出た時だって、お前らは何もできなかったじゃないか。


 言われる筋合いは、ない。


「――」

「ぐはっ!!」


 フレアの腹部に拳を叩きつけ、地に伏せたフレアの背中に足を置く。


「俺が憎いのだったら、俺よりも強くなって服従させてみろ」

「何を……!」

「この世では、強いものが全てだ。死闘を繰り広げて、それでも立っている者だけが真の勝者だ。弱い者は、それに従うしかないんだよ」


 嫌でも、散々見せつけられてきた現実。それを、常識として知らないこいつらには教えてやる必要がある。

 それを知って尚、まだその口は開けるのかと。


 背中に追撃で蹴りをお見舞いして、呻くフレアを見下しながら、俺は嗤った。


「口先だけの奴に、掛けられる言葉などない。俺が弱いと思ったか? 弱いから、俺を対象にして嬲って、優越感に浸っていたのか?」

「……ッ!」


 さらに蹴って、続ける。


「お前らの理想とする強さは、そんなものだろう。だから、俺はお前にその強さというのを見せてやる」

「アトス! それ以上は!」


 リアーナが抑制に入り、俺はフレアから離される。随分と攻撃を受けたフレアは今意識を保つのに必死だ。


「キュア」


 治癒魔法をつかい、俺はフレアの外傷を消していく。だが、心の傷までは消すことはできない。

 もっと深い恐怖を、刻み込んでやる。


「アトス!!」


 再び、攻撃に出ようとしたときだった。ペチンという大きな音がして、俺は自分がビンタされたのだと気付く。

 横を見れば、そこには目を潤わせたリアーナが立っていた。


「私は、アトスがこんなことをする人だとは思っていませんでした。常に正しい強さを持った人だと、信じてました」


 言われてハッとする。リアーナは、泣いていた。俺を騎士として、ひとりの人間として認めてくれていたからこその涙。


「協力しようって言ったのに、一人で戦って、私は邪魔でしたね」

「ちが……そんなんじゃ」

「先生、もう試合の結果は分かるでしょう。終わりにしてください」


 リアーナが審判の教師へ向けてそういう。相手が降伏というまで、または死の危険性が出るまで続けるのがこの試合だ。だが、結果は一目で分かった。

 会場全体がしんと静まり返り、恐怖の目が向けられている。


「ア、アトス・ベルゴーン&リアーナ・マクレ―アペアの、勝利……」


 それを聞くと、リアーナは踵を返して準備室のほうへ歩いていく。


「待ってくれ! リアーナ!」

「あなたは、ひとりで大丈夫でしょう」


 最後にそう投げかけられる。

 俺は倒れているガイザとフレアに治癒魔法をかけると、追いかけるように準備室へ走った。

 

 しかし、そこにリアーナの姿はなかった。乱暴に戦闘で使うはずだった杖が投げられていて、俺はそれを手に取る。

 まだ、微かな温もりが残っていた。


「俺は、こんなのを求めてたんじゃ……」


 分かって欲しい、理解して、そっと温もりで包んで欲しい。

 家族のない少年は、いつでも孤独の渦の中にいた。準備室に暗い沈黙が落ちる。


 そして、はっきりと分かってしまった。


 ――抱きしめてくれる存在など、いないのだと。






正確には二十一話ですが、ナンバリング的には遂に二十話です!

読んで貰っている読者様には感謝しかありません。


これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!!

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