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11.死の遊戯会 下

「お前に好きな方を選ばせてやる。ここで死ぬか、俺に助けを乞うか」


 そんな問いを掛けられる。これだけの魔獣を、奴はいとも簡単に抑え込んだ。俺の目の前で、剣を持って。

 どれだけの修業を積めば奴へたどり着けるか分からない。それだけ絶対的な溝が、俺たちにはあったのだ。これを、この歪んだ問いをもってして俺は理解した。はっきりとした力量差を、理解した。




△▼△▼△▼△▼




 俺は問いをかけた。この考えを、正すためには誰かが悪役になる必要がある。だったら、俺がなってやる。

 守るために取ったこの剣だ、過程はどうであれ、俺はその目的を捨てるつもりはない。


「さあ答えろ。死ぬか、生きるか」

「た、助けてくれ! こんなとこで死ぬのはごめんだ!! 頼む!」

「いい声も出せるじゃないか」


 応答を聞いて、俺は攻撃を仕掛けてきているキメラに突き刺した剣を抜く。

 確かに、心臓を突き刺した感触はあった。しかし、キメラに刺していたはずの場所には傷はなく。目の前にピンピンとしている。どうして死なない? 心臓を壊して、死なない生物がいるというのか。


「下がっていろ。俺が仕留める」


 そう言って、俺は剣でクラスメートたちの拘束を斬る。そしてガイザを蹴り奥へ押しやった。


「さて、心臓をさして死なないなら。どうするべきか」


 今までこういう敵に遭遇したことがない以上、対策は取りようがない。なら、戦ってその内に攻略法を見つけ出していくしかない。

 おれが目の前で剣を構える。だが自分の心臓を貫いた相手を、キメラは見向きをしていなかった。

 魔獣の本能が混ざり合って、弱者から狙っていく残虐で効率的な本能が、開花していた。


「それはさせないっ!」


 急いで剣を振りかざす、それを頭の角ではじかれ、信じられないような馬鹿力に押されて地面に尻をつく。

 その隙に、キメラは俺の横を掻い潜ってガイザの方へと近づいていく。


「うわああああ!! く、来るなぁ!!」

「ギィアァァァァァァァァァ!!」


 無論、キメラがその声に反応するわけもなく、キメラはガイザの腹へその角をねじ込もうとして。


「だめです!」


 リアーナが、ガイザの前に飛び出し、身を挺して守り抜いた。その代償は大きい。胸の部分に、キメラの角が突き刺さっている。捉えた獲物に噛みつこうと、キメラは尻尾の蛇を動かし、狙いを定めている。


「させねえ!」


 咄嗟に立ち上がり、蛇の胴体を斬った。それで少し怯んだキメラから距離を置くためにリアーナを抱えて後ろへ飛び下がる。


「おい! しっかりしろ! 大丈夫か?」

「わたしは……代々、魔術師の名門家で、力こそが全てだと教わってきました……力が無くては、なにも救えない、拾えない、死に方さえも、選べない」

「……!」

「それが、ようやくわかったきがします。ばかですよね、こんなことになって……かはっ」


 リアーナが吐血する。物凄い量だ。即刻に治療しなければ、死んでしまう。


「誰か! このクラスに治癒魔法に長けたやつはいないのか! ただ使えるだけでもいい! こいつに、治癒を……!」


 俺の縋るような懇願に、応じる声はない。それはいつしか、帰ってこなかった兵士たち声のことを思い出させた。

 あの血で薄汚れた戦場。狂気の咲くその地では、俺以外誰ものこならなかった。


 失いたくない。助けてやりたい。俺に力があれば、こんな斬るだけの代物で、何が出来る。

 俺は、人を助ける為に剣を取った。だが、そもそもそれが間違いだった。もっと別の何かをやっていれば、こんな状況にならなかったかもしれない。失った者も、助けられたかもしれない。


 しかし、そんな仮定に意味はない。


「お前ら! もう拘束は解いただろ!? なんでその場で蹲っているんだ! 仲間を助けようって、思わないのか!?」


 リアーナを除いいても、この場でまともに動けている者はいない。皆、キメラに怖気づいてその尻を地面から離せられない。


「だめだ、どいつもこいつも……!」


 吐き出すように愚痴をこぼす。所詮、こいつらはこんなもの。戦いを知らないくせに、実践など一度もしたことがないくせにプライドだけは高くて我純血だとの賜って、混血を見下す。

 戦場では、そんなどうでもいいようなことを気にしている者から死んでいった。


「キュア! キュア!」


 そこに、淡い光が灯る。魔法を始めて撃った日に、教えてくれた背丈の低い少年だ。


「ぼ、僕は、少しでも協力するよ!」

「助かる」

「私もできる!」


 そして、ティアもリアーナの前で膝をつき治癒魔法を放ち始める。これで、延命くらいはできるはずだ。


「ガギャァァァァァァァァァ!!」


 躊躇なく、鋭利な爪で斬りかかるキメラに、俺は刃を突き立てた、今度はキメラが押される。バランスを崩して、後ろへと回転した。流石に対応が早く、見た目の割に速い動き、なるほど、魔法戦闘術担当のジャックが創った魔獣だ。


「ラピッドブラスト」


 足の裏に火を爆発的に起こし、加速する魔法。俺はそれを使ってキメラの股下を潜った。そして、完全に裏を取った形で剣を上に振るう。一刀両断。身体ごと、心臓を絶ったが。


「シィィィィィィィィ!!」


 死んだのは身体部分の獅子だけで、頭部分の馬、尻尾の蛇はいまだ健在だ。その歪な生の在り方に、反吐も吐くような不快感を覚える。蛇も再生しているところから見ると、獅子も復活すると見た方がいい。

 俺の思考はどこまでも冷え切っていた。幾度と切り抜いてきた死地。今更思うこともない。ただ、生存への道を歩むだけだ。


「太刀筋は、ここだ」


 美しく、斬られたことにも気づかない一閃。火花のような光が待って、キメラの身体が肉片と化す。


「お、お前は、なんなんだ……!」


 ガイザが、そんなことを言った。


「俺は、アトス・ベルゴーン」

「私前から思ってたんだけど、その名前……やっぱり」

「……言ってみろ」

「で、伝説の騎士……!」


 ふっと、薄く笑った。その笑みが、彼らにはどう届いたのかは分からない。

 どこまでもどこまでも、俺は剣に纏わりつかれているのだなと、完全に手放すことはできないのだと、そう思った。


「あぁあぁ、俺のキメラがこんなんになっちまって。少しは加減を知りやがれ」

「かける慈悲などない」


 闇から這い出る如く、ジャックが突如に現れてそんなことをぼやく。


「お前は知らねえだろうが、こいつに常識は通じねえ」

「今更だ。もう死んだ」

「おっと? そうかな」


 要領を得ないことを言うジャックに当てつけとして一発お見舞いしようとしたとき、異変は起こった。

 キメラの身体が宙に浮き、肉片同士が混ざり合って一つの球体になった。そこから徐々に形が出来上がっていき、完成したのは。


「魔獣は瀕死の危機に陥った時、逃げるという本能がある」

「――」

「おっと復習だ。こいつに常識は通じねえ。こいつが瀕死の危機に陥った時、こいつは逃げも隠れもしない。生き残る本能として、強く、完全体となる。これが、グリフォンだ」


 目の前には翼の生えた鷲と獅子の混ざったような生物が、鋭い眼光を発していた。

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