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14.秘められた悪意

 翌日の朝。俺はクラスの連中に囲まれていた。囲まれる、というのには嫌な思い出しかないが、今日は違った。


「その、俺が悪かった。お前を見下してたし、なによりそんな俺を助けてくれたことに感謝しかねえ」

「なんだ急に。俺は夢見が悪いから剣を振っただけだ」

「それでもだ。それでも俺はお前に命を救われた。ありがとよ」


 らしくもないガイザがそんなことを言い出し俺は困惑していた。確かにあの時のガイザは見るに堪えない醜態をさらしていた。口だけとはまさにあの事を言うのだろう。実力が伴わなければ、この世では恥をかくだけだ。ましてや、戦場で何かは。死んでいないのが奇跡とも言える。


「わ、私たちからも言わせてください。」


 次におじおじと前に出てきたのは黒髪に漆黒の瞳を持った女生徒。緊張しているのか少し頬が赤い。


「な、何もできない私たちを助けてくれてありがとうございます……!」

「もういい。感謝の言葉は貰った。これ以上は邪魔だ」


 そう言って俺は周りの奴らに手で払うようなポーズをとった。


「な、なによそれっ! 私たちはきちんと感謝しようと思って……あんた少し強いからって調子乗ってんじゃないでしょうね!?」


 後ろに控えていた女生徒が飛び出す。それは、学園生活の初日、ティアのことを蹴っていた奴らだ。


「別にそう思うならそれでいい」

「アトス。その辺にしときなよ」


 隣に居たティアが俺をなだめるようにそう言う。ティアもよく、自分を蹴るような奴を擁護しようと思えるものだ。俺は、さらさらない。


「あっそ。行こ行こみんな。こんなやつにお礼なんて言うことないよ」

「そうだな。口だけ達者でいざとなったら地に伏せているだけしかできない奴らに言われる言葉はないな」

「……なに?」


 女生徒は目を鋭くして低く言った。


「俺がリアーナに治癒魔法を求めた時、誰が魔法を施した? その中に純血の奴らはいたか? お前らなら治癒魔法くらい簡単に出来ただろう。なのになんでやらなかった?」

「……それは……」


 女生徒が口ごもって、周りも顔を俯ける。


「やはりお前らはそんなものだ。魔法が弱いだ強いだと言っていながらいざとなったら使えない。お前らこそ、この学園にいるのが不思議じゃないか」

「なによあんた……! 今度の男女試合。覚えておきな!!」


 負け惜しみのような女生徒の悲痛な声。そして聞き覚えのない単語を聞いて、俺はティアの方へと顔を向ける。するとティアは少し苦笑いを作った後。


「今度、男女ペアで魔法試合をする試験があるんだ」

「なるほどな……」

「そこであんたに大恥かかせてやるよ。覚えておきな」


 それを最後に、みな散っていく。授業がもうすぐ始まるからだ。そして俺も席につこうと思ったところを。


「あ、あのさ。それでその試験なんだけど、私と――」

「――アトス。皆はどっか行っちまったが、正直お前の言うことは正しい。俺は何もできなかった。それでお前とのはっきりとした力量差を感じた……だから、俺に訓練をつけてくれないか」


 ティアが何か言いかけた時にガイザが俺の肩に手を置き、そんなことを言ってくる。無論、答えは決まっている。


「断る。俺はお前に稽古をするなんて御免だ」

「そう言われると思ってんだ、だから何もなしにとは言わねぇ。今度の男女試合で、お前に俺と戦って、認めさせてやるよ」

「……認めるか。いいだろう」


 さらさらガイザに剣を教えるつもりはないのだが、それならばさもチャンスを与えているように思える。それでくじけたのならば、ガイザも諦めがつくだろう。そう思い、俺はそのガイザの提案を受けることにする。


「俺はさっきのフレアと組む。お前も相手を探しとけよ」

「ああ、分かった」


 先ほど激昂してどこかへ立ち去った女生徒の名前はどうやらフレアと言うらしい。彼女とガイザが組むのならば、気にせずに勝つことが出来そうだ。

 ほっと一息ついて、俺はティアへ言う。


「今日の放課後は魔法の練習だったよな?」

「うん……」

「じゃあまたその時、帰り迎えに行くよ」

「ありがとう」


 そんな言葉を交わして、ティアは教室へと踵を返していく。なにか困った顔をしていたが、それはまた後で聞けばいいだろう。

 今日の一時間目の授業も、魔法戦闘術だ。コツコツと、廊下を歩いてくる音がして教室の前で止まった。そして。


「よし、授業を始める。昨日はその、悪かったな」


 クラスの連中にはジャックのことは説明済みだ。瞳に魔術が仕込まれていたと聞いて全員納得してくれた。


「さあ早速授業と行くところだが、まともにできる最初の授業だ。今日は少しお話をしてから始めようと思う」

「雑談、ですか……?」

「まあそうだ。俺の単なる妄言だと思ってもらっていい」


 ジャックは教壇に立ち手に持った教材を置いて俺の方をちらりと見た。それに応答せず、俺は一番最後列の席から頬杖をついて聞いていた。


「この学園の総人数、お前ら知ってるか?」


 唐突に、ジャックが訊く。それに皆はまちまちと答える。


「一クラス四十人でそれが三十クラス。一学年1200人でそれが三学年あるから3600人……」

「その数字、あまりに多すぎると思わないか? それに、お前らはそこまでの生徒を見たことあるか?」

「まあ、でも最高峰の魔法学園ですし、そのくらいはありえるんじゃないですか?」


 一人の生徒がそういうのを聞いて、ジャックは見下すような哄笑をすると。


「なにも知らないんだなぁ。お前らは」

「さっきからぐだぐだ何を言ってるんだ。早く言ってくれ」


 俺がそう言うと、ジャックは両手を上げて。


「お前らは、隣国との戦争が終わったと思ってるだろ」


 俺の眉がピクリと動く。終わったと思ってるじゃない。終わったんだ。確かに、あの戦争は終戦した。


「はい、しっかりとした話し合いの元と聞きましたが......」

「こっちの頭はそんなこと微塵も思っちゃいねぇのさ。まだその内に闘争心を秘めてる」


 遠回しに話すジャックに苛立ち、俺は席からたつ。そして手を大きく振って。


「何を言ってるんだ、戦争は終わった! もうあんな無意味なことはやるべきじゃないんだ!」

「お前も複雑な心境だろうよ。今度はこっちの味方として戦場に赴くんだ」

「......なに?」


 俺がこっちの味方として、戦場に出る?

 何を馬鹿なことを。俺はそんなこと、絶対にしない。


「この学園に入学する際の書類の同意欄に、学園が崩壊の危機や状況に陥った場合。生徒は全力を尽くしてそれを打破しなくてはならないってのがある」

「それは......」

「つまりは理由なんてでっち上げられて、お前らは出兵される」

「な!?」


 生徒たちの間に動揺がざわめく。次に来たのは不安、恐怖といった負の感情。そして最後は怒りだ。


「お前らはこの国の次なる兵士の卵なんだ。だからこんなにも馬鹿げた人数が用意されてる」

「それ、本当に言っているのか……?」


 声が自然と震えた。そんなこと、あっていいのか。また、あの戦場に俺は戻らなくてはいけないのだろうか。それは嫌だ。それだけは嫌だ。それに何故、和睦したはずなのに。


「この学園はもともと兵力増長のためにできた学園だ。お前の言いたいこともわかるが……おっと、授業を始める」


 廊下には、学園長が歩いてきていた。この時間帯には決まって学園の見回りをしているのだ。ちらりと学園長の方を見る。その目には、途方もないような悪意が秘められている気がした。

 ジャックは煙草を吸うと授業を始める。どれも戦争で見たような魔法ばかりだ。魔法戦闘術なんて授業がある時点で、警戒しておくべきだった。

 この学園にはもう俺のやりたい魔法はない。一発、ここら辺で何かでかいことを仕掛けた方が良さそうだと静かに思った。

更新が遅れて申し訳ありません。少し立て込んでいました。

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あと、今回は急いで書きあげましたので後で大幅に改稿したいと思います。

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