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17.波乱の幕開け

「今日から中間試験が始まる。皆ペアの申請書は出しているな」


 担任の教師であるプレイド・バクマーンは朝のホームルームで各々の顔を伺いながらそんなことを言う。ちなみに、担任の名前は俺自身最近知った。寝ていたりまともに話を聞いていなかったりで、どうやら何度も聞き流していたらしい。


「この試験は学年が関係なく上級生とも戦うことになる。そのため一年にはあまりスポットライトが当たることはないと思うが、十分に心して挑んで欲しい」


 これも最近知った情報だが、どうやらこの試験は学年別ではないらしい。生徒の成績を決める中間試験だというのにそれはなんなんなのだと抗議したいところだが、上級生ともペアが組めるし、そこから試験は始まっているということだった。

 リアーナは戦闘には不慣れだが、魔法の才は十分だ。少なくとも初歩的な魔法とその応用しかできない俺よりは、随分とマシだ。


「場所は街の中央ホールで行う。この試験は毎年恒例の街での行事にもなっているのだ」


 つまりは見世物になれという訳か。先生の話を聞いていると、隣の生徒たちの話声が耳に届いた。


「聞いたかよ。今日の試験、どうやら隣国の王も来るらしいぜ」

「まじかよ。大丈夫なのか?」

「なんでも戦争が終わって互いに友好関係を築くだとかなんとか、まあどっちにしろ頭がおかしいには違いねえな」


 王が、来る……?

 何を言っているのだろうか。それが本当だとしたら、王はこの国のまだ恨みを持っている奴らにいつ襲撃されてもおかしくない状況になる。彼らの言う通り、頭がおかしい。

 しかし、考えてみればあの王の頭がおかしいのは元からか。自ら戦場に赴いたりと、無茶なことをしている。

 その分彼の実力は確かで、元は剣聖と呼ばれていた。まあその称号も、今となってはどのくらいの意味を成すのかは分からないが。


「中間試験も前途多難だな……」


 王が来るのだとしたら、王の動向にも気を遣わなければいけないだろう。それにガイザフレアペアとの勝負。そしてなにより、ティアが誰と組んだかが気になる。昨日ティアが来なかったのを俺自身が気にしていてろくに声を掛ける事も出来なくなってしまった。向こうからも声はかけられないし、本格的に彼女との溝が出来てしまったように感じる。


「では、三十分後に中央ホールに集合だ。ペアと作戦会議でも魔法練習場で練習でも準備をしておくように」


 そう言って先生が教室から出ていく。俺はリアーナの方にちらっと目をむけると、リアーナもこちらを見ていたようで目が合った。


「アトス。今から対戦表を見に行きましょう」

「対戦表……?」

「ええ、この時間ならもう空いてがどのペアかわかるはずです。おそらく初戦はガイザさんたちだと思いますが」


 リアーナがそう言って俺の腕を引いてくる。


「なんでわかるんだ?」

「この試合、相手を指名できるんです。あまりに実力が離れていたりすれば承認が下りませんが、私たちとガイザさん達ならおそらっく承認は降りると思います」

「なるほどな……」


 完全に作られたか試合か。試合の運営がやろうと思えば気に入らない奴を確実に負けへと導く事も出来る。この学園がどれだけ混血を嫌っているかを知っている俺からすれば、何かしら妨害工作などをしてきそうなものだ。

 そして少し廊下を歩いた先、壁に大きな魔法陣が描かれていて、皆それに手を伸ばしている。


「あいつらは何をやってるんだ?」

「あれが対戦表です。手を伸ばした人の相手が誰なのかわかるんです」

「ということは、自分たち以外の相手は分からないのか」

「そういうことになりますね。試合の行方を悟らせないようにするためでしょう」


 この試験は街の行事にもなっている。盛り上げるための一つの演出だろう。

 試しに俺も魔法陣へ手を伸ばしてみる。


『アトス・ベルゴーン&リアーナ・マクレ―アの相手は、ガイザ・フォーエスト&フレア・カルストン』


 やはりあいつらは俺たちを相手に指名したらしい。そのまま対戦相手がガイザ達になっている。

 そのまま魔法陣がルールの説明をしてくれた。


『この中間試験は勝ち残りのトーナメント戦となります。敗北者はその時点で試合終了。一日目は全部で五戦。Aブロック、Bブロック、Cブロック構成で二日目にブロックの勝者たちが戦います』


 その魔法陣の説明に、俺は疑問を抱く。


「まってくれ、その構成じゃ生徒全員が出場できなくないか」

「あーそれはね……」


 気まずげにリアーナは顔を伏せて言う。


「この試合にある人が出るってなって、大半の人が辞退しちゃって……」

「肝心な試験で辞退するほどの人とは、どんな人なんだ?」

「それは、生徒会長だよ」


 何処かで聞いたことのあるような名前がリアーナの口から出て、俺は頭をひねる。

 思い出したのは、魔法模擬戦でのダクトの一言。確か僕の兄は生徒会長だとかなんとか言っていた覚えがある。つまりはデクトの兄が出場することになったというわけだが、なぜ大切な試験を辞退するような真似をしたのだろうか。


「それはね、最凶なんだよ。生徒会長は」

「最強?」

「うん、戦った者は必ずトラウマを植え付けられる。現にそのせいで退学者まで出てるほど、生徒会長は最凶

なの」


 言葉だけの最強はあまりに薄っぺらく、空虚に完成しているものだ。しかし、俺はその最強を、ひしひしと肌で感じ取っていた。当てられただけで常人なら身震いするような鋭い覇気と、これは溢れ出る魔力だろうか。その二つが襲い掛かってきていた。

 徐々にこちらへ向かってきている影。一歩歩くだけで異様な存在感が放たれる。


「少し、退いてもらっていいかな。対戦相手を確認したいんだ」


 いつの間にか身体が強張って棒立ちになってしまっていたらしい。気がつくと目の前にそいつは立っていた。

 青巒色の少しうねった髪。丸眼鏡をかけていて、一見穏やかそうには見えるが鋭い目つきがそれを相殺している。とてもじゃないが生徒会長などには見えなかった。


「すいません」


 その場を退き、俺は魔法陣へと手を伸ばしている生徒会長を見る。立ち姿に隙が無い。俺が戦場でも数人しか経験していない程洗練された身のこなしだ。これは、要注意人物に指定しておいた方がよさそうだ。


 そしてその生徒会長の影を追う小さな影がある。おそらくそいつがペアだろうと思い静かに目を向ける。


「――」


 絶句した。あり得ないと自分が目で見ている光景を脳で否定したくなるような、これは夢だと現実逃避してしまいそううな、そんな光景。



 ――生徒会長のペアは、ティアだった。

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