ハロルド・フィンリーという少女(その4)
侍女に着せて貰ったドレスはワインレッド
シルクのもので肌触りよく、無駄な装飾品がないが金色の糸で施された薔薇の刺繍は細部までこだわり抜かれていた
「そういえば、他のドレスを見たのだけれど、赤色が多かったのには意味が?」
その質問に脱いだ寝間着を洗濯かごに入れていた侍女の手が止まる
「やっぱり、お嬢様、何日もの高熱で、記憶が…」
此方を勢いよく振り向けば
おろおろした様子で、医者に見せなくては、いや奥様、旦那様が先かしらと独り言のように話している
まずい、医者なんかに見せたらややこしくなりそう
「ちょっと、待ってよく聞いて」
侍女の名前も知らないのは致命的だ
だか、ここは話術で切り抜けるしかない
侍女と目が合った所で話を始める
「確かに、あの時の熱のせいでぼんやりとしか思い出せないこともあるけど日常生活には支障が出てないわ
それに、お父様やお母様に心配かけたくないの
だからお願い、たまに変なことをするかもしれないけど間違っていたら、そっと私に教えて欲しいの」
お願い、理解して
「お嬢様……分かりました!このケイリーにお任せください!」
よし、名前も知れたし
ケイリーの自信に満ちた瞳をみれば理解したことは十分に分かった
「では、お嬢様
我が主ハロルド・ルイス様がこの土地、スオンを治める領主様なのはもちろんお分かりですよね」
それから、ケイリーはこの土地の歴史と我が家が何故赤色を身に付けるかを長々と補足も入れて話した
簡単に纏めると、ここの土地一帯は昔の言い伝えでは荊に覆われており小さなお城が建っていた
城の周りには白い薔薇が沢山咲き誇り、争いもなく民と領主は穏やかな日々を過ごしていた
しかし、ヘイルとの国境ギリギリに建てられた城は
戦争の最前線、荊のお陰で敵の進軍を遅らせることが出来たが、火攻めとして荊を利用されてしまう
民が逃げ惑う阿鼻叫喚の中、その時代のハロルド家当主 はできる限り城へ民を誘導し、襲ってきた敵を魔鳥を使って一人で援軍が来るまで守り抜いたという
援軍が来た時には敵軍はほぼ壊滅状態で荊が燃え盛るなか、白かった薔薇は血で真っ赤に染め上げられ赤が印象的であったため、王より功績として家紋に赤色を使うことを許されたとか
公の場では赤を身に付けて出席することで公爵の中でも上位に位置することを知らしめる為らしい
今に生まれててよかった
戦争時代生まれてたら生きてなかった気がする