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15.友情とは

 一ヶ月が経った。随分とこの学園にも慣れてきた。クラスの奴らとの関係は以前よりは前進したとはいえまだまだ良好とは言い難い。お互いに干渉しない。そういった感じだ。

 そして、更に悪化してしまったと言えるのは、クラス以外の奴らだ。どこから漏れだしたのか、全くもって身も蓋もない悪評がどんどんと広がっている。俺がクラスメートを殺しそうになっただとか。隣国からのスパイだとか。そんなようなのばっかりだ。

 あまりいい気はしないが、その悪評により俺に恐れて話しかけてこないやつが大半だ。それでも俺を叩こうと絡んでくるやつは後を絶えないが。


「ここ、いいかな」

「あぁ」


 俺が食堂で一人昼食をとっていると、隣に少年の声がかかる。

 ジャックの事件の際、リアーナに治癒魔法を施してくれた勇者の一人だ。後日話しをして、仲良くなった。名はヤシュア・ボールドというらしい。


「アトスは凄いよね。まさか噂の伝説の騎士が君だったなんて」

「お前は、怖くないのか? 俺は、お前らの敵だったんだぞ」


 俺が騎士だったというのは、クラスの奴らだけでとどめている。少し殺気を放しながら言うだけで彼らは恐怖しその口を閉じるというのだから扱いはこの上なく楽だが。ましてや周りからの評価を気にしない俺にとっては。


「そんな、怖いなんてないよ。君は僕たちの為に戦ってくれた。その事実は忘れないよ」

「何度もお前らの為じゃないと言っているだろう」

「じゃあ僕たちは勝手にそう思ってるよ」

「そうか……」


 なんだか釈然としないが、彼らにそう思われてしまっている以上仕方がない。とうに捨て去った騎士道の中には誰であろうと救える命は救うというものがある。今思えば、それを守ろうとしていた時から、俺は万人を助けることなど投擲できなかったが。


「えと、それで急なんだけどさ。君は、男女の友情ってあると思う?」

「男女の、友情か」

「うん、嘘偽りのない互いを思え合えるものだよ」


 唐突にそんな話題を振られて困惑する俺にヤシュアは言う。


「恋愛じゃなくて、友愛。友達としての、男女の関係だよ」

「そう言われてもな……」


 物心つく頃には戦場にいた俺は恋愛に物凄く疎い。というかまったく知らないといってもいいだろう。そのためこの質問に言えることは限られてくるが、率直な感想をいえばいいのだろう。


「あるんじゃないか。俺もティアのことをよき友だと思ってる」


 これだけは、自身があった。きっと向こうもそう思っているだろう。


「じゃあ、アトスはノティアさんが他の誰かとそういう関係になったら普通にいられる?」

「それは……」


 言葉が止め、考える。ティアが別の男子生徒と交際をしているところ。

 もし、それが現実になったとしたら。


「そうしたら、距離を取ってしまうかもしれないな……」


 自分だったら、他の異性とあまりに仲がいいのは嫌だからだ。こんなことを考えるのは、初めてのことだった。


「そう思ってしまうのはアトスがノティアさんのことを少しでも友だと意外としてみているからだよ」

「俺が、ティアを……?」

「そうさ」

「何故、急にそんなことを?」


 俺がティアを、意識している……? 衝撃が走りフォークで刺して口に運んでいた赤い球体。トマトを落とした。

 そして、問う。何故そんなことを言い出すのかと。


「見たんだよ。ティアさんがほかの男子生徒から男女試合を出ようって言われてるのを」

「そ、そうか」


 確かにティアは顔も性格もいい。優良物件には間違いない。混血や、純血混血を気にしていない者からモテるのは当然のことだろう。


「それで、ティアはそいつと組んだのか?」

「それまでは分からないな。聞いてみたら?」


 今日は俺の家での魔法特訓がある。その時に訊くのは一つの手だ。

 なにか心の中でもやもやするものがのこり、食事が上手く喉を通らない。かろうじてあと少しだったハンバーグを食べきって、俺は立ち上がった。


「少し、考える」

「うん、それがいいと思うよ」


 そうして、俺は食堂を出て中庭へ向かう。中庭はこの昼休みの時間、人があまりいなく穏やかな時間が流れる穴場だったりするのだ。ここは俺のお気に入りスポットだったりする。


 真鍮製の洒落た門を通り、中庭へと入る。小さい公園のような、箱庭のような感じだ。レンガで囲まれた花壇、生い茂った芝生に小さい川が気持ち良い音を立てて流れている。天井はガラスでできていて、降り注ぐ日光が眠気を誘った。


「よっと」


 その小さな公園に生える一本の木に凭れかかり、息をつく。ベンチもあるのだが、どうにもこっちのほうが落ち着く。長年戦場にいた代償ともいえるか。


 俺にとってはティアは仲のいい友達だ。そうだ。それ以上でも以下でもない。

 まるで自分に言い聞かせるかのように心の中で反芻する。もしティアがもう組んでいたのだとしたら、俺にはどうする事も出来ない。


 多分、これはティアも感じていることだとは思うが、俺らは互いに干渉しすぎないように意識している。だから俺はティアのことを深く聞かないし、ティアも俺が騎士だったと知ってからも何も聞かれていない。

 でも、そういうのはどう聞くものなんだろうか? そもそも俺たちは仲がいいのだろうか? ただの魔法を教える側、教えられる側ではないのか? 友達とはなんだ? 恋愛とは、好きってなんだ。


 ぐるぐると思考が回り最早何を考えようとしていたかもわからない。

 そうして、自分という殻に籠ろうとしていた時だった。


「何をしているんですか?」


 蹲った状態の俺に、上から降って出る声。その声は、聞いたことがあるもので。


「……リアーナか。少し考えごとをしていただけだ」

「そんな風には見えませんでしたけど」

「うぐ……」


 ぐうの音も出ない。なにを考えているか分からないのに、考え事とは言わないのだ。


「いいや、男女試合のことをな。誰と組もうか」


 ティアがいない以上、組める人は限られてくる。第一に俺には気軽に話せる女子というのが極端に少ない。

 ティアと、リアーナと、それから……。


「あ、リアーナ」

「……? どうしたんですか?」


 首を傾げてこちらを覗き込んでくるリアーナ。そうだ、ティアのほかにも、もう一人いるじゃないか。


「ティアは、もう相手が決まっているのか?」

「いや、まだ決まっていません。期限ももう少しですので、焦っています」

「なら、俺と組もう」

「え?」


 目をきょとんとさせてリアーナが数回瞬きする。まさかといった表情だ。


「いやか?」

「そういうわけじゃありませんけど……」

「なら決まりだ。昼休みが終わらない内に申請書を出しに行こう」

「え、ちょ……」


 リアーナの腕を引いて立ち上がる。先ほどまでのもやもやが嘘のように晴れる。いや、隠れた。

 気にしなくていい。いいんだ。誰と組んだって、どうせ俺が戦えばいいのだ。


 そう、一人で。俺はいつだって、そうしてきた。

 味方に頼ることは、教わらなかった。他人とのかかわり方も、すべて、幼い時にどこかへ置いてきた。


 だから、気にする事はない。


誤字報告をいただきました!すごく助かります!

作者も極力なくそうとは思っているんですが、どうしても誤字はあるものなのでこいつミスってんなーくらいの気持ちで頂けると幸いです。


そして少しづつ落ち着いてきたのでまた毎日投稿を再開できたらと思います。時間は八時から十時の間です!(今日は遅くなっちゃったけどね!)


というわけで、今から改稿作業の方に行ってきます……。

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